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紡ぎ人

作者: ときる
掲載日:2026/04/28

言葉一つで、人はボロボロになります。

言葉一つで、救われることもあります。

 むかしむかし、あるところに、言葉を紡ぐ“紡ぎ人”というものが住んでいました。

 

 紡ぎ人が言葉を紡いで渡すと、人々は幸せになりました。

 そしてまた、そのお礼として言葉を受け取り、その言葉を紡ぐのです。

 

 紡ぎ人はその言葉が大好きでした。

 

 できることならば、たくさん、たくさん欲しかったのです。

 その言葉を大切に引き出しに入れると、きらきらと輝いて、とてもきれいだったからです。

 

 そんなある日、一人の人間がやってきて、言いました。

 

「お礼に言葉をたくさんあげるよ。その代わり、たくさん言葉を紡いでくれるかい」

 

 紡ぎ人は喜びました。

 たくさん言葉をもらえると聞いて、たくさんたくさん言葉を紡ぎ、その人間に渡しました。

 

 けれども、その人間は言葉をくれませんでした。

 それを問うと、ボロボロの、小さな言葉をひとつ、投げ渡してきました。

 

「まだ足りないだけだ。もっと言葉を紡いだら、それよりももっとたくさん言葉をやるから」

 

 紡ぎ人はそれを信じました。

 

 引き出しから言葉を取り出すと、ひとつひとつ丁寧に紡ぎ、その人間に渡しました。

 それでも、返ってくるのは(しつ)の悪い、ボロボロの言葉ばかりでした。

 

 そのうち、ひとり、ふたりと、言葉を欲しがる人間が増えていきました。

 紡ぎ人はまた、引き出しを開け、ひとつひとつ丁寧に言葉を紡ぎます。

 

 それでもやっぱり、誰一人として、言葉を返してくれる人はいませんでした。

 

 今日もまた、言葉を紡ごうと、引き出しを開けました。

 しかし、引き出しの中にはもう、紡げる言葉はありませんでした。

 

 代わりに、小さくて、ボロボロで、色のない言葉が、たくさん、たくさん入っていました。

 そして、大切にしていたその引き出しも、いつの間にか穴だらけになっていました。

 

 紡ぎ人は、悲しくて、悲しくて、悲しくて、

 

 ――泣きませんでした。

 

 引き出しは穴だらけなのに、なぜか、小さくて、ボロボロで、色のない、“紡げない言葉”は、穴から落ちてはいきませんでした。

 

 時々もらった素敵な言葉は、すぐに落ちてしまうのに……。

 

 紡ぎ人は言葉を紡ぐことをやめました。

 言葉を集めることもやめました。

 ただただ、悲しくて、それなのに泣くこともできなくて、くるしい、くるしい、と膝をかかえていました。

 

 何年も、何年も――。

 

 ある時、紡ぎ人は小さな「いと」のかけらを拾いました。

「いと」のかけらは、よく見るとあちこちに落ちています。

 

 それを拾って、少しずつ、少しずつ()っていき、とうとう、長くて丈夫な「いと」となりました。

 

 なぜだか、それをどうしても誰かに見てもらいたくて、その気持ちがどうしようもなくて、紡ぎ人はそっと、その「いと」に「言葉」を通してみました。

 

 そして端を持ったまま、遠くにぽーんと、投げてみたのです。

 

 するとどうでしょう。

 

「いと」がぴくりと動いたかと思えば、通した言葉よりも大きな言葉が返ってきたではありませんか。

 

 紡ぎ人はとても驚きました。

 

 ――もう一度。

 

 そうしてまた、言葉を投げます。

 

 何度も、何度も。

 

 言葉は小さくなっていたり、あまり変わらなかったり、時にはボロボロだったりしたけれど、そのほとんどが大きくて、素敵な言葉でした。

 

 紡ぎ人は嬉しくて、届いた言葉を両手に抱えながら、引き出しへと向かいます。

 大きな言葉は、穴から落ちてはいきませんでした。

 

 それどころか、それが支えとなり、小さな言葉も、また引き出しに入れられるようになりました。

 少しずつ少しずつ、引き出しの中はまた、きらきらと輝いていきました。

 

 紡ぎ人は言葉を紡ぎます。

 

 今度は言葉だけでなく、「いと」を通して紡ぎます。

 その「いと」と「言葉」がたくさんつながり、いつしか一つの物語となりました。

 

 その物語は、一つの言葉よりも、たくさんの人を幸せにしました。

 

 紡ぎ人は、たくさんのお礼の言葉を受け取ることができました。

 

 紡ぎ人は言葉を紡ぎます。

 

「いと」を通して紡ぎます。

 

 紡いだ物語は、なくなることはありません。

 

 今日もまた、誰かが物語を読んでいます。


 あなたはどんな言葉を紡ぎますか?


 めでたしめでたし。

短いお話ですが、楽しんでいただけていたら嬉しいです。

面白かったと思ったらリアクションや、

★★★★★で応援していただけるととても励みになります。

お読みいただき、ありがとうございました。

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