閑話 罪滅ぼし
電話を切られた後、椅子に深く腰掛け、あの時の事を思い出す。
あれ以来、一度も忘れた事はなった事。
誰にでも優しく、友好的だった彼が発した言葉……、
『なるほど、お前らもグルだったって訳か、初めっからこうなる事が決まってたのか……、ははっ、はははははは、ふざけるな!! 絶対に許さない!! 神も、人間も、 何もかも、ぶっ壊してやる!!』
全てを憎み、破壊すると宣言した。
取るに足らない人間の1人のはずなのに、彼の怒りを向けられた時、神々は恐怖した。
「私が引き取るはずだった彼の様子はどう〜?」
神の1人がそう声をかけてくる。
「今の所は大丈夫です、記憶も消えています」
彼の状態を報告する。
「……あの時の事を思い出していたのね〜? ひどい顔してるわよ〜?」
その神は自分の顔を覗き込んでそんな事を言ってきた。
「…………」
何を答えればいいのかわからず、黙ってしまった。
「あなたはもう少し、肩の荷を降ろすべきよ〜」
心配をしてくれていた様で、そう提案してくれる。
「いえ、それは出来ません。あの事は私は忘れてはいけないと思っていますから」
しかし、自分達のやらかしてしまった過ちを考えると、そんな事は出来ない。
「あなたは自分を責めすぎているわ〜」
「あの時、彼には一切の落ち度は無かった! それなのに、あんな酷い目に……」
あんな事態を引き起こしてしまった事、悔やんでも悔やんでも、悔やみ切れない。
「あなたは良くやっているわ〜。誰も受け入れようとしなかった彼を真っ先に引き取ったのだから〜」
心遣いは非常に嬉しかった。
「あんなもの、ただの自己満足です」
そう、せめてもの罪滅ぼしと言う名の自己満足だ。
怒り狂う彼に、槍を突き立て殺し、自分たちに危害を加えない様に力を封じ、自分達の罪を隠すために記憶を消した。
何の落ち度も無い彼に、そこまでの仕打ちをした自分を、少しでも許してもらえる様に。
「たとえ自己満足だったとしても、彼は救われたはずよ〜。きっと、もう許してくれているわ」
「記憶を消した時点で許してもらえるとは思っていません。ただ、今回の世界では幸せに暮らせる事を願っています」
そう、森を歩いていく彼を眺め、そう願った。