紡ぎ人
言葉一つで、人はボロボロになります。
言葉一つで、救われることもあります。
むかしむかし、あるところに、言葉を紡ぐ“紡ぎ人”というものが住んでいました。
紡ぎ人が言葉を紡いで渡すと、人々は幸せになりました。
そしてまた、そのお礼として言葉を受け取り、その言葉を紡ぐのです。
紡ぎ人はその言葉が大好きでした。
できることならば、たくさん、たくさん欲しかったのです。
その言葉を大切に引き出しに入れると、きらきらと輝いて、とてもきれいだったからです。
そんなある日、一人の人間がやってきて、言いました。
「お礼に言葉をたくさんあげるよ。その代わり、たくさん言葉を紡いでくれるかい」
紡ぎ人は喜びました。
たくさん言葉をもらえると聞いて、たくさんたくさん言葉を紡ぎ、その人間に渡しました。
けれども、その人間は言葉をくれませんでした。
それを問うと、ボロボロの、小さな言葉をひとつ、投げ渡してきました。
「まだ足りないだけだ。もっと言葉を紡いだら、それよりももっとたくさん言葉をやるから」
紡ぎ人はそれを信じました。
引き出しから言葉を取り出すと、ひとつひとつ丁寧に紡ぎ、その人間に渡しました。
それでも、返ってくるのは質の悪い、ボロボロの言葉ばかりでした。
そのうち、ひとり、ふたりと、言葉を欲しがる人間が増えていきました。
紡ぎ人はまた、引き出しを開け、ひとつひとつ丁寧に言葉を紡ぎます。
それでもやっぱり、誰一人として、言葉を返してくれる人はいませんでした。
今日もまた、言葉を紡ごうと、引き出しを開けました。
しかし、引き出しの中にはもう、紡げる言葉はありませんでした。
代わりに、小さくて、ボロボロで、色のない言葉が、たくさん、たくさん入っていました。
そして、大切にしていたその引き出しも、いつの間にか穴だらけになっていました。
紡ぎ人は、悲しくて、悲しくて、悲しくて、
――泣きませんでした。
引き出しは穴だらけなのに、なぜか、小さくて、ボロボロで、色のない、“紡げない言葉”は、穴から落ちてはいきませんでした。
時々もらった素敵な言葉は、すぐに落ちてしまうのに……。
紡ぎ人は言葉を紡ぐことをやめました。
言葉を集めることもやめました。
ただただ、悲しくて、それなのに泣くこともできなくて、くるしい、くるしい、と膝をかかえていました。
何年も、何年も――。
ある時、紡ぎ人は小さな「いと」のかけらを拾いました。
「いと」のかけらは、よく見るとあちこちに落ちています。
それを拾って、少しずつ、少しずつ撚っていき、とうとう、長くて丈夫な「いと」となりました。
なぜだか、それをどうしても誰かに見てもらいたくて、その気持ちがどうしようもなくて、紡ぎ人はそっと、その「いと」に「言葉」を通してみました。
そして端を持ったまま、遠くにぽーんと、投げてみたのです。
するとどうでしょう。
「いと」がぴくりと動いたかと思えば、通した言葉よりも大きな言葉が返ってきたではありませんか。
紡ぎ人はとても驚きました。
――もう一度。
そうしてまた、言葉を投げます。
何度も、何度も。
言葉は小さくなっていたり、あまり変わらなかったり、時にはボロボロだったりしたけれど、そのほとんどが大きくて、素敵な言葉でした。
紡ぎ人は嬉しくて、届いた言葉を両手に抱えながら、引き出しへと向かいます。
大きな言葉は、穴から落ちてはいきませんでした。
それどころか、それが支えとなり、小さな言葉も、また引き出しに入れられるようになりました。
少しずつ少しずつ、引き出しの中はまた、きらきらと輝いていきました。
紡ぎ人は言葉を紡ぎます。
今度は言葉だけでなく、「いと」を通して紡ぎます。
その「いと」と「言葉」がたくさんつながり、いつしか一つの物語となりました。
その物語は、一つの言葉よりも、たくさんの人を幸せにしました。
紡ぎ人は、たくさんのお礼の言葉を受け取ることができました。
紡ぎ人は言葉を紡ぎます。
「いと」を通して紡ぎます。
紡いだ物語は、なくなることはありません。
今日もまた、誰かが物語を読んでいます。
あなたはどんな言葉を紡ぎますか?
めでたしめでたし。
短いお話ですが、楽しんでいただけていたら嬉しいです。
面白かったと思ったらリアクションや、
★★★★★で応援していただけるととても励みになります。
お読みいただき、ありがとうございました。




