おあずけ
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取材の、嵐だった。
チャンピオンになった途端、更にそれは加熱した。
19歳という年齢は、彼をインスタントなヒーローに仕立て上げるにはちょうどいい材料だったのだろう。
これまた、孝太が言葉下手でどもりながらも、一生懸命答える姿が、お茶の間の女性の母性本能をくすぐるとかで、スポーツ関係以外の取材も多くて、死にそうだった。
一番困ったのは、彼がどこへ行こうと追いかけてくること。
ランニングしていても、コンビニへ行こうとしても、だ。
だから。
美奈子の家へ、行くタイミングさえ見つけられなかった。
「どうせすぐ飽きるだろうから、しばらくほっとけ」
トレーナーも先輩も、そう言ってくれはするが、孝太はジリジリし続ける。
「女の人と会うのって…どうしたらいいですかね」
夜の部屋で、真治にぼそりと愚痴ってみる。
チャンピオンになった試合のファイトマネーが入れば、どこでも好きなところで一人暮らしは出来る。
けれども、孝太は一人暮らしに興味はなかった。
ここが、落ち着くのだ。
「ばっかじゃねぇの? お前」
突然、けらけらと真治は指を差して笑い出す。
そんな、笑われるようなこと、言っただろうか。
「会えばいいじゃねぇか。堂々と。誰に見られて困るってんだ。お前はアイドル様か? んん?」
言葉が終わりきるより早く。
孝太は、立ち上がっていた。
あ、そっか。
普通に会えばいいんだ。
普通に会ってもいいんだ。
それが分かると、猛烈に身体が軽くなった。
「ちょ、ちょっと行って来ていいっすか?」
孝太が飛び出そうとするのを、真治はがっしりと掴んで止める。
「よ、夜はやめとけ…日のある内に行って、日のある内に帰ってこい、いいな?」
一応、相手のことも考えて、な?
言われて、孝太は衝撃で動けなくなった。
明日まで。
明日まで、待たなければならないのか。