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第九章 戦いの始まり~目前~

俺達は今、名古屋を出発し、京都に向かっている。

出発してから十分経ったろうか、まもなく旧滋賀県大津市に差し掛かる。

そこを越えると直ぐに京都だ。

こちらの戦力は五十人ほど、京都までは東京から名古屋への移動にも使った呪術式四輪車を使っている。これは、自動車が呪術によって改良されたものだ。強度が上がり、スピードも上がっている。

ここで、以前日本が一つだった時の国土交通省の標識が旧大津市に入ったことを知らせる。

西区域に入ってから(しばら)()つが未だ民家は見られない。情報によれば邪鬼の帝の本拠地が京都にあり、それ以西に人々が住んでいるという。

そこで、巴が小さく声を上げる。

「皆さん、まもなく敵の本拠地です。一層気を引き締めて下さい」

いつも以上に鋭い巴の声に同じ車に乗っていた巴隊全員の気が引き締まる。

すると、先頭を走っている部隊が大声で叫んだ。

「前方約二百メートル先に二人の影!」

「敵か?」

火印中佐が問う。

「邪鬼の帝の隊服を着ているため敵と思われます!」

()け!」

「了解!!」

大きな声でのやり取りがあったが、敵はその場に立ったままだ。

そしてぶつかった。

悲鳴が聞こえる―車に乗っていた隊員の声だった。

轢いたはずの男に手で車に止められ、勢い余って吹き飛んだ。

飛んだ五人の隊員は受け身をとり、立ち上がりつつ呪術符を出そうとする、が、もう一人の敵が背後にいた。

凄まじい速さだ。

そして、撃ち殺される。

「俺の隊と邦坂隊は直進! 他の隊は二人をやれ!!」

火印中佐が叫ぶ。

俺達は指示に従い直進、先を急ぐ。

「あーあ。行かせちまったよ兄さん。どうする?」

「たの人数なら京都の方でどうにかするだろ。それより今はこいつらやな。四十人ほどか」

「一人二十人てとこやな」


「なんだったんでしょう。あの怪力は」

先程の敵二人を越え、一キロほど走ったところで巴が呟く。

「"D"だろ」

通が言ったところで、火印隊の車との通信が繋がる。

『俺達の仲間を殺した方が名古屋に攻めてきたとき真っ先に逃げていった"D"だ』

火印中佐の声だ。

『待ち伏せしていた二人が"D"だった。簡単に通してくれたことを考えてもこの先にまだ"D"がいる。気を付けろ』

なぜ敵は境界拠点を攻めるのにこれらの"D"を投入しなかったのか。

俺がそう思っていると、火印中佐がその疑問を先読みしたかのように言う。

『"D"の能力も大規模に使えない限り大人数を相手にするときは多勢に無勢だ。優秀な兵士と大差ない。能力が自己を強化するものなら尚更な。さっきの二人の能力は車を受け止めたことを考えると怪力が得られるものだろう。止めた後、車が静止していなかったことを考えると物を止める能力でないと考えられる。もう片方は名古屋で逃げていくとき、かなりの速さで走っていた。あの速さは呪術では敵わない。だから移動速度が上がるものだろう』

その洞察力に俺は感服した。

『だが、ただ単に主戦力を防衛に回しただけとも考えられる。この先どんな奴が出てくるかわからんぞ』


今は明け方、敵の本拠地は目前にある。

戦いが始まるまで約一日―。



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