「はぁ~~~あぁ」
かたやパソコンで制作したワード文書、かたや日本伝統の和紙にさらりと書き流したかのような墨痕鮮やかな毛筆での手書き。
思いっきりハイテクとローテクが同居しているが、これは仕方がないのである。
「おや、ほしのひめ殿。残業ですか?」
「ええ。まあ」
そう言って久しぶりに机上のキーボードとディスプレイの画面との往復を止めた相手の頭には美しく整えられた髷が結わえられていた。
まあ現役の武士だった彼の享年においてはごく自然だったので誰も何もつっこまない。
「お疲れ様です。では、それがしはこれにて」
「はい。綾姫によろしくお伝え下さい」
というこの会話が表すように、こういった事務仕事を自分の式神や彼のような使役している幽霊や妖怪に任せる巫女が多い。
……というか、ほとんどがそうなのである。
では全て手書きで統一すればいいかというとそうでもない。
「ん? これは……ほしのひめ殿ですか」
「ああ、中村殿。残業でしたか」
「はい。恥ずかしながら最近、机仕事をおろそかにしていまして」
領収書が……と頬をかくこの中村殿、もとい中村さんはれっきとした生きている人間である。
「ですがそうおっしゃるほしのひめ殿も同じご様子ですね」
「はあ。ちょっと……」
と今度頬を書いたのは私の方である。
「よろしければ、お手伝いいたしましょうか?」
始めてからかなり経つというのに題名から2~3行しか進んでいない私にとっては願ってもない申し出なのだが、残念ながら彼の給料を払っているのはウチの一族でもなければ当然私でもない。
「いいえ。中村殿も主の鈴姫殿が待っておいでなのでしょう?」
これは私の仕事ですから、と頭を下げて中村さんには丁重に断って…………。
「はぁ~~~あぁ」
深いため息を吐いてから式神も使役する幽霊も妖怪も使用人を付けてくれる実家もない私はキーボードとディスプレイの画面との視線の往復を再開したのだった。
斗姫からのお言葉
「どうも。主人公です。ないない尽くしですみません。今回は事務関連の話でしたね。次の更新は8月8日を予定しております。今まで日付が抜けていて申し訳ありません。そして良ければまた読みに来て下さい」