尼僧
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二月も終わりになると、美奈子はまるで尼僧のようになっていた。
もう。
もう、孝太は来ないのではないか。
そんな諦めにも似た感覚が、心の中を渦巻いていたのだ。
彼は、正直で素直な人だから、来ると言ったら、いつか来る。
それを、疑っているわけではない。
ただ。
今日来るのだろうか、明日来るのだろうか。
そう考え続けるのが、自分で耐えられなくなってきたのだ。
もう来ない。
そんな風に考えている方が、楽──自分を守れる気がした。
名前しか知らない。
電話番号も住所も、どこで仕事をしているかも知らない。
ただ、彼が美奈子の家を知っていて、彼の気分で訪ねてきてくれる。
そんな、一方通行の関係だったのだ。
ちゃんと、聞いておけばよかった。
話す時間は、結構あったはずだ。
しかし、突っ込んだ話をお互いしなかった。
聞かれたくないことかもしれない。
親の話や仕事の話。
あの年齢で独り立ちして働いていて、顔を腫らしてくる。
どうひっくり返しても、彼にとっては話しづらい気がしたのだ。
孝太も、そんな話は聞いてこなかった。
この声のこととか。
お互い、話しづらいことはある。
それを詮索するのは、よくないことだ。
美奈子は、そう大人の気持ちで割り切っていた。
だが。
そうではなかった。
そうではないのだ。
詮索でもなんでもよかった。
孝太のことが──ただ、知りたかった。