3話 こんにちは異世界
周りを見回してみる。
一面に広がる青。そして、はるか遠くに見える地面。
うん、超上空。
なんでこんな所に転移されてるんだ。
なんとなく、女神とのやりとりを思い出す。
『あ、今動いちゃいけません! 座標が、座標が!!』
あー、あれかー。
転移途中で移動すると、遥か上空に飛ばされるらしい。
そんなことを考えていると、手に持っていたケータイが鳴り始めた。
プルルルルル、プルルルルル
ガラケーを開いてみると其処には、
《超美女神アイリス様♡》この頭悪そうな名前が表記されていた。
イラっ…………、
ピッ!
気が付いたら電話を切ってた。後悔はしていない。
少しスッキリした気持ちで居ると、
『ちょっと! 何で切るんですか!!』
頭の中に怒鳴り声が響いた。
頭の痛みに耐えつつ「あ、女神様、どうなさいましたか?」と冷静に対応する。
『「あ、女神様」じゃありませんよ! 何で電話切るんですか!?』
女神様お怒りのご様子。
「すみません。つい手が滑りました」
『それなら仕方がありません。
また電話かけますから、次はちゃんと出て下さいね?』
そう言い残して、声が途切れた。
え、今のままで良かったじゃん……何でわざわざ電話かけてくるし。
そして、女神の宣言通り電話がかかって来た。
再び画面を見ると其処には、《超美女神アイリス様♡》の文字。
切りてぇえええええ!!!
超切りてぇええええええええ!!!
電話を切りたい衝動に駆られる。
いや、ここで切ったら、また頭の中で叫ばれる。
あれは勘弁してほしい。
衝動を押さえ込み、電話を切るボタンに向かっていたいた指を横にスライドして電話に出るボタンを押す。
『あ、もしもし、アイリスです』
「どうも、五郷です」
『さて、無事に貴方は異世界に旅立ったわけですが……何か質問はありますか?』
女神の気遣いなのか、疑問に思った事を答えてくれるらしい。
ちょっと待て、今なんて言った? 無事? この状況が無事に見えるの?
俺このままだと、地面に激突して死ぬんだけど……
『なぁ、この状況って、無事って言えるの?
つか、転生者はみんなこんな高いところから落とされるのか?』
もしかしたら、異世界召喚の演出かもしれない。
そう希望を持ち、女神に尋ねる。
『いいえ? 本来なら街の前に召喚されるはずなんですけどねー。
貴方が動くから座標の固定を失敗しちゃったんですよね』
あ、うん、演出じゃなかった。
いや、わかってた。
今もなお加速し続けているこれが、演出な訳がない。
『「失敗しちゃったんですよね」じゃねーよ!! このまま落ちたら絶対に俺死ぬよね?!』
こんなこと話している間にも、グングンと地面に近付いて行って居るのだ。
『ちょっと、電話でいきなり叫ぶなんて非常識だと思わないんですか?!』
「人の頭の中に直接大声送りつけてきたやつに言われたくねぇ!!!」
女神は、自分の事を棚に上げて常識を語ってくる。
『え? 何のことですか?』
都合の悪い事になるとこうなるんですね、わかります。
『まぁいいです。
それで、俺はこのまま落ちてて大丈夫なんですか?』
このまま話していても仕方がないので話を戻す。
『賢明な判断です。
そして、その点についてはご安心を、私の完璧な女神ですからね。貴方は落ちても死ぬことはありません! 感謝して下さい』
ドヤ顔でそう話す女神の顔が目に浮かぶ。
めっちゃ腹立つ。大体、
「完璧な女神なら、転移失敗するんじゃねーよ!!」
俺はそう叫びながら地面に激突した。
………
……
…
足元に巨大なクレーターができていたが、俺は無傷だった。
どうやら自称完璧な女神の力で死ななくて済んだ様だ。
『ほら、私のお陰で大丈夫だったでしょ?
ほらほら、何か私に言う事はないんですか?』
女神が執拗にお礼を言う様に求めてくる。
「元々、俺が大丈夫じゃなくなった原因を作ったのはお前だ!! 感謝なんてするわけねーだろボケが!!」
もちろんお礼なんて言わず、電話を切った。
さて、取り敢えず、
携帯を操作し、電話帳を開く。
そこにある《超美女神アイリス様♡》を選択し
削除する。
【その操作は出来ません】の文字が画面に表示される。
「チッ、やっぱり無理か……」
消せないとなると、このまま残すしかないのだが、この名前のままでは電話が来るたびに腹が立つ。
妥協点として、名前変えるか。
編集のボタンを押す。
そして、《アホ女神》と入力し、決定を押す。
すると、画面には【変更出来ませんでした】の文字が出てきた。
《バカ女神》
【変更出来ませんでした】
《おっちょこちょい女神》
【変更出来ませんでした】
………
……
…
悪口系はとことん拒否された。
……
《超絶美女神アイリス様》
【名前を変更しました】
ケータイをへし折り、近くの池に投げ捨てた。
「さーて、どうやって森から抜け出そう?」
完全にケータイの事は忘れ、自分のすべき事を確認する。
「そう言えば、落ちている時に街みたいなものを見かけたな……」
確か、こっちの方……
そう思い歩き出そうとすると、
ゴツッと頭に何かが当たり、地面に落ちた。
それは、さっきぶち壊して池に投げ捨てたケータイそのものだった。
うわ、完全に呪いじゃん。呪いの装備じゃん。
【▼ 装備が呪われていて外すことが出来ない】って出てくるやつじゃん。
ケータイが鳴り始めたので、仕方なく電話に出る。
「はい、五郷です」
『何で、さも何も無かったかの様な対応してくれちゃってるんですか!?』
さっきの常識は何処へやら、いきなり大声のツッコミが入る。
『それに、このケータイは呪いなどではありません! どちらかと言えば【▼ 捨てるなんてとんでもない】の方です!』
地球の文化にやたら詳しい女神は、そんな事を言い始めた。