勝ちました
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ガバァッ!
孝太は、飛び起きた。
呑気に寝ている状況では、なかったはずだという、自分の身体の警告のおかげだ。
明かりのついたままの部屋。
見覚えのある、美奈子の部屋だった。
気絶しながらも、自分は無事にここまでたどり着いたようだ。
顔も身体も、ズキンズキンと痛む。
そんな中、反射的に彼女を探した。
すぅ。
壁に背中を預けるように──美奈子は毛布をかけて眠っていた。
ストーブがあたたかく燃えている中、孝太は痛む身体を引きずりながら、ごそごそと布団からはいでる。
顔を、覗き見る。
何ヶ月ぶりの、彼女だろうか。
会いたくて会いたくて、孝太はそれでも頑張ってきた。
そして──勝ってきた。
終わったら、すぐに会いに来ると約束したのだ。
言葉通り、タイトルマッチが終わって、やるべきことを全部やった後、彼はそのままタクシーに飛び乗ったのである。
体力は、全部使った。
使い果たした。
だから、今日は走れなかったのだ。
走るどころか、タクシーに乗った途端、目の前が真っ暗になって。
ただ。
ただ──勝った。
勝った、勝った、勝ったのだ!
ベルトは置いてきた。
そんなものがなくても、美奈子はきっと信じてくれる。
彼女の、瞼が微かに動く。
まつげが、震える。
瞳が、ゆっくりと開く。
「美奈子さん…」
腫れあがった顔で、孝太は語りかけた。
「美奈子さん…オレ、勝ちました」
これを──言いに来たのだ。