私は今、生きている
地下から汲み上げられた水は、ほんのりと抱えられた大地の気が残っていた。
水底でたゆたいながら見上げると、ガラスで張られた天井を通して澄み渡った空が見える。
あまねく差し込む光に目を細め、移ろいゆく雲に風を感じた。
……私は今、生きている。
巫女として生きる力を授かり、自然の力を借りて、今、ここにある。
それを思うと巫女でいられる幸福感に浸る反面、いずれ来る霊力の喪失がせつなくなる。
年齢によるものか、他の要因からくるのか、それすらもわからない。
けれど、私はいつまで巫女でいられるのだろう。
私の霊力は、いつまで保ってくれるのだろうか。
いつまで私は、お祖母さまのお側にいられるのだろうか--。
そう考えた瞬間、私は物凄い勢いで水面から引き上げられた。
気分は釣り上げられた魚である。
……まあ、正確にはこの場所の番人兼管理人から清掃用のブラシを使って引っぱり出されたのだが。
「斗姫さま、時間です」
「…………わかってる」
そう告げてきた相手の声は淡々としていた。
正体を知らなければ機械的と評しただろう。
この場所の番人兼管理人である式神に感情などない。それはよくわかっている。
それでも私には相手の目に呆れを感じた。
ここまで手間がかかるとは……そんな私への呆れを感じ取ったのは、やっぱり自意識過剰なのだろうか。
とにかく私は清掃用具越しとは信じがたいほどに優しく丁寧に着地させられ、ばつの悪い思いをすると同時に、充実している気力から自身が清められたことを感じとったのだった。