5話 街の中へ
街の近くに落ちていたようで、すんなり着いた。
巨大な壁が目の前にある。
比喩でもなんでも無い、文字どおり目の前に立ちはだかっている巨大な壁。
「どこか入り口は……あった」
周りを見回すと、人や馬車が並び、出入りしている門を発見する。
その門の所に、武器を持った兵士たちが立っている。
うわ、超ファンタジー!!
早速行列に並ぶ。
そして、自分の番が来たので門をくぐって街に入ろうとする。
「おい待て! そこの怪しい格好の男!」
いきなり剣を向けられた。
「えっと、俺が何か?」
揉め事を起こす気は無いので、両手を上げて無抵抗の意思表示をする。
「怪しい格好だな……」
そう言われて、改めて自分の格好を見てみる。
色の濃いジーパンに、Tシャツ、その上に黒のパーカー
ファンションセンスには自信無いが、怪しいとは酷い言い様だなと思ったが、周りの人を見てみると、皆RPGに出てくるような村人の格好をしていた。
あー、この格好じゃ、目立つのも仕方が無い。
「おい! 身分証を見せろ!」
突然兵士が無茶振りを言ってきた。
カバンがあれば、学生手帳が入っていたかもしれないが、生憎今は手ぶらである。
「えーっと、今は持っていません」
嘘をついても仕方が無いので正直に答える。
まぁ、当然の如く、
「じゃあ、街に入る事はできないな」
入場不可のお返事を頂けた。
「そこをなんとか……」
「ダメなものはダメだ」
どうやら一筋縄ではいかなそうだ。
ここは出すか!? 日本人最強の奥義を……。
相手の方を向いて、正座をする。
そして、手の平を地に付け、額が地に付くまで伏せ、
「お願いします!! どうか街へ入れて下さい!!」
そう、土下座である。
俺の完璧な土下座に、兵士達が狼狽する。
「おい、頭上げろって」
お、これは好感触? と思ったが、
「入れてやりたいのは山々なんだが、決まりを破る訳にはいかないんだ。すまない」
入れては貰えないらしい。
諦めて、門から離れようとすると、
「うちの連れがすまんな」
いきなり引きずり戻された。
その声の主の方を見ると、ゴリマッチョのナイスガイが居た。
「これは! ワルドさん!」
この男の名前はワルドと言うらしい。
「こいつに行列の順番待ちをさせていたんだが、見つからなくてな、逸れちまってたんだ」
「そ、そういう事でしたら! どうぞお入りください!」
ワルドさんのお陰で入る事ができた。
「そんなとこに突っ立ってないで、お前も乗れ」
言われるがままに馬車に乗る。
「あの、ありがとうございました」
「お礼なんていい。困っている人を助けるのは当然だろ? それにお前さん悪い奴には見えないからな」
ワルドさんは、そう言ってくれた。
何この人、イケメン過ぎだろ!
「自己紹介がまだだったな、俺はワルド。お前さんは?」
ワルドさんが自己紹介をしてきた。
「ユキヤです」
苗字まで言う必要は無いと思い、名前だけ答えておいた。
「ユキヤか、聞きなれない名前だな。
まぁとにかく、よろしくな」
「あ、はい、よろしくお願いします」
握手を求められたので、答えておいた。
………
……
…
ある程度門からも離れたし、あまり乗せてもらうのも申し訳ないので、
「あ、じゃあ、俺はこの辺で」
そう言って降りようとすると、いきなりフードを掴まれた。
「何降りようとしてるんだ? 俺の連れって言っただろ? 荷下しくらい手伝っていけ」
良い笑顔で、そんな事言ってきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーー、全身が痛い」
あの後、大量の荷下しを手伝わされた。
荷物の中身は金属などが多く、ありえないくらい重かった。
「こんなので根を上げてんじゃねーよ。
そんなんじゃ、冒険者なんてなれないぞ?」
ワルドさんは笑いながらそんな事を言ってくる。
「ワルドさんが凄すぎるんですよ! …………って何で俺が冒険者になると?」
何故そう思ったのか気になったので、ワルドさんに尋ねる。
「あれ? 違ったのか? ただ、お前さんみたいな身寄りの無い奴が、身分証を手に入れる為には、ギルドに登録するしか無いから、てっきり……」
「詳しく!」
身分証を持ってなくて、街に入れないかもしれない事態に陥ったのだ。
その身分証が手に入るかもしれない、そんな方法があるなら聞くしか無い。
「おお、おう、急に積極的になったな」
俺の、突然の態度の変化に驚きつつも、詳しく教えてくれた。
どうやら、この世界では、一般的には生まれた時に役所に届け出をして、身分証を貰うらしいのだが、
それでは、俺の様な身分を証明する方法が無い人は、身分証を発行することが出来ない。
だから救済措置として、冒険者ギルドと言うところに行き、登録すれば、身分証を発行できる様になったらしい。
また、冒険者ギルドに登録すれば、クエストを受ける事ができ、収入を得られるそうだ。
「マジっすか!? ちょっと冒険者ギルドに行って登録してきます!」
いきなり、身分証と収入源を得られると思い、
そう言って駆け出そうとした所で、またフードを捕まれ引き止められた。
フードを掴んで引き留めるのはやめて欲しい。
超首締まる。
「行くのは勝手だが、登録料の持ち合わせはあるのか?」
そんな事を聞いて来た。
「……え、金かかるの?」
「もちろん」
当然だろ? と言わんばかりのトーンで答えられた。
…………終わったーー。
膝が外れ落ちて地面に膝をつく。
所持金0円の俺では、登録する事はできない事が露呈した。
……ここの通貨の単位が円、かどうかはしらないけど、
「おい、ユキヤ! そんな所で項垂れてないで、早く立て」
「はい……」
力無く立ち上がる。
「ほら、これ持ってけ!」
立ち上がった俺に渡してきたのは、数枚のコインだった。
「えっと、これは?」
「登録料くらいにはなるだろう」
どうやら、無一文の俺を見かねて、登録料をくれるらしい。
「いやいや、流石に悪いです」
街に入るのを助けて貰ったのに、更にお金をもらうのは、流石に申し訳ないと思い、遠慮する。
「荷下し手伝ってくれただろ? それの給料だ」
俺が断る事を予想してか、そんなありがたい事を言ってくれる。
なにこのイケメン。
「あとは、これも持ってけ。冒険者なのに丸腰で行く訳にはいかないだろう」
そう言って渡されたのは、ダガーだった。
「ワルドさん、何から何まで本当にありがとうございます」
何度も何度も遠慮するのも無粋かなと思い、好意に甘えておいた。
「いいって事よ、それと、そんな畏まった口調じゃなくて良いし、俺の事はワルドって呼んでくれ!」
「わかった。色々ありがとな」
「そう何度も何度もお礼を言うんじゃねーよ! 感謝の気持ちがあるなら……そうだ、俺は見ての通り加冶屋だ。何か入り様になったら贔屓にしてくれ」
そう言って、笑顔で送り出してくれた。
これからは、武器関係の時はワルドの所に行こうと固く決意した。
早速ダガーを貰った剣帯に入れ、冒険者ギルドに向かった。
アイリス「あ、身分証と基本装備、お金も渡すのわすれてた!?」
他女神「アイリス……貴方、幸せを願うとか言っておいて〜、偶々良い人に巡り合えたから良かったものの〜」