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恋する乙女は盲目で愚かで愛おしい。

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/09/27

 恋に溺れると人は盲目になる。

 彼の、彼女の悪いところが見えなくなる。

 周りの人が指摘すると、それは愛を燃やす燃料となるだけ。


 私の友達、どうみても騙されている。

 男、顔良いだけで、性格滅茶苦茶悪い。


「今、すぐ近くなんだって、ごめん。彼に会ってくるから」


 そう言って彼女が途中でいなくなることが何度も続いた。


「もうちょっと自分の時間を大切した方がいいよ。都合よくつかわれていない?」

「それ、嫉妬?どうしても私に会いたいって言ってくれるのよ。だから、会いに行くの」


 友達はまったく聞き耳を持たず、一か月後、彼女は妊娠。

 その途端、男は行方をくらましたらしい。

 最悪だ。

 だけど、彼女は騙されたとは思っていなかった。

 何かあったから連絡とれないと信じていた。


「ちょっと顔かして」


 歩いていると、私はあいつを見かけた。

 ちょっと文句言いたくなって、声を掛けた。


「誰?」


 男は訝しげに私を見る。

 それはそうだろう。

 面識なんてないから。

 彼女が見せてくれた彼氏の写真、私はそれで男を見つけた。


「あんたが騙した女の友達。どうも頭にくるのよ。文句言ってやりたいと思って」


 私がそう言うと急に奴は私の両腕を掴んだ。


「その友達のところへ連れて行ってくれないか」

「はあ?なんで今更?あんた自分がやったこと知ってんの?」

「知らない。ただ、弟の恋人だった女性に会いたいんだ」

「弟?」

「君の友達と付き合っていたのは俺の弟だ」

「作り話しないでよ」

「作り話じゃない。ほら、これ」


 スマホの写真を見せてくれ、そこにそっくりの顔が二つ並んでいる写真があった。


「……加工ってこともあるけど」

「そんなに疑ってんの?だったら、戸籍見せてやろうか?」


 男は私の腕を掴むと、役所を歩いていき、戸籍謄本を発行してもらった。

 確かに、彼らは双子だった。


「ごめん。疑って」

「ああ、いいよ。だって、何かあったんだろ?友達に」

「うん。友達、妊娠したんだ。でもあんたの弟は!」

「妊娠!」

「おろしたほうがいいって言ってるんだけど、きかなくて。あんたの弟、遊びだったんでしょ?責任とってくれるの?みちちゃん、ずっとあんたのクソ弟を信じてるんだけど?」

「クソ弟!俺の弟のことをそんな風に言うな!弟だって好きで放置してたんじゃない。弟、事故にあったんだ。それで記憶がなくて」

「事故?記憶喪失?そんなこと」

「信じてない?だったらついてこい」


 私はそいつにつられて、病院にいったら、そいつと同じ顔の男がベッドに寝ていた。


「釣りしていたら、船から落ちて頭を打ったみたいなんだ。一緒に乗っていた友達が助けてくれたら、なんとか命は助かった。その友達のことはごめん。弟はこんな状態だから」

「おろしてってこと?」


 そう言うと、そいつは黙った。

 確かに記憶がない状態なら、子供はおろしたほうがいいだろう。だけど、


「みちちゃんに事情を話して、連れてくる。それでみちちゃんが決める」


 みちちゃんを見て記憶を取り戻す、なんてドラマ的なことはないかもしれない。 

 だけど、そんなことあったら、私、恋する気持ちを信じてもいいと思った。


☆


「大丈夫?」

「うん」


 事情を説明するとみちちゃんは、やっぱり会いたいって言った。

 だから私は、彼女を病院に連れいくことにした。


「……陽介くん」


 みちちゃんは、ベッドで座っている彼を見て泣き出してしまった。


「……みちこ?」


 彼は美智ちゃんを見て、そう名前を呟く。


「陽介!お前」

「わからない。だけど、」

「陽介くん、私、あなたがこんな状態だって知らなくて、ごめん。きっと私のことわからないよね?」


 みちちゃんは泣きながらそう言う。


「わからないよ。だけど、だけど」


 陽介、そいつもぽろぽろと泣き出した。


「君のこと見ると胸が苦しくなって、わからない」

「ごめんなさい。私、陽介くんの負担になっていたんだよね。ごめんなさい」


 そんなことあるはずがない。

 そう叫びたかったけど、私は我慢した。

 もう一人、兄のほうも何か言いたいけど、堪えているみたい。


「でも、陽介くんが無事でよかった。ありがとう」


 みちちゃんはそう言って、頭を下げるとベッドに背を向けた。


「みちちゃん!」


 そして出ていくので私は慌てて追いかけた。

 彼女は私に構わず、どんどん歩いていく。


「連れてきてくれてありがとう。もういいから」

「みちちゃん?」


 みちちゃんは、このまま産むことにしたみたい。

 だけど認知は要求しないって。

 私には信じられない。


「彼の子どもを産みたいの。私が彼を好きだって気持ちは本物だから」


 私には理解できない。

 本当に。


☆


「どういうこと?記憶はもどったの?」

「もどっていない。だけど、父親になりたいって陽介が」

「わからない」


 お腹が大きくなったみちちゃんに寄り添う、男。

 それは陽介で、隣にいる奴の弟だった。


「責任感?」

「それもあるけど、多分、陽介、もう一回みちちゃん?のこと、好きになったと思う。スマホが海に落ちたけど、アプリにバックアップされていたみたいで、メッセージとか復活したんだ。全部じゃないけど。そのみちちゃん?とのやり取りを眺めて、陽介は決めたみたいだ。もう何度かあってるみたいだ。ほら、本当に夫婦みたいだろ」


 言われてみれば、とても仲よさそうな夫婦に見える。


「理解できない」

「俺もだけど、幸せそうだから」


 先のことはわからない。

 私は当事者じゃないし。

 だけど、目の前の二人はとても幸せそうだ。


「何かあったら、全力で支える」

「俺も、そうするよ」


 そいつは笑う。


「あ、あのさ。もしかして、俺の名前知らないでしょ?」

「知らない。興味ないから」

「酷いな。俺の名前陽太っていうんだ」

「ようた、ね。登録しておく」

「あ、そういえばスマホの番号教えていたよな。その時、なんて登録してたんだ?」

「みちちゃんの元彼の兄」

「長っ!」

「知りたくない人の名前なんて知りたくないから」

「変わってんな」

「どうでもいいでしょ。じゃあ、私は帰るわ。みちちゃんも元気そうだし」


 陽介ってやつの隣の、みちちゃんは本当に幸せそうだ。

 笑顔がとても可愛い。

 

 恋する乙女は盲目だし、愚かだと思った。

 だけど可愛い。


「みちちゃん、私、帰るね。気を付けて帰ってね。陽介くんだっけ、みちちゃんのことよろしく」


 二人に声を掛けて、背を向ける。


 私は一生恋なんて、わからないかもしれないなあ。


「恵ちゃん、待って。一緒に帰ろうぜ」

「……嫌だから」


(おしまい)

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