タクシー
○
そんな二月も末の真夜中。
ガタガタンッ。
玄関の揺れる音に、美奈子は飛び起きた。
風で揺れる音では、なかったせいで驚いたのだ。
夜は、当然ながら施錠している。
二、三度、ガタガタと揺らされる。
上着を羽織って、玄関へと向かった。
一体、誰なのか。
「ちょっと、美奈ちゃん! 起きて! 起きて!」
隣のおばさんの声だった。
慌てて鍵を開ける。
引っ張られた先には、タクシーが待っていた。
「この子、あんたんとこに来てた子じゃないかい!?」
後部座席で、大の字になって──孝太が倒れていたのだ。
たったいま、殴り飛ばされたとしか思えない、腫れ始めた生々しい顔。
血は絆創膏で止められているようだが、ひどい有様だった。
「この辺の住所を言った途端、気を失ったらしくてね。うちに聞きに来たんだよ」
おばさんの声に、こくこくと頷く。
タクシーの運転手に頼んで、孝太を部屋に運んでもらい、運賃を支払う。
運転手は、何度も何度も孝太を見ていた。
何か言いたげに美奈子も見たが、結局そのまま行ってしまって。
そして──静かな、冬の真夜中に戻った。
寝る前と変わったのは、孝太がいること。
まるで。
初めて出会った日のようだ。
彼は、顔を腫らして倒れていた。
あの時と同じ、生々しい殴られた跡。
明日には腫れあがって、誰だか分からなくなるだろう。
ああもう、まったく。
孝太は──変わっていなかった。
変わっていないことが、本当に嬉しくて。
枕元で、いっぱいいっぱい泣いてしまった。