無口・無表情・無愛想
思えば、私が前任の上司に付けられたのも、身持ちの固さだけではなかったのかもしれない。
無口・無表情・無愛想。
社会人として生きていくのに必要なスキルを三つも欠いていた私が、どんな形であれ、意見を出すようになった。顔に見せるようになった。愛想笑いだって浮かべるようになれたのは、……しゃくなことだが、前任の上司のお蔭といえなくもない。
上の人間にとって、あの配置は、ショック療法のようなものだったのだろうか。
前任の上司への戒めだけでなく、部下の私にとってみても。
そう考えると、少し怖くなる。
じゃあ、今の上司は?
何の落ち度も考えられないあの今の上司は、一体どんな思惑で、この部署に送られたのだろう。
今の上司も今の上司だ。
こんなに奥へ送られて、出世コースとは明らかに無縁となったはずなのに、淡々と仕事をこなし続ける、そのモチベーションは一体どこから来るのだろう。
あるいは上の人間との条件付きで、何らかの密約の元、期間限定で送られたのだとしたら?
その目的が--自意識過剰と言われても仕方がないが--もしかしたら、私にあったら。
「私の成長」が鍵なのだとしたら、私は何を、どうすればいいのだろう。
ふいに訪れた考えに身を凍らせると、見慣れた景色が飛び込んできた。
無意識とはおそろしい。いつの間にやら、自分の部署に着いていたのだ。
「ああ……」
私はため息を吐き、浮かんだ考えを振り払らうと、部署の入り口のノブを握った。
そんなこと、あるわけがない。
私は自分にそう言い聞かせた。
ずっと下をうろちょろする、私はそれだけの存在なのだと。