第十章 戦いの始まり~侵入~
俺達の隊は今、火印隊と共に京都へ向かっている。
火印中佐の隊は俺があの施設から東京に戻った次の日に面接をした時の人達から光中将を抜いたメンバー、具体的には火印中佐に光牙大佐、闇導大佐、氷華少佐、北条中尉だ。
時々、敵に出会すが全て俺と火印中佐、櫂の能力で対処できている。
もうかなり京都―邪鬼の帝の本拠地に近付いたのではないだろうか。
そこで、火印隊の車から通信が来る。
『敵の本拠地まで三キロを切った。車から降りるぞ』
もうそんなに近くまで来ていたのか……。
火印中佐の指示で車から降り、大津で出会った二人組の"D"が、仮に戻って来るとすればこれらの車の使う恐れもあるため、呪術符を貼っておく。解呪なしで車に乗ると車が爆発するという仕組みだ。陽月の帝と邪鬼の帝では呪術形態が違うため、恐らく敵は解呪できないだろう。
全員が毘沙門天呪を体に貼り、走り出す。
少し走ると敵の本拠地が見えてきた。外からは巨大な壁しか見えないが、途中、敵から得た情報では、中の構造は地上には中央に大きな塔があり、その周りに少し小さい四つの塔があるだけでほとんどの施設は地下にあるらしい。
そして本拠地と共に待ち伏せる、およそ二百人ほどの敵兵も見えてきた。
「全て倒してから中に入る」
火印中佐からの指示だ。
この戦いを早く終わらせたいから火印中佐は大津で二手に分けた。
なら……こんなところで足止めを食らう訳にはいかない!
敵軍中央に意識を集中させ―。
「湧き起これ、陽炎!」
すると、そこから炎の揺らめきが立ち上る。
そこにいた敵兵が悲鳴を上げ、焼け死んでいく。
「おお~、飛ばすね~」
横にいた蓮が話し掛けてくる。
「じゃあボクもっ」
そう言い、敵の方へ文字通り飛んでいった。
多くの敵兵の視線がそっちに向く。その隙に巴と通が敵兵を倒していく。
櫂は魔法弾で着々と敵の数を減らしている。
火印隊は火印中佐以外には"D"はいないが、隊員の動きに一切の無駄がなく、付け入る隙がない。
火印中佐は火印隊の方々を上回る動きで、それに加え結界をつくる能力、正に、向かう所敵なしだ。
敵の殲滅には三分とかからなかった。
「どこから入ろうか」
敵の本拠地を目の前にして火印中佐が呟く。
すると、地面から、いきなり植物が芽を出し、急成長した。
全員横に躱したが、成長した木々が壁の役割を果たし、俺達を二つ―火印隊と巴隊に分けた。
「なんだこれは!」
俺が呟くと、火印中佐から通信が入った。
「敵の能力か、巴隊全員無事か?」
「はい、五人とも。そちらはどうですか?」
巴が返事を返す。
「こっちも全員無事だ」
「えっと……どうしますか? これ……」
そう言いつつ、俺を見てから、
「燃やすか、壊すかして合流しますか?」
と言った。
「いや、そんなことをしている暇はない。ここからは別行動だ。敵の親玉を倒せ。どこに敵が潜んでいるかわからんぞ、注意していけ」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
そして、こっちを向き言う。
「とのことです。行きましょうか」
俺達は迂回して中に入った。
中への入り口はまるで、敵が入ってくれと言っているかの様になっていて簡単に入ることができた。
「さて、どこから攻めますかね……」
火印隊は地下に潜ったと聞いた。別行動と言われている。
なら塔か……。
表情からして恐らく全員の考えが一致していた。
全員が走り出そうとした時―。
辺りが真っ暗になった。
周りが見えない。
「巴!」
名前を呼んだ。だが返事は帰って来ない。
「通! 蓮! 櫂!」
「全員無事か!?」
「どこ?」
「こっちだ!」
三人の声が聞こえてくる。
そこには辺り一面、真っ暗な世界が広がっていた。
みんなと合流した。だが巴がいない。
「巴! どこだ?」
叫んでいると、どこからか知らない声が聞こえてくる。
「叫んでも意味あらへん。あいつここにはおらへんで」
男の声だ。関西弁だ。これは百パーセント巴の声ではない。
巴は元々いた場所から一歩も動いていなかった。
一瞬、周りが暗くなり、元に戻ったと思えば仲間が消えていた。そして、目の前には一人の見知らぬ少女が立っていた、邪鬼の帝の隊服を着た少女が。
「みんなをどこにやったのですか」
怒りを込めて、そして冷静に問う。
「さてどうでしょう。まずは私を倒してみてはどうでしょうか?」
敵はそう言って拳銃を構えた。
「殺してしまっては聞けなくなりますがそうするしかないようですね」
そう言い呪術符を取り出した。
「おまえはどこにいる!」
「どこかゆうたら……」
ほんの少しの間が入り、
「ここや!」
いきなり背後から殴られる。
「何っ!?」
さっきまで背後には誰もいなかったのに。
二人一組、俺は通と、蓮と櫂とで背中合わせになり敵からの攻撃に備える。
「そんなんやったらあかへんわ。わての攻撃はよけれへん」
蓮と櫂の僅かな隙間から現れ、二人を押しとばす。
その男は邪鬼の帝の隊服を着ていた。
「そこか!」
火の玉をつくり、敵の方へ飛ばす。
だがその時には敵は消えていた。次はいきなり通の前に現れる。
通が腹を思い切り殴られる。
俺は通と距離を取り、全身に炎を纏った。俺の周りが明るくなる。
すると、目の前に敵が現れた。突然現れた明りに眩しそうにし、目を細めた。
そして、一歩下がって明りの届く範囲から逃れるようにし、闇の中に消えた。
そこで、櫂が叫んだ。
「そういうことか、皆伏せろ!」
巴は毘沙門天呪を体に貼り、敵の発砲を逃れる。
だが、敵はそれを予測済みだったようで腰のナイフを取り、呪術符を発動―恐らく身体能力を上げるものだろう。接近戦に変更したようだ。
近寄ってくる敵と間合いを取りつつ懐から拳銃を取り出し、牽制する、が、全てナイフで弾かれる。
慈救呪を三枚取り出す。
一枚目で目の前に盾を展開する。すぐに壊される。
だが、それでよかった。
敵には取り出した三枚の呪術符が全て同じものに見えただろう。実際に全て同じものだ。一枚目はこの呪術符が盾を展開するもの、守るものであると敵に思わせることができれば十分だった。防戦一方だと思わせ、油断を誘う。
そして残りの二枚を手の甲に貼り、展開。毘沙門天呪は強度を落とせばある程度形を変えることができる。今度は盾ではなく剣の形で展開した。
「っ!?」
敵の顔が驚愕の色に染まる。
巴が止まったため、二人の距離は一気に縮まる。
敵のナイフと巴の剣のリーチは剣の方が上だ。
剣でナイフを持った方の腕を切りつける。
敵はナイフを落とす。間合いを取ろうと、もう片方の手で持っていた拳銃で牽制しつつ後退する、が、弾を躱し一気に加速する。そして懐に潜り込み、心臓に剣を突き立てた。
だが、敵はまだ動いた。
剣を割り、数歩後退。
巴の剣は確かに心臓を貫いていた。
「何故、まだ動いて……」
よく見ると心臓の傷口が塞がりかけている。腕の傷に関しては完全に治っているように見える。
「まさか……」
嫌な可能性が脳裏に浮かぶ。
「そう。私は"D"、治癒能力者だよ」
太陽が昇り切ってから暫く経った。
戦いが始まるまで約半日―。




