私は自分自身を封じ込めた
更衣室へ設置されている全身鏡の前に立った。
写る姿は白装束に身を包んだもう一人の自分。
巫女としての自分。
何にも揺らぐことのない凛としたあの方の姿を思い描いて--私は自分自身を封じ込めた。
更衣室の出口はそのまま禊の場への入り口でもある。
遊泳用の施設ではないため、目を見張るほどの広さはないが、一人で使うには十分すぎる広さだった。
これまた備え付けの桶を取り、体を水温へ馴染ませるべく浅瀬で水を浴びると、私はそのまま足を進めた。
くるぶしを浸すだけだった水位は膝を越し、腰を漬け、胸元へとせり上がった。
汲み上げられた地下水は血が凍りそうに冷たかった。
手がかじかんでくるのがわかる。足の感覚はすでに無い。青ざめていく顔色には効果音が付きそうだ。
真冬など、心臓が弱い人間なら即死してしまうのではないかとさえ思う。
それでも上がりたいとは思わない。
だからこそ精神が研ぎ澄まされ、余計なことを考えずに済ませられたり、凝り固まった考えをほぐすことができるのではないかと思えるからだ。
何より、清浄な地下水は一線を越せば一気に受け入れてくれる。
どれだけ冷たさにこごえても、人間として生きるために受けてしまった穢れをすすぎ、巫女でありたいのだと念じ続ければ。
自然の力を借りて生きる巫女を、水が受け入れないはずがない。
じきに戻ってきた感覚に顔をほころばせると、私は水中へ潜っていった。