チャンネル
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宣言通り。
孝太は、こなくなった。
季節が変わって冬になる。
彼女はいままで通り、ただ黙々と翻訳の仕事をこなし、一人分の食材を買い物に行く。
もう来るのではないか。
もう仕事が終わったのではないか。
玄関が、誰かの手で開けられる度に、美奈子の心はかき乱された。
お盆が終われば、年末などすぐだと言われる。
本当に、すぐ来た。
クリスマスで浮かれる町も、年末の準備で浮かれる町も、美奈子は避けた。
いつも通り。
そう、いつも通りすごせばいいのだ。
ただ一人で。
冬野菜は、サラダの材料が変わる。
キュウリがなくなり、ブロッコリーが出てくる。
温野菜に、適当な野菜も多くなる。
『あったかいサラダなんて、初めてっす!』
いつだったか。
温野菜サラダを出した時、彼は目を輝かせた。
カボチャやニンジンを、おいしそうに口に押し込んでゆく。
身体の冷えるようなものばかりでは心配で、温かいスープを作ったりもした。
野菜だけのスープ。
彼は、嬉しそうに食べた。
寒い季節だ。
孝太は、ちゃんと温かいものを食べているだろうか。
殴られてはいないだろうか。
家で夜、ぽつんと一人でいると、することがない。
仕事も一段落ついた。
テレビをつける。
『来年行われるボクシング・チャンピオンカーニバル、各階級の指名選手が決定いたしました』
スポーツ番組だった。
美奈子は──チャンネルを変えた。