プロローグ~夢合せ~
「逃げるぞ、祐!」
俺、邦坂祐は父親に手を引っ張られ家から飛び出た。
辺りでは、金属音や爆発音が響いている。
今、敵が攻めて来ている。
俺達の後に続いて、双子の妹、邦坂巴が母親に連れられて出てきた。
四人が出た直後、家が爆発した。
敵兵はすぐそこまで来ている。
「捕まえろ! ターゲットはその少年だ!!」
敵の指揮官らしき男が叫んだ。
敵兵はいまにも手の届きそうな距離まで近づいて来ている。
「くそっ……」
父親は繋いでいた俺の手を離し敵兵にぶつかっていった。
「父さん!」
「逃げろ!!」
立ち止まっていた俺の手を母さんが掴んで走った。
「ぐあっ!」
父親の叫び声が聞こえて振り向くと父親は血を流して倒れていた。
「母さん! 父さんがっ!!」
「黙って走りなさい!」
俺の知る限り声を荒げたことのない母さんが怒鳴った。
黙って走った。だが、すぐに敵兵は近づいて来た。
そして、網を放った。
躱そうと試みたが、足をすくわれ、転倒。
転んだ俺の上に母親が覆い被さった。
「おい、お前。そいつから離れろ」
敵兵がそう告げた。
しかし、母親は動かなかった。
――ドンドンッ
二、三回銃声音が聞こえた。
俺の上で母親がぐったりとしている。
「よし、捕まえろ」
俺は拘束される。
「お兄ちゃん!」
巴が叫んだ。
「絶対、絶対助けるからね!!」
連れ去られ際に、妹はそう宣言した――。
俺、斎藤卿人は、今、牢屋の中にいる。別に監禁されているわけではない。
牢屋で寝て、起き、そこから出て、他の兵と一緒に兵士として訓練を受け、シャワーを浴び、牢屋で寝る。
ご飯も1日三食、他の兵士と一緒に食べている。
そういう、至って普通の生活をしている。
今は、普通なら寝ている時間だが、見た夢と外の騒音のせいで起きてしまった。
夢はというと四人家族が敵から逃げ、両親が殺され、息子がさらわれるというものだ。
最近、よくこの夢を見る。
理由はわからない。
ただ、この夢を見た後、いつも妙な懐かしさを感じる。
そんなことを考えている内に騒音がどんどん大きくなってきた。
兵士の叫び声も聞こえる。
どうやら、兵士達が戦っているようだ。
敵襲か? そう思い、それなら兵士である俺も戦うべきでは?と考えたが、牢屋の中にいるため出て行くことが出来ない。
そうこう考えている内に牢屋の扉が破壊された。
数人の兵士達が現れた。
この施設で訓練を受けている兵士は黒と青の隊服を着ている。
だが、この兵士達が着ていた隊服は黒と白のものだった。
俺はとっさに身構えた。だが彼らに敵意がないことを感じ取る。
すると、彼らの中から一人の少女が現れた。
彼女から、夢を見た後に感じる懐かしさを感じた。
年は自分と同じくらいだろうか。髪は黒く長く、背は俺より小さい。
彼女の顔を見ると、とても整った顔立ちであることがわかった。
しかし、それ以上にその少女が俺を驚かせたことがあった。
なんと、その少女は夢に出て来た四人家族の一人だったのだ。
その少女は俺に手を差し出して、嬉しそうに
「やっと、やっと助けに来れましたよ、兄さん」
と言った。
今、こいつ、俺を兄さんと呼んだか?俺に兄妹はいない。
そう考えていると、その少女が
「逃げましょう、兄さん」
と言った。
俺がなぜ、「兄さん」なのかはわからなかった。
だが俺は彼女の手を取った。
そうした方がいいと思ったからだ。
そして、俺は今までいた施設を彼女とその仲間と共に逃げ出した。
なぜ、彼女の手を取った方がいいと思ったのかは分からない。
だが、俺の本能がそう告げていた――。