げんまん
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「美奈子さん…結婚しませんか?」
「「ダメよ」」
斬り捨て御免!
というカンジで、孝太は真っ二つにされた。
「「まだ、チャンピオンになったばかりでしょ? 調べたんだけど、義務的な試合が、1年以内にまたあるみたいだし…大事な時じゃない」」
う。
そうなのだ。
チャンピオンになると、定期的にタイトルマッチがやってくる。
これから、孝太は防衛戦をやりまくらなければならないのだ。
「じゃあ…じゃあ、何回防衛したら結婚してくれますか?」
彼なりに、真面目に考えている。
美奈子が、どうすれば自分を伴侶と認めてくれるか、一生懸命考えているのだ。
その目標があれば、孝太はもっと頑張れる気がした。
なのに、美奈子は微笑むのだ。
「「そういうことを…言わなくなったら、ね。防衛戦って、甘いものじゃないんでしょう?」」
言われて、ぐうの音も出なくなった。
その通りだ。
その通りなのだが。
「じゃあじゃあ…美奈子さん、ひとつだけ約束してください!」
いますぐ結婚ということは、あきらめる。
ボクシングもしっかり頑張る。
だから、ひとつくらい孝太は飴が欲しかったのだ。
美奈子からもらえる飴ならば、どんな味でも形でも喜んで受け取る。
「オレと結婚するまで…誰とも結婚しないって約束してください!」
そんな必死な孝太に、彼女はくすくすと笑う。
「「孝太くんの方が、他の可愛い子にふらふらいっちゃうかもよ」」
「行きません! 絶対! 約束します!」
孝太は、小指を突き出した。
美奈子は、少し懐かしそうにその小指を見る。
「「じゃあ…お互い約束ね」」
ゆびきりんげんまん。
嘘ついたら、針千本のーます。
薬指をつなげたまま──孝太は、歌う彼女の唇に吸い寄せられていた。