私たちには、親がない
先ほど通ってきた廊下を逆戻りすると、みな出勤してきたのだろう、それぞれの部署に、人の賑わいが溢れていた。
「野良犬」
「薄汚い」
「ご当主の慈悲にすがりついて」
「いつまで居座る気かしら」
「さっさと出て行けばいいのに」
「誰も一族とは認めない」
「認めるはずがない」
「だってあれは……」
そんな雑音も混じるようになった頃、私はこの辺の部署が共同使用する給湯室へたどり着き、
「おはよう。ったく、あの手の連中はいつも元気ねー」
「由姫……」
ポットへ水を入れながら挨拶をしてくる、他部署の同僚に行き当たった。
私たちには、親がない。
正確に言えば、一族を嫌って飛び出したのだ。
彼らの言う、因習に囚われることのない現代社会へ。
私たちという、「化け物」を代償に。
そんな風にして置いていかれる子供の数は、少なくない。
一族において巫女を産むということは、生涯に渡る生活への保障を意味する。
けれど最近では、「化け物」を自分たちの子供として認めるくらいなら、と放棄を申し出る親が多い。
熨斗を付けてくれてやる、といったところだろうか。
あるいは、手切れ金のようなものなのかもしれない。
残された子供が、一族中から蔑まれても、彼らは「自由」を得ることになる。
彼らと、新しく生まれる彼らの「本当の子供」たちとの輝かしい未来のため、時代錯誤な一族へ「化け物」を譲り渡し、新しく旅立つのだ--。
そう決意した親の中に、私の親も由姫の親も居た。
ただ、それだけのことだ。
だが、それだけのことが、私たちを一生「野良犬」にさせる。
親が子供を放棄するという泥を塗っていったため、祖父母からの庇護を受けられず、一族からの支給を頼るほかない、「薄汚い」「野良犬」に。
斗姫からのお言葉
「どうも。バックボーンが明かされた主人公です。しょっぱなから蔑まれまくりですみません。まあいつものことなんで、勘弁してください。ちなみに「由姫」も本名ではなく、「○由」姫で、「由姫」です。さて、次の更新は7月7日を目指しているそうです。今度も来月ですので何とかできるかと。なので良ければ読みにきてやってください。それでは」