くせ~無意識と衝動~
処女作。
短い。
たぶん色々おかしいところあり。
午後5時。
定時の時刻になって周囲の人は一人、また一人と帰って行く。
その流れにはのらず、相田花はパソコンと向き合っていた。名前も平凡なら顔も平凡。
要領の良さに関しては人並み以下だ。
Γ・・・本当に、みんな仕事終わってんの?」
ボソッと吐き出した独り言は、八つ当たりである。
性格もそこまでよくないことは自分が一番分かっているが
そう簡単に直せるものではないし、直そうとも思っていないのでしょうがない。
Γ八つ当たりはよくないですよ。」
私の声とは正反対の笑みを含んだ爽やかな声が横のデスクから聞こえてくる。
一年後輩の新藤慧くん。もうお分かりだろうが、名前の法則(私がつくった)通り名前もかっこよければ顔も整っている。
仕事も早ければ性格もいい。
あと、これはさっき分かったことだが彼は地獄耳でもあるようだ。
Γまた残業ですか。」
そう、また。夜遅くまでとは言わないがやっぱり定時の時刻を過ぎて人より遅く帰るのは気に入らない。それがここ最近ずっと続いているお陰でストレスが溜まりに溜まっているのだ。
Γそうだよ。」
そのことからつい、イライラして返す言葉が少なくなってしまう。
Γ手伝いましょうか。」
Γいいよ、大丈夫。」
パソコンから目を離さずに答える私は本当に嫌な先輩だろう。
ああ、ごめんね新藤くん。私可愛げがないみたい。
Γあー・・・。駄目ですよ、噛んじゃ。」
Γえ?」
唐突なセリフにパッと顔を上げる。
今まで画面しか見ていなかったので、新藤くんが近くで立っていることに少し驚いた。
小さな部署に残っているのは私達二人だけだった。
Γ山田さん、イライラしているとき唇噛んでるんですよ。気づいていなかったんですか?」
Γま、まじ?」
Γまじ。」
おどけて言ってみせる新藤くんのその観察力に驚きながら、だからかと一人納得する。昔から艶のある綺麗な唇には程遠く、血が出たような痕も時々あった。加えてリップを塗っても効かず乾燥しまくり。ガサガサボロボロで女子としてどうなのか。
Γ山田さん、彼氏いないんですか?」
Γ・・なんで。」
Γだってキスする時、山田さんの唇痛そうじゃないですか。」
失礼なことを言っていると自覚しているのか、していないのか定かではないがさりげなく言われたその言葉に少しデジャブを感じる。
高校生のときにできた初めての彼氏に、初めてのキスの時に言われた言葉だ。
まだ乙女だった私は当時、それはもう落ち込んだ。今でも軽いトラウマだ。前の彼氏の方がひどい言い様だったけれど、まさかまた数年のうちに言われるとは。
Γ前、彼氏に言われたことある。お前とのキス痛いし、唇がボロボロで気持ちわるい、って。」
あまり人に話したくない内容なのに、なぜか自然に口からこぼれていた。
Γ・・・キスしたことあったんですね。」
彼の反応に少し緊張していた私が馬鹿らしくなるような返答だ。今日はとことん失礼な新藤くんである。
Γ彼氏の一人や二人いたことあるよ、せい」
正確に言えば一人だけどね。
全部言い終わるまでに顎を掬い上げられ、強制的に顔を上に向けられる。いきなりのことで、私は相当面を食らった顔になっているだろう。
Γな、なに・・」
Γ――本当、ボロボロですね。」
顎を掴んでいた人差し指と親指から親指だけ離され、それで下唇を軽く押される。
さっきまでの新藤くんの面影はなくなり、無表情で私を見下ろす彼からは感情が読み取れない。
Γ・・・余計なお世話よ。」
恐いと思ったことを悟られないように視線から逃れようとした瞬間、さっきとは比べ物にならないほど強い力で再び顎を掴まれる。
痛いと言う訴えは、発することはできなかった。
Γぃ、んっ・・ちょ・・ぁ・・・!」
もう食べられてしまうんじゃないのだろうかと思うほど、舌で口内を犯される。
確かさっきまで私の唇は痛そうと話してたはずだ。痛くないのか。そもそもなんでキスしてるんだ、彼は。なんでキスされてるんだ、私。
あっさり私のトラウマを飛び越えてきた彼の思考がわからない。
Γ考えてことですか?余裕ですね。」
少しだけ濡れた唇を離して、ニヒルな笑みを浮かべている彼はもう可愛い後輩ではない。もはや悪魔だ。
慣れないキスのせいで肩で息をしていた私は何も返せないが、身の危険を感じたのでなんとか彼から脱出しようと試みる。その途端、腕を引っ張られ顔を近づけられたと同時に唇に違和感を感じた。
Γぃったぁっ・・・!」
今度はキスではなく、唇を噛まれたと気づいたのは少し遅れてから。
Γな、なななにするのっ・・!」
もう訳がわからなくなり涙目になりながら悪魔、もとい新藤くんを睨み付ける。
Γよかった。これでもっとボロボロになりましたよ。」
恍惚の表情で微笑みかけてるくる彼にゾクリと震える。
唇から垂れる寸前の血をゆっくり舐め上げられる感覚に体が痺れる。
Γこんなんじゃ、他の人はキスしてくれないですね?」
口角をつり上げた彼がまた私との距離を縮めてきた。
意味を理解したのは、再び噛みつかれた後のこと。
やきもち妬いちゃった新藤くん。
私の唇が荒れているので、
いつかこんなことが起こることを願って
書いてみました。
さぁ、私はいつでも準備OKですよ。