表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NoEL  作者: 申樹
【Eternal Children】
12/18

-望まぬ再開(後編)-

地面へと塞ぐ一樹だったが、弾力性のある防護素材がクッションになっていた為か、なんとか意識をつなぎ止めていた。

地面へと伏しながら、ズキズキと痛む右半身に体の限界を感じつつ、現状の打開策を模索していく。


痛ぅ、これ以上貰うのは流石にヤバいな。

なんとかヤツらの連携を崩さないと、特にあの防ぐことも避けることも出来ない大男の攻撃を……。


大男の攻撃は凄まじいが、何もノエルの量が膨大な訳ではない。

それは一樹やスーツ男のようにノエルを直接相手へぶつけるものではなく、小柄男が俊敏に動くように身体能力の向上、ついては筋力の向上へ変換させているのである。

実質、大男が拳に宿らせるノエルの光は実に微量であった。

ならば、ノエルの量で『化け物』とうたわるまでに他を圧倒する一樹にとって、それを防ぐ術があるのではないだろうか?

何かコツのようなものもあるのだろうが、相手を攻撃するうえで、わざわざノエルを腕力へと変換することが効率的であるとはどうしても考えにくいのである。

そこまで思い当たると、一樹の脳裏へ以前に慎が言った言葉がよぎった。


- 確かに凄いノエルだ。だが、これではただの垂れ流し -


そう言った慎が宿した拳のノエルは、一樹が普段見せる燃え盛るようなものではなく、薄いベールのようにピッタリと手に吸い付いて、眩いほどの光を発していたのた。


だとすれば……、あれは単純な『出量』ではなく『密度』ではないのか?


そう思い当たると、早速倒れたままに右腕を顔の横へと持っていきノエルを込めた。ボウッと白い炎のように拳の周りへノエルが灯る。

以前、スーツ男がその白い炎を見ては『化け物』と言った為、てっきりそれが完成されているものだと疑わなかったが、その先にまだ完成された本来の姿があるのでは?

いや寧ろ、自身のやり方が根本的に間違っているのだとしたら?

一樹は拳にノエルを灯したまま目を閉じ、溢れ出している白い炎が凝縮するイメージを思い浮かべた。

頭の中で何度も繰り返しながら強く念じ続ける。


出力はそのまま、形状を小さく、更にもっと小さく……。もっと……。


すると、拳の周りが熱を帯びたし、瞑った目蓋の裏側がパァッと明るくなる。

ゆっくり目を開けてみると、拳に宿したノエルが思い描いた通り、小さくそして強く輝いていた。


「できた」


しかし、その眩い光は倒れた一樹の体より漏れ出して、目ざとく異変に気がついたスーツ男をイラつかせた。


「なんだ? アイツ、性懲りもなくまだ生きてんのかよ。こちとら、ようやく気分も収まってきたってのに」


スーツ男は面倒臭そうにダラリと右手を伸ばすと、まるでゴミ箱へゴミを放り投げるかの如く、面倒くさそうにノエルを放つ。

それでも瞬くスピードで飛んでいく光の玉は、倒れる一樹に容赦なくとどめを刺しにかかった。

ノエルはそのまま倒れた一樹の元で爆発すると、拡散する光が煙幕状となって辺りを包み込む。

そこへ更に、小柄男が止めを刺すべく、幕の中へと飛び込んで行った。

小柄男の瞬くスピードで巻き起こった突風が、光の幕を徐々に晴らしていき、2人の影が見えだした頃、先に驚きの声を上げたのは意外にも小柄男の方だった。


「お前、直撃だったはず?」


露わになった2人の姿を確認すると、小柄男が繰り出した拳を一樹の一層強く光った右手が受け止めていた。

小柄男は捕まれた拳を離そうと足掻くが、余程の力で捕まれているのか、掴んだ一樹の手はピクリとも動かない。


「ちょっとコツを掴んでね。それに三度もやられりゃ、いい加減次の行動を予測することぐらいのことは出来るさ」


一樹は掴んだ拳ごとそのまま小柄男を体ごと投げ飛ばす。凝縮されたノエルの力により更に向上した筋力は、小柄男を宙高く放り出し、そのまま壁へと叩きつけた。

しかし、行き着く間もなく、一樹には次の攻撃が迫っていた。

周辺を影が覆い、異様なプレッシャーが辺りを包み込む。過去の経験から潜在意識がその場からすぐに離れるよう警告を発するが、一樹は両足を踏ん張りその場へと踏みとどまった。そう、大男が眼前へ立ちふさがっているのだ。

一撃必中の拳からは、ご丁寧にも既にノエルが漏れだし、いつでも繰り出せる状態である。


「来たか」


現状であれば、どうにか大男の攻撃をかわすことも可能だが、恐らく避けた先をスーツ男が狙い撃ちしてくるだろう。何にせよ、大男の攻撃に耐えなければ、現状を打開するには至らないのだ。

体のアチコチが痛み立っているのも億劫な状態の一樹であったが、その右手には先程装填した凝縮ノエルが未だ灯っている。

ならばと腹をくくり、腰を落として右手を前へ突き出しは、ガードの姿勢を取った。

そんな一樹の行動を気に留めることなく、大男が低いうなり声を上げながら拳を繰り出す。


ドスンッと低い地鳴りと共に、辺りへ突風が吹き荒れた。

同時に、一樹の凝縮ノエルの障壁が衝撃に耐えかねて音を立てて崩れると、拡散された大量のノエルの光が突風に乗って瞬く間に2人を包み込む。


行方を気にするまでもなく、斜に構えていたスーツ男は、事態に思わず目を見開いた。

なんと、光の幕から先によろけて出てきたのは大男の方だったのだ。

自身が放った攻撃の反作用をもろに受け、思わず後方へ多白きながら3、4歩程下がって行く。

スーツ男の額からは汗が吹き出し、思わず口も閉じるのを忘れている。


「バカな」


そう、一樹は大男の攻撃になんとか耐え凌いでいたのだ。

一樹は、光の幕の中で大男の状況を確認すると、幕が晴れないうちに大男の懐へと潜り込んだ。

幕の外側で右手を前へ突き出し、血相を変えて一樹の姿を探していたスーツ男が、大男の懐に入った一樹を見て舌打ちをする。

連携頼みのスーツ男にとって、大男は要的な役割であり、万が一にもノエルを大男へ当てる訳にはいかないのだ。


しかし、それはスーツ男にとって誤った選択だった。


予測通り、スーツ男の躊躇する姿を横目で確認した一樹は、狼狽える大男を前に一呼吸置くと、右手へノエルの炎を再び宿し、力一杯大男の腹部へトドメの一撃を叩き込んだ。

溝へともろに受けた大男は、嗚咽を漏らし、白目をむきながらその場へ崩れ落ちていく。

倒れゆく大男と振り返ってくる一樹に、スーツ男はようやくそれが一樹の狙った行動であることに気づき、顔色をみるみる真っ青にした。

緻密な連携ほど1人欠いた時の穴は大きく、後がないスーツ男は糸が切れたように乱心すると、闇雲にノエルを連発しだした。


「この化けものめ!」


一樹の周りで幾つものノエルが弾け、あっという間に弾けた光の幕の中へ包まれていく。

そこへ、体制を立て直した小柄男が、ノエルが乱発する逆側より挟み撃ちする形で幕の中へ飛び込んだ。

激しく爆発を繰り返すノエルの光の中で、小柄男は一樹の影を見つけると飛び掛かる。


「いい加減、逝っとけよ」


しかし、小柄男の拳は空を切る。

背後を捕らえた筈の一樹に難なくかわされたのだ。


「な、どうして?」


今の一樹はスーツ男のノエルを凌ぐのに手一杯なはずであり、他の攻撃を避けるだけの余力はないはず、と慌てて一樹の姿を探す。

するとそこには、スーツ男が放つ幾つものノエルを、眩く光る右手一つをかざすだけで難なく防ぐ一樹の姿があった。

その右手からは、全身を包む様に球体状の障壁が張られ、さながらバリアの様にノエルは幕へ触れる度に破裂して、それより内側へ侵入することはない。


「お前、さっきもそれで……」


呆ける小柄男へ、すかさず背後へと回り込んだ一樹が、首裏目掛けてへ手刀を入れる。

諸に受けた小柄男がそのまま地面へと倒れ込んだ。

同じくして、スーツ男に限界が来たのか、ノエルの雨はピタリと止んだ。


「こ、これでどうだ」


汗が滴る程に消耗しきり、激しい息切れを繰り返すスーツ男は、晴れゆく光の幕から出てきた、何事もない一樹の姿を見ては、甲高い悲鳴を上げた。


「お、お前はいったい何なんだよ」


腰を抜かして尻餅をつくと、いつかの時の様に、腕を使って必死で後ずさる。

そんなスーツ男へ、一樹はやっぱりいつかの時の様に右手を前へと突き出した。


「悪いが、もうアンタを庇ってくれるヤツは居なさそうだ」


一樹の右手より放ったノエル玉がスーツ男の顔面で弾け飛ぶ。

その勢いで男はそのまま2、3m飛んでいくと、ゴロゴロと転がっては仰向けになって倒れ込んだ。


「手加減はしたんだけどな」




一樹は、痛む半身を引き吊りながらも、ようやく瑞穂の居る小窓まで戻ってきた。

小窓の中から瑞穂が心配そうな表情で見つめている。


「待ってろ、今出してやるからな」


声は届かないであろうから、ニコリと笑顔を向けて、窓の横にある扉の前へと立つ。

扉はスライド式の自動扉になっているらしく、ノブや鍵穴といったものが見当たらない。

しかもご丁寧に防護材が隅々にまで張り巡らされており、ちょっとやそっとじゃ開くことは無さそうである。

一樹は扉へ手をかざすと、手と扉の距離をほぼ取らずしてノエルを放った。


鈍い衝突音をたてて、扉へぶち当たったノエルが辺りへ飛散していく。


扉は、微動だにするどころかノエルが衝突した跡すら残していなかった。


「やっぱりダメか」


そうくるならばと、今度は腰を落とし右手へノエルを集中させる。

ボゥッと白い炎が灯ると、目をつむり更に意識を右手へと集中させて、炎を小さく、そして眩い光の幕状のものへと変化させた。


「これなら」


先程と同じく、扉との距離をほぼ取ることなく、右手へ宿した凝縮ノエルを扉へ放出させる。


低い轟音と共に地鳴りが響き、勢いをせき止められた大量のノエルの光が辺りへ巻き上がる。


晴れゆく光の中で、光をかき分けるようにして扉を確認してみると、扉はそれでも開くことなく、閉ざされたままの状態であった。


「クソッ」


予想以上の頑丈さに焦る一樹は、何か開ける方法はないのかと、手を扉へペタペタと触れながら探ってみる。

すると、扉が僅かながらにその形を湾曲させていることに気がついた。

凝縮ノエルであれば、微かながらに扉へダメージを与えていたのだ。

それならばと、一樹はもう一度右手へノエルを灯し始めた。




3度目の凝縮ノエルを放ったところで、ようやく扉と壁の間に拳大程の隙間が出来た。

扉は、形を歪ませる度に強度を失いつつあり、回を重ねるごとに歪みが大きくなる。拳大程と言えど、瑞穂が外へ出れるまではあと少しである。


しかし、同時に一樹の体へ異変が起き始めていた。


胸の当たりが異常に苦しい。

心臓を強く握られているかのように重苦しく、呼吸が旨く行えない。加え、突き刺さるような痛みも感じ始めていた。

あまりのことで思わず胸の当たりをぐしゃりとむしり、その場へ跪くと身を屈めて丸くなった。

そんな一樹を、ようやく空いた扉の隙間から瑞穂が声を張り上げる。


「一樹、もうこれ以上はダメだよ。それでなくてもかなり消耗してるし、怪我だってしてるのに、一樹の体が保たないよ。これ以上は死んじゃうよ!」

「なに言ってんだ、あともう少しなんだよ。こんなところで……」


一樹は額に流れる冷たい汗を拭うと、痛みに耐えながらどうにか体を起こす。


「私のことはいいから。一樹になにかあったら、私……」


瑞穂の言葉には耳を傾けず、右手へ力を込めるが、胸の指すような痛みに意識が集中出来ずに、うまくノエルを集約することが出来ない。

危機感を感じた一樹は、今一度振り返って男達の様子を伺った。


今、アイツ等に起き上がりでもされたら、とても太刀打ち出来ない……。


とりあえず、起き上がってくる様子はない男達を見て安堵する。

どうにかノエルを放って、目の前の扉を一刻も早くこじ開けなければと、扉へと再び向き直った。


そんな折、一樹と扉の間をノエルが一筋の光の線となって通り過ぎた。

ノエルはそのまま壁へとぶつかると、光を飛散させ、低い衝突音を唸らせる。


まさか、この状況で。


最悪の事態に鼓動を早くさせる一樹は、恐る恐るにノエルが飛んできた方向へとゆっくり顔を向ける。

そして、その先へ居た人物に、驚きのあまり出掛かった言葉を逆流させ、声になり損ねた困惑の吐息を漏らす。


「動かないで。次は当てるわよ」


突き出した右手を言動通りに少し軌道修正して、外さないと言わんばかりにこちらへ突き出して鋭く睨みつけてくる。


「こう……づき」


敵意を向けてくるその人物とは、なんと行くへ眩ませていたあの美波本人だったのだ。

ピッタリとした黒い衣装へ身を包んだその胸元には、見覚えのある金色のバッジがキラリと光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ