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永遠の二番手~プライド・オブ・101~

作者: 井口 亮

 何故、こうなったのか壬生翔一郎には理解できない。

 対向車が塩素カリウムの融雪剤を多分に含んだ茶色い飛沫を飛ばすものだから、ウィンドウォッシャーを操作してやる。愛車のスバル・レガシィB4のスノーワイパーが揺れるのを眺め、神経を使う雪道をゆるゆると走っていた。

 「ここ制限速度60キロだよ?」

 助手席に座る猿渡眞琴は詰まらなさそうに翔一郎を覗き込んだ。

 いつもは学校の制服と色気もへったくれも無い格好をしているが、白いダッフルコートに結った髪が少し、大人びて見える。だが、それは決して子供の範疇を出ない背伸び感のある大人っぽさだ。ロスヴァイセの誰かの入れ知恵だろうか。光沢のあるルージュを引いた唇が嫌みにならない蠱惑さを醸し出していた。

 だが、翔一郎はもとより女性の化粧に無頓着な朴念仁である。今まで何度か眞琴が化粧してみせても全く意識をしたことがない。

 なにより、そんなことより目の前に広がる氷の道路の方が彼の視線を釘付けにして離さない。

 翔一郎は自分を虜にするその道路に対して、素晴らしい感想を述べた。

 「……こんな峠道、制限速度で走ったら死ねるんだよ」

 アイスバーンといえば聞こえはいい。スケートリンクの上で車を走らせているようなものだ。

だが、スケートリンクなんかよりよっぽどタチが悪い。

 僅かに、そう、僅かにバンクしている道路は直進道路であってもほんの僅かなハンドル操作で簡単にスタッドレスタイヤのグリップを奪っていく。

 ほんの僅かにアクセルを踏み込むだけで簡単に制動を失う道路でこの妹分はスピードを出せと言う。

 「つまんないなぁ、せっかく北海道まで来たのに。翔兄ぃだったらこの広大な景色の中を気持ちよーくドライブできると思ったのに」

 「俺は自動運転マシンじゃないんだぞ」

 確かに、気持ちよいぐらいに広大な景色だった。

 雪を頂いた山がゆるやかに描く稜線に葉を落とした木々が整然と立ち並び、深々とした雪の中、はらはらと、静かに積もった雪を風に零す。

 広大な山の中を切り崩し作られた道路から眺める景色は絶景であった。

 だが、それに心を奪われれば間違い無く愛車の制動を奪われる。

 「なんで、俺がお前の旅行の運転手をしなくちゃならないんだよ」

 「酷いッ!仕事で疲れてるだろうなーって思ったから年末のクリスマス連休に北海道の温泉でゆっくりさせてあげたいなっていう心配りだよ!そんな優しーボクに運転までさせるの?そ、そりゃあ、ほんのすこしは、ほんのちょっとだよ?期待はしてるけど……ク、クリスマスを翔兄ぃの趣味に合わせてあげたんだからね!そこんとこわかってよ!」

 「商店街の福引きで当てたものだろ?恩着せがましい。雪道が怖くて俺に運転任せてるだけのくせによく言う」

 「あははー、ばれてましたか」

 「わからいですか」

 吐き出した溜息が重い。

 翔一郎は下り坂でオートマチックシフトをセカンドに落とすとエンジンブレーキを利用して減速する。

 「ねえ、なんでブレーキを踏まないの?コーナーでの立ち上がりの加速性が問題じゃなければエンジンブレーキをかける必要なんてないと思うんだけど」

 「教習所で何を習ってきたんだ。タイヤをロックさせないようにギア比で減速させることでタイヤを転がしながら減速できる。タイヤを止めようとするブレーキだと路面にグリップをかけるからスリップした場合、制動を完全に失うんだ」

 「知ってる」

 なら聞くなと翔一郎は言いたくなったが眞琴はあっけらかんとしていた。

 「ポンピングブレーキってあるじゃん?」

 「別にタイムを競う訳じゃない。それにポンピングブレーキでも結局はタイヤにかけるグリップの総量でいえば変わりはないんだ。路面の状態がわからない冬道で、それでも意識的に連続でブレーキを踏むことでタイヤをロックしないようにするブレーキがポンピングブレーキだから、可能ならストレートで減速できるだけする方法が一番、望ましい。ブレーキングっていうのは……」

 最近、免許を取ったばかりの運転初心者である眞琴は真摯に話を聞いているようで、実はそうでもないようにも見える。

 「あ、狐っ!」

 郊外に出れば野生の動物の一匹や二匹は居る。

 雪原の小さな丘からちょこんと顔を出した狐がじっと伺うように彼等の姿を見るとまた、丘の向こうへと姿を消す。

 「ねえ、翔兄ぃ?」

 「狐は飼えない。エキノコックスって病原体を持っているからな」

 「肉まんあげたらついてくるかな?買ってこようよ?」

 「……前々から思ってたけど、眞琴、お前、実は肉まん好きだろう?」

 「あう~っ!」

 目的地までは、まだ、遠い。

 神経を使う運転を長くしていれば疲れてしまう。

 「もうすぐ上山峠の休憩所だ」

 「肉まん買ってくれるんだ。やった~!」

 休憩が、必要だ。


 車という物はとどのつまり、移動手段である。

 第二次世界大戦後、その航空機技術に怖れを覚えた勝戦国の設置したGHQはその開発を禁止させ、日本という国は将来の移動手段戦争に大きく遅れを取ることになる。

 敗戦という大きな痛手を負い、戦争という外交カードを恒久的に放棄した日本は一つの国としての誇りを取り戻す為に、経済というカードを最強にするしか、生き残る道は無かった。

 そのために、運輸を制する必要があった。

 金と労力と時間は価値という単位でイコールに繋げることができる。

 時間を制する為には運輸手段だけは他国に遅れを取る訳にはいかない。

 だからこそ、唯一、日本の公道は左側を走行するように法整備を行った。

 世界で唯一、右側に運転席を持つ、精緻で、凶暴な獣性を持つ鉄の塊が走る国となることを迫られたのだ。

 「そんなことを知らなくても、運転はできるがな」

 日本柳幹彦巡査長はまた、はじまったと思いながらハンドルを回す。

 トヨタゼロクラウン。

 高級4ドアセダンのスタンダードでトヨタのフラッグシップであるクラウンはずっしりとした重量感、高い安定性と信頼性を持つ。公用車としても高い評価を持つそれは彼等が乗る正義の象徴としてもまた、変わることなく用いられてきた。

 パトロールカー。

 白と黒にツートンにペイントされたそのクラウンは語ることが少ないほどに有名である。12代目S18型の流麗な曲面に鋭くつり上がるヘッドライトが落ち着いた雰囲気の中に獰猛さを見せる。

 日本を代表するメーカー、トヨタのフラッグシップとして過不足ない風格と獰猛さを備え、また若く力強い風采を持つ。日本という国に従事し、犯罪を取り締まる警察という職務に就く彼等の駆る車としてはこれほどふさわしい物はない。

 警察における交番等の対外一般業務を執り行う地域課、その中でも自動車警ら係のパトカーといえば一般的にこのクラウンパトカーを指す。

 幼稚園児にパトカーの絵を描かせれば10人が10人このクラウンパトカーの絵を描くだろう。それほど、このスタンダードな車はこの国で認知された正義の象徴なのだ。

 だが、それはあくまでイメージでの話。

 現実は、とかく厳しい。

 削減された予算のおかげで一六万キロを越えても新しい車は納車されず、激しい公務で作った傷は必死に修繕するもところどころ醜い痕跡を残している。時折、辛い辛いと訴えてくる不調も修理に出したとしても最早、老骨に鞭をうつようなものだ。

 「ブレてる。何回言ったらわかんだジャパナギ!」

 警棒で腕を叩かれる。運転中に拳で殴られるよりかはなんぼかマシではある。

 鈍い痛みに顔をしかめる日本柳幹彦はそれが自分の相方だとたった2ヶ月の間で重々理解していた。

 大黒隆俊。58歳。警部補。

 白髪の交じった小柄で細身の老爺である。

 だが、その顔は常に不機嫌どころか怒りにすら見える形相に歪んでおり、曲がった鷲鼻と鋭い三白眼が鷹のような猛禽類を連想させる。

 定年を後2年後に控えて転勤してきた地域警察官だ。

 警察本部自動車警ら隊、本部交通機動隊の在隊経験の長いこの老人は生粋のパトカーライダーである。

 まして、瞬間湯沸かし器世代と呼ばれる団塊世代の最後の生き残りなのだ。

 ギリギリゆとり世代の日本柳には災厄がやってきたようにしか、思えない。

 「脇がっちり締めろ!薄紙一枚入れても落ちないくらいに締めておけコノぉ?」

 意味がわからない。

 ジャパナギとはこの老人が自分を呼ぶ渾名である。

 日本柳だからジャパン柳。呼びづらいからジャパ柳。それがいつしかジャパナギと呼ばれるようになった。

 最近では後輩までジャパナギと呼び出す始末である。

 警察学校を卒業して交番に配置され、パトカーに乗りたくて一生懸命仕事をした。

 犯罪検挙はもちろんのこと、交通違反、少年補導にだって力を入れた。

 それでようやく、地域課警察官の花形である自動車警ら係でパトカーに乗れたのだ。

 その矢先である。

 この偏屈な退職間近なじいさんと組まされることになったのは。

 「おめえは運転に向いてねえ」

 それは最早人格攻撃である。

 日本柳はこういう人物を交番で嫌というほど、見てきた。

 この年代の人間はパソコンや新しい物が苦手なのである。

 ましてや、公務員。最近は減額されたとはいえ、不況知らずの給料だ。

 仕事さえしていれば給料は貰える。

 実績さえ、それなりにあれば暮らしていける。

 そういった中で狡猾に年齢を重ねた彼等が行うのが新人いびりだ。

 新人のアラを探し、いびるだけいびり高圧的に接する。

 そうして反抗できなくなったことをいいことに事件検挙や交通違反の検挙を若い人間に任せ、書類作成等の一番、煩雑で重要な仕事を人任せにする。

 それでいて、実績の件数だけはちゃっかりもらっていくものだから仕事はしているとみなされる。

 日本柳幹彦が使われた巡査部長がその手合いだった。

 大黒隆俊は鼻を鳴らすと不機嫌にそう呟いた。

 しばらく黙って管内を警らしていたのだが、郊外に出る頃になって大黒隆俊が何を思ったのか自分の略帽子を速度メーターのパネルに投げつけた。

 すっぽりとパネルにはまった略帽子が速度メーターを隠してしまう。

 「上山峠の休憩所まで制限速度びったりで走ってみろ」

 無理難題をつきつけてくる。

 「無理ッスよ」

 「無理じゃねえよ。俺もやってきたことだ。無理なことを人にやらせる奴はいねえよ。つべこべ言わんでやれ」

 俺の隣に居るじゃないか。

 そう言いたくなったが、言えばまた拳骨が飛ぶのだろう。

 そう思うと、何も言えなくなる。

 「速度下がってる」

 拳骨が飛ぶ。

 「上げすぎだ馬鹿野郎。路面凍ってんだぞ?」

 再び、拳骨が飛んできた。

 「……痛ぇッス」

 恨みを込めて言ったツモリだが、大黒は鼻を鳴らしてあざ笑った。

 「事故ったら痛ぇなんてモンじゃ済まないんだぞ。ジャパナギは独身だから一人でおっ死んでも誰も迷惑しねえよ。俺は嫁と子供居るんだぞ?てめえの雑な運転で殺されてお前、責任取れんのか」

 無茶苦茶な言い分である。

 「音を良く聞け」

 隆俊はそう言ってパワーウィンドウのスイッチに指を滑らせた。

 幹彦は理解できないままに、同じようにウィンドウを開ける。

 僅かに開いた窓から冬の冷たい冷気が滑り込んでくる。

 だが、それと一緒に今まで、エンジン音に混ざり聞き取りづらかった別の音が聞こえるようになった。

 「タイヤの音の高さ、低さで速度がわかる。それを身体で覚えろ」

 隆俊はそう告げてパネルから帽子を取ると自らの頭に乱暴に載せた。

 シートを倒し、大仰にふんぞり返るとじっと前を見つめていた。

 確かに、速度ごとに音が違う。

 幹彦はその音を確かめながら、そして、この老爺の突きつける不条理に辟易しながらパトカーを走らせた。


 上山峠の休憩所で翔一郎は白い息を吐く。

 運転から解放された翔一郎は高く広がった空を見上げる。

 真上を見た時にコンクリートのビルに仕切られない青空を見たのはいつ以来だろう。

 手を伸ばせば届きそうなその景色に、苦笑してしまう。

 開けた缶コーヒーの静かな苦さを喉に押し込み、白く染まった吐息を心地よく思う。

 「翔兄ぃ~!これ~」

 かしましい妹分が何か袋を抱えて走っている。

 「そんなに走ると……」

 「ぎゃん!」

 氷に足を取られ、盛大にすっころんで居た。

 スカートの中は防寒の為に着ている黒タイツで何の面白みも無い。

 実は、その下は勝負下着だったりするがもちろん、翔一郎にはそんな意識もなければ対して気にもしていない。

 「滑るといいたかったんだが遅かったな」

 素っ気なく返す翔一郎に眞琴は慌てて立ち上がりコートの裾を引っ張ると顔を真っ赤にして怒る。

 「見たでしょ?変態!」

 「見たところでどうしろと」

 「欲情してみせろっ!」

 「アホか」

 顔を真っ赤にして泣きそうな顔で訴える眞琴に翔一郎は溜息で返す。

 「それよっか、美味しそうな物食べてるな」

 「うん。揚げ芋。やっぱり北海道っ!って感じがする……ってああっ!食べられたー!」

 翔一郎は勝手に眞琴が食べていた串から芋を引っこ抜いて口に放っていた。

 「返せ!私の揚げ芋返せー!逃げるなー!」

 「便所だ。寒いから車の中で待ってろ」

 翔一郎はその場から逃げるように便所に小走りで逃げ込む。

 眞琴はいつもと変わらない翔一郎に少し、不満を持ちながらもまあ、こんなものかと溜息をつく。

 「ったく……もちょっと、女子同伴の旅行って意識してもらいたいなぁ」

 旅行というのは人を開放的にさせる。

 だからこそ、いつもであれば間違うことのない間違いを犯す。

 違和感は確かにあった。

 ここに駐車していただろうかというほんの些細な違和感だった。

 内装が若干違うとか、そういう、本当に些細な違和感だった。

 そして、不運というのはそういう場合に得てして起こるものだった。


 坂崎哲夫は流しの車上狙いをその生業としていた。

 その一環として、自動車も盗む。

 二十になるまでは考えも無く、三十になる頃には焦りを覚え、四十になるとあきらめを覚えた。

 五十を過ぎれば、それが自分だと肯定する。

 若い頃には土場にも居たことがある。

 だが、若気の至りや重なる不況で更正を諦め、泥棒としてシャバと刑務所を行き来する生活をしていた。

 慣れてしまえば、人間は慣れるものである。 

それが生き方と、割り切れば、割り切れるものである。

 五年の長期を打たれ、満期を勤め上げて久方ぶりのシャバである。

 労役で溜めた僅かな報酬も使い尽くせば働くよりは盗む方が金になる。

 今、彼が乗っている車は最早、足がついてしまっている。

 新しい車が必要だ。

 幸い、立ち寄った上山峠の休憩所には色々な車が駐車されている。

 寒い冬である。

暖房をつける為にエンジンキーを差したまま車を離れている人間は多く居る。

 哲夫は古いセドリックの運転席でじっと、獲物が来るのを狙っていた。

 生活の拠点となる車であり、また、逃げる為に足として使う車である。できることならば、より良い車を選んでおきたかった。身勝手と罵られるが、それは痛みを知らない若造の刑事の言葉だ。真冬の電話ボックスの中で雪で目張りをして一夜を過ごすいみじさを知れば、決して人は黙ることしかできなくなる。

 それは自分が抱える痛みだ。世の中は誰かに痛みを押し付け合いながら回るというのであれば自分が人に痛みを押しつけてもかまうまい。

 そう、納得することで自分を正当化してきた。

 同じようなレガシィ・B4が並んで駐車されていた。

 このいずれかにしようと、考えた。

 それはほんの偶然であった。偶然に、偶然が重なる。

 しばらく、女を抱いて無い。女を抱くのも、そろそろいいだろう。

 多少、子供臭くはあるがそれでも女に変わりは無い。

 哲夫は吸いかけの煙草を灰皿に押しつけると車を降りた。


 眞琴は助手席に座ってみて、はじめて他人の車であることに気がついた。

 翔一郎も内装には凝っている。

 純正のように見えるが、純正ではない。

 華美な装飾は簡単であるが、それはどこかわざとらしすぎて眞琴も鼻につく。華美に飾るのもまた、一つの楽しみ方であることは理解しているが、どうにも好きになれなかった。だからこそ、内装を弄る場合には純正の持つスタンダードさを崩さず、自分の持つ色をほんの少しづつ加味してやるカスタマイズが好きであった。

 そもそも、なんでもかんでも華美にしてやるくらいならば、その車でなくてもいいのである。

 車が持つイメージが自分の持つイメージと合致するからこそ、その車に乗るのであってそのイメージをぶちこわすようなカスタマイズは好きになれなくて、当然である。

 が、しかし、眞琴の乗り込んだ車は純正のレガシィ・B4の内装であった。

 何の気なしに覗き込んだフットペダルが純正のペダルのままだったのだ。

 「間違えたっ!」

 焦って車を降りようとしたところに車の持ち主らしき男が戻ってくる。

 五十を過ぎた壮年の男でどこか鋭い目をしている。

 熟練の車乗り特有の厳しさを持ったその男がこの車の持ち主だと思い、眞琴は急いでシートベルトを外そうとした。

 「あ、すみません!車間違えました!今、降りますから……」

 「黙れ」

 だが、男は何も言わずに運転席に乗り込み眞琴の頬を叩くと乱暴に車を発進させた。

 力一杯踏み込まれたアクセルがタイヤを唸らせ、乱暴に鉄の塊を押し出す。

 叩かれた衝撃と、車が横滑りする加圧に頭を振り回され、眞琴は混乱する。

 一体、何が起こったのだろうか?

 揺れる視界の中、若い男が焦った様子で走り出す車を見ているのを認め、理解した。

 ――自分は、今、とんでもない事に、巻き込まれたのだと。


 「至急、至急、管内移動に一斉に指示する。発生間もない自動車盗事件。発生現場は上山峠ドライブイン駐車場。盗難車両情報を送る、黒色、スバルレガシィ、ナンバーは………」

 至急報で入った無線に幹彦は焦る。

 だが、助手席に座る隆俊は小さく鼻を鳴らすと無線機のマイクを握った。

 「……南101から南。現在無線聴取、上山から緊急走行で向かう」

 「南了解。緊急走行の際は安全呼称実施し、受傷事故防止に配意せよ」

 「南101了解」

乱暴にマイクをフックに引っかけると隆俊はセンターコンソールに備え付けられたパネルのスイッチを入れ、サイレンを鳴らす。

 甲高いサイレンが吹鳴され、幹彦の心臓は一気に高鳴る。

 「行け」

 幹彦はハンドルを握る手が震えた。

 自動車の運転は嫌いではない。

 緊急走行だって、今まで何度かはやったことがある。

 ただし、赤信号無視で走行した車両を追いかけるのに交差点を渡る時や、速度違反を追いかける時にほんの少しの距離を速度超過したまま追いかける程度だ。

 本格的な、追跡はしたことが無い。

 ましてや、この路面である。

 これから峠道になれば完全に凍り、スケートリンクより凶悪な道路ができあがる。

 「ええ?行くンすか?」

 隆俊の拳が飛んできた。

 目の前に星が飛ぶ。

 「馬鹿かてめえわッ!」

 本気の拳だった。

 今まで殴られたことは何度もあったが、本気で殴られたのはこれがはじめてだった。

 「今、目の前で犯人が逃げてんだぞ!俺達が追わなくちゃ誰が追えるんだっ!」

 ナンバーまで判明していれば検問をかけて止める方法だってある。

 下手に緊急走行などしてハンドル操作を誤れば、死ぬ。

 言われるがままに、速度を出し、凍結路面を高速で走る。

 高鳴るエンジン音に釣られるように、タイヤが高音帯の音を奏でる。

 バリバリとフロントグリルの下を風が通りすぎ、車体が揺れはじめた。

 前をのろのろと走っている一般車両を見つけると、追い越しをかけようとする。

 ほんの少し、ほんの少しだ。

 ハンドルを切っただけで後輪が僅かに滑った。

 警察のスタッドレスタイヤはいい物を履いている訳ではない。

 限られた予算でそれでも配備されるスタッドレスタイヤは状態こそ気にするものの廉価のものである。

 ずるりと横滑りするパトカーの体勢をなんとか引き戻し、追い越しを追えると幹彦は確実な死の恐怖を感じた。

 「脇が甘ぇからだっ!オラ、飛ばせっ!」

 気がつけば、減速していた。

 横から殴られ、幹彦は再びパトカーを加速させる。

 死ぬ。

 絶対に、死ぬ。

 幹彦は恐怖に身を竦ませるが、やがて上山峠のドライブインの前まで来てしまう。

 不幸にも、彼等の眼前でその車は車道に飛び出てきた。

 ナンバーは完全に一致した。

 「追えッ!」

 幹彦は目の前が真っ暗になった。


 異変に気がついたのは翔一郎が用を済ませてからだった。

 戻ってきてみれば自分の車の横に、同じ外形の車が駐車していたので気にはなった。

 よく見れば違うことなど瞭然なのだが、眞琴が隣の車に乗っているものだからそっちが自分の車かと一瞬、勘違いをする。

 だが、見間違う訳が無い。

 であれば、眞琴が間違えている訳でそう思うと苦笑が零れる。

 その苦笑が凍り付いたのは次の瞬間だ。

 するするとその車に近づいてきた男が乗り込むや否や、眞琴を張り倒し車を急加速させて発進させた。

 駐車場を出て立ち去る車に翔一郎は半ば反射的に自分の車に飛び込み追いかけようとする。

 自分の車と、眞琴が乗った車の間にパトカーがサイレンを吹鳴させて割り込んだことから、本格的に事態の大きさに気がつく。

 「冗談じゃないぞ!」

 想定外の事態に遭っても動揺はしない。

 いや、確実に動揺はしている。

 だが、その動揺に振り回されるのではなく、適切にコントロールするように努める。

 それは車の運転という分野において、平均と言われる水準以上のものを求めるのであれば当然、心得のあることだった。

 翔一郎は動揺し錯乱しかける思考の中、自分がすべきことを意識ではなく反射に任せ的確に行っていく。

 レガシィに飛び込み、エンジンを掛け、急発進すると同時に追跡を開始する。

 それと同時に携帯電話を手繰り、110番通報を行う。

 「もしもしッ――!」

 どこまでも熱くなる血に反比例するように頭の中はクリアになっていく。

 普段、見せることのない焦りを含んだ声でも状況は的確に伝わったと思う。

 ――要するに、連れが攫われた。

 落ち着き払った110番の担当の声が苛立ちを加速させるが、それが、最も効果的に短時間に必要な情報を得るための技術だということを理解できるだけの理性は残っていた。

 長い下りの直線道路で先を走るパトカーの後方を捉えた。

 車両の性能としてパトカーも、自分も、そして、相手すらもそう抜きんでて大差は無い。

 いや、仮にあったとしてもそれが彼等の何かになることは無い。

 彼等の後方を後発で捉えたということは、彼等はそこで減速したことになる。

 つまり、その先に、高速では通過できない障害があることを意味する。

 翔一郎は跳ね上がる心臓を無理矢理抑えつけ、どこまでも冷静に判断を下す意識に従うことにした。

 やがて、下りの直線が終わり、同じ勾配のまま左に曲がるカーブが見えた。

 無論、路面は凍結しきっている。

 ――ひとたび操作を誤れば、惨事を免れないカーチェイスが始まった。


 幹彦は運転に自信が無い訳ではない。

 パトカーライダーを任されるに至る前から、通勤用にマイカーを購入していた。

 当時の上司に反対はされたが、よく走る車である。

 走る車に乗れば、心情として走らせたくなる。

 いけないこととは知りつつも、走り込んではいた。

 職場での徹底された遵法運転と、マイカーによる限界の無い走り。

 それらが相乗すれば両方の視点から中庸された運転が生まれる。

 事実、一般人では目を覆いたくなるような速度で侵入した凍結路面のカーブで幹彦は直前で可能な限り減速し、ハンドルを転把しながら加速することで素早い立ち上がりと安定した走行で必死に逃走車両に追従していた。

 パトカーで今のように追跡を行う場合、文字通り、『限界は無い』。

 法解釈を紐解けば色々と限界はあるのだろう。

 だが、現実に目の前に逼迫した事件があればその限界を問うて関係ない市民に犠牲を強いれるものではない。

 「――先指令続報有り。逃走中の被疑者運転車両の助手席に、女性一名が拉致されている状況」

 愕然とする。

 これがどのような状況か理解すると幹彦は震えが止まらなくなった。

 逃げられては、ならない。

 そして、事故も起こさせてはならない。

 逃げられてはならないとは、車両を停止させなければならない。

 捕まれば逮捕を免れず、刑事責任を問われる身でありながら警察官の制止に停止する者はどれほど居るだろうか?

 延々と事故をおこさせず、追跡をしなければならないとはどういうことか?

 生きた心地がしなかった。

 どんどんと離されていく。

 「踏み込め」

 隣で隆俊が重く、そして、鋭く吐き出した。

 自分も死ぬかもしれないというのに、この老警察官は何を言っているのだろうか。

 「もっとだ」

 無理だ。

 止まる勇気も必要だ。

 自分の命と、他人の安全を天秤にかけてしまう。

 その矢先、カーブを抜けた直線で大回りに回り込んでパトカーを追い抜く車があった。

 一瞬、前を走っている車が目の前に現れたような錯覚を覚える。

 同じ、レガシィB4。

 だが、よく見ればナンバーが違う。

 そして、鋭さも。

 人を乗せた車は鋼鉄の獣として息吹を持つ。

 だらしない人間が乗れば、だらしない雰囲気を、そして、鋭い人間が乗れば鋭さを。

 カミソリのように怜悧で、鉄のように堅牢な鋭さをもったレガシィの唸りは決して荒ぶってはいない。

 だが、攻められるギリギリまでを攻めるその走りは確かな経験に裏打ちされた隙の無い、そして、どこまでも早い走りだった。

 「焦りすぎだな」

 隆俊が鼻を鳴らして呟くが、幹彦は何のことかわからなかった。

 幹彦は二台のレガシィについていくのが精一杯で、やがてカーブにさしかかりタイヤが滑走する気持ちの悪い浮遊感を感じた。

 遅れてやってきたレガシィが先頭を走るレガシィを追い抜く。

 自分の知らない領域まで踏み込んだ幹彦はカーブの手前でほんの、そう、ほんの僅かにブレーキのタイミングが遅れた。

 曲がれない。

 そう思って、次の瞬間、ほんの僅かにブレーキを強く踏む。

 それだけで十分だった。

 制動を失ったクラウンが尻を振り始め、必死にカウンターを当てるが制動を取り戻せない。

 凍結した路面は一度奪った制動を返してくれるような路面ではない。

 幹彦は眼前に迫る雪山を見て、目を閉じた。


 翔一郎は後方で盛大に雪山に突っ込んだパトカーをバックミラーで認めると、舌打ちした。

 追いすがってくれるなら挟み込めるかと思ったのだが、あとはどこまで眞琴を載せたレガシィの頭を抑えられるかとなった。

 凍結路面で必死にライン取りをしようとする車の鼻をしっかりと押さえ込み、翔一郎はハンドルを転把する。

 時折、滑走する浮遊感が背筋に氷柱をねじ込むような怖気を駆け上がらせるがそんなことには構ってられなかった。

 翔一郎の後塵を拝する形となった哲夫は前を走るレガシィの運転中がそれなりにやる運転手だと理解した。

 運転技術は悪くはない。

 いや、自分が見てきたドライバーの中では最も優れた運転手だと思う。

 だが、哲夫は生来を泥棒として過ごしてきたのだ。

 また、今も泥棒をしている最中なのである。

 隣でガチガチと震えている眞琴を一瞥し、鼻を鳴らすとカーブの手前でサイドブレーキを引っ張ると後輪をロックさせる。

 前進しながら盛大に滑走した哲夫の車と翔一郎の車が引き離され、哲夫の車はそのまま横向きに回り出す。

 「反転ッ!?」

 翔一郎は思わず叫んでいた。

 先程、パトカーが雪山に突っ込んだのは見ていた。

 前を走るのが翔一郎のレガシィだけなら、何も、追い抜く必要は無い。

 「若ぇよな」

 哲夫の目的は、逃げることなのだから。

 カーブの手前で反転した相手の車を認めた翔一郎は大きく舌打ちする。

 緩やかなカーブを曲がりきるまでは下手な制動はできない。

 運悪く対向車が続き、翔一郎が反転する頃には大分距離が離れてしまった。

 再び、追いすがろうにも哲夫自信、相当、運転に覚えのある運転手である。

 ――趣味で覚えた走りと、生きる為に覚えた走り。

 積み上げた時間が同じならば、あとは覚悟の差だけが血肉となる質を決める。

 雪山に衝突したパトカーがそれでもなんとか、這いだしてきているのを横目に、哲夫はにやりと不敵に笑う。

 ここから復帰したところで追いすがれはしない。

 いきなり現れたもう一台のレガシィとも離れた。

 逃げ切れる。

 確かな確信を持って、走っていた。

 ――だが、生来を泥棒として生きていた哲夫はそこで覚える。

 背後から追いすがる者達の息吹が、変わった。


 隆俊は運転席で震えている幹彦を蹴飛ばし、助手席に押し込むと運転席に座った。

 「まだ走れるんだ。上等じゃあ」

 事故の報告を考え、真っ青になっている幹彦の頭を軽く撫でると隆俊は笑った。

 「いつまでもブルってんじゃねえぞ。雲助が車ぶつけるのなんざ日常茶飯事だ。死ぬ目に合うのはこれからだぞ」

 どこか遠くの世界の言葉のように聞こえる。

 隆俊は軽妙なアクセルワークでタイヤがロックするギリギリのトルクで雪を蹴らせる。

 雪山に突っ込み脱出できないと思っていた幹彦の予想を裏切り、クラウンはゆっくりと車道に戻る。

 やがて、追いすがる翔一郎のレガシィと対向し、隆俊は翔一郎の顔を見てにやりと笑った。

 翔一郎は隆俊のどこまでも不敵で、諦めないその笑みを見て、背筋がゾクリとした。

 死線を潜り抜けてきた男の持つ、熱。

 それが翔一郎の認めていなかった焦りを消し飛ばした。

 クラウンが意味もなくエンジンを噴かし、吠える。

 それは鋼鉄の獣が真っ向から喰らいにゆくと宣言するかのように雪を降らす暗雲に包まれた空に響き渡った。

 咆哮に応え、レガシィが吠える。

 限界までアクセルを踏み込んだ翔一郎は自分が笑っていることに気がつく。

 クラウンが、タイヤをロックさせて反転する。

 タイヤが路面を噛み、盛大に雪を跳ね上げ鋼鉄の獣を押し出す。

 「ジャパナギ、鳴らせ」

 正義の車のみが吠えることを許された、サイレンが鳴り響く。

 煌々と輝く赤い光が、飢えた獣の眼光のようにギラギラと映える。

 そうして、隆俊は獣の御者としてクラウンに鞭を打った。


 哲夫は背後から迫るレガシィとクラウンの放つ重圧感を感じた。

 曲がれないと思うスピードでクラウンが翔一郎のレガシィの脇をかすめ、カーブに突っ込む。

 車体を横滑りさせ、鼻先をカーブの内側の雪山に突っ込ませ、ギリギリまで減速をかけると即座に加速しカーブを抜ける。

 その背後から直線を荒々しいスピードで走る翔一郎のレガシィが追いすがり、次のカーブで後部バンパーで雪山をなぞり、加速してくる。

 ツートンと漆黒のレガシィが追いすがってくる。

 哲夫はこの感覚を知っていた。

 泥棒をして車を盗み、逃げるのは生きる為だ。

 捕まれば、しばらくはシャバから別れ、刑務所で暮らさなければならない。

 だからこそ、走りには妥協しなかった。

 覚悟も済ませていた。

 その覚悟を越えて、なお、迫れる覚悟があるとするならば。

 ――悪に、『絶対に』負けないとする正義の覚悟。

 幹彦は助手席でハンドルを握る隆俊の横顔を見た。

 獰猛なまでに歪められた双眸が、しっかりと前を走る哲夫のレガシィのテールランプを睨み、細く吐き出す息が精巧な操作を確実に行わせる。

 今だからこそ、理解できることがある。

 口うるさい老爺が度々、脇が甘いと叱るのは高速運転で暴れるハンドルを抑え、的確に転把する為だ。

 メーターを見ずとも速度がわかるようにするのはこの域に達すれば、もはや車の情報を見ている暇も無いからだ。

 何故、そこまでするのか。

 同じ、警察官だからこそ、理解する。

 ――パトカーは逃げられてはならない。

 無理に逃げる車を追いかけない場合も、確かに、ある。

 だが、逃がしてはならない相手を前にしたとき、運転の熟練、未熟を問わず、彼等は負けてはならない。

 ミニパトではない、彼等は自動車警ら隊のパトカーライダーなのだ。

 ――自分たちに逃げられる相手を、他の誰が捕まえられようか。

 悪が、勝つのである。

 あっては、ならない。

 それは人が人らしく生きていく為の倫理の絶対律。

 だからこそ、101ナンバーを背負うパトカーは敗北してはならない。

 そう強いて生きてきた生粋のパトカーライダーである隆俊がハンドルを握ったクラウンパトカーはその正義を荒々しい走りの中に、見せていた。

 王冠の名を冠する、正義の象徴は瞬く間に悪の乗るレガシィに追いついた。

 びったりと食いついたクラウンは相手がどんな挙動を取ろうが、しっかりと背後に食らいつき、離れない。

 その横を、魔術師が駆け抜ける。

 ほんの、一瞬、そう、ほんの一瞬。

 カーブでの僅かに開いたインコースに滑り込んだ翔一郎のレガシィが先頭に立つ。

 鼻先を押さえられ、後ろを捉えられた哲夫はそれでも逃げようと左右に車を振る。

 だが、どこまでも執拗に押さえつける二台の車に、哲夫は確実な敗北を悟った。

 「前の車両、停止しなさい」

 どこまでも冷淡に告げられたその言葉に従った訳ではない。

 彼等がどこまでも警察官であるように、また、哲夫もどこまでも泥棒であった。

 自分が捕まるべき時は、自分でわかる。

 自分を飲み込むくらいに、大きな器の警察官ならば、捕まっても恥ずかしくは、無い。

 哲夫は、長く、大きな溜息をつくとゆっくりと減速した。


 全てが終わる頃には、日付が変わっていた。

 警察署を出てきた翔一郎と眞琴はとにかくゆっくり休んで眠りたかった。

 取調に次ぐ取調で、お互いの顔をろくすっぽ見ていない。

 お役所仕事だと思えば、怒る気にもなれなかったが、それでも機会を失した感は拭えない。

 「あ、あのさ……」

 眞琴はそれでも、翔一郎のコートの裾を掴む。

 「んー」

 翔一郎はいつもの、どこか頼りない兄に戻っていた。

 だが、気だるげな顔の中に、何かを発見した熱さをひた隠しにしている様子を、長い付き合いの眞琴だからこそ、見抜いていた。

 「あの……ありがとう」

 「ん……ああ」

 翔一郎はようやく我を取り戻し、眞琴の頭を撫でる。

 くすぐったそうに身を寄せてくる眞琴が震えていた。

 怖かったのだろう。

 兄としてあるならば、せめて、兄であらねばと思う。

 「よう、ヒーロー」

 年老いた警察官に声をかけられた。

 追跡劇の最中、視線を交わした警察官だ。

 「いえ……」

 「やるモンだな?同業か?」

 「そんなんじゃ……どうなんでしょうかね」

 翔一郎は俯き、苦笑してみせる。

 同じフィールドの高みにある者同士が互いを認めた時の自制が、そうさせた。

 誇れば、それは価値を失う。

 だからこそ、苦笑して誤魔化すのだ。

 「いい腕だよ。助けられた」

 ぶっきらぼうに告げた老爺の吐き出した溜息はどこまでも寂しそうだった。

 自分が繋いだ後輩達ではなく、市井に戦える者がいる皮肉。

 翔一郎がその感慨を知る由は無かった。

 遅れてその場に現れた幹彦が何かを言おうとしたが、その寂しそうな顔を見て言葉を呑んだ。

 未熟さに、目を瞑れる程、不様にはなれなかったからだ。

 翔一郎はそんな彼等を見て、理解は及ばずとも、だが、確かにある哀惜を感じ、告げた。

 「永遠の二番手である方が、難しいんですよ」

 その意味は隆俊にしか理解できず、隆俊は苦笑する。

 そうして、何も言わずに翔一郎の頭を撫でると警察署の中へと消えていく。

 「今度、ゆっくり遊びに来な。夏も存外、楽しいモンだぞ北海道は」

 去り際にそう残した隆俊の言葉に、翔一郎はそれも悪くないと苦笑した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本家っぽい台詞が好きです [一言] 別の方が書いた作品ということで、翔一郎と真琴がどう描かれているのかを楽しみにしていました。 最初は、妙に若い翔一郎と女子高生している真琴に「へえ、井口さ…
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