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毒々独々 10


 帝国の外れに位置する平原。

 そこにはもうすっかり成長し少年とは言えなくなった青年、ダークが立っていた。


 黒々とした雨雲による豪雨は止みそうにない。

 周辺にはどす黒い邪悪な魔力が充満している。その異常は魔力は常人ならその場にいるだけで気を失ってしまいそうなほどである。


 ダークの視線の先にはダークの倍以上の背丈を持つ肌の黒い男……、いや、性別は存在しないかもしれないソレは、ダーク達に激しい怨嗟の目を向けていた。


 それは闇ギルドの首領ヴァレリアが命を代償に復活させた邪神であった。

 頭の上には二本の赤く歪な角、先ほど両目の上に開いたばかりのもう一つの瞳からはは、黒い血液と思われる液体が流れ出ている。


 目の前のその強大な力を前に恐怖を感じるダーク。だがその心は死んではいなかった。


「ダーク様、いつものように私がダーク様の全てを受け止めてみせます!」

 しっかりとした口調でそう言うのは、ソリド子爵家の御令嬢、ロザリアだった。


 彼女は、快癒士と呼ばれる治療に特化した天職を授かっていた。

 仲間達に一次的に毒耐性を得るスキル、完全(オール・)なる防毒の耐性デ・トキシフィケーションを展開する。


「まずお姉さんがダーク君の道を切り開くからね!」

 笑顔でそう言う元騎士団長エリーゼに、ダークは全力の強化毒を放った。


「ダーくん!私にもちょーだぃ!」

 元闇ギルドの暗殺者、忍者の天職を持つアカネがしっぽをふりふりおねだりしている。


「任せたよ!」

 そう言ってアカネにも強化毒を注ぎこむダーク。


「ああ、ダーくんのアレが入ってくるぅー!」

「アカネ、ダーク君の前で卑猥なこと言ってんじゃなーい!」

 悶えるアカネを一括するエリーゼ。


 次の瞬間、エリーゼが剣に魔力を籠めて邪神へと切り込んでゆく。

 その攻撃を防ごうと、身に纏っていた黒いベールを前面に移動させる邪神。


死神の一撃(デススラァーッシュ)!!!」

 強化されたエリーゼの斬撃がその黒いベールにぶつかりギシギシと耳障りな音を立てている。


 それを見て笑みを浮かべる邪神。


「隙ありだよぉー!」

 気配を消して背後に回り込んだアカネが、無数の苦無(クナイ)を邪神の背後に突き刺している。


 それを意に介さない邪神。

 虫でも追い払うように近くを飛び回るアカネを手で追いかけていた。


「豪火術!無限鳳仙火!」

 アカネのスキルが発動し、苦無(クナイ)に練り込まれていたアカネの魔力が連鎖爆発している。


 藻掻く邪神は膝をつく。


 後を任せたというみんなの声がダークに届く。


「スーさん!」

 その声に反応するように自身の能力を向上させるスーさんは、遥か遠くまで弾丸のように飛んで行った。


 そしてダークめがけて伸びてくる二本の触手。

 ダークはそれを両手に掴むと、強化毒を最大にして引っ張った。


 同時に触手を縮めて音速を超えてやってきたのはもちろんスーさんだった。

 そのままダークの横を通り抜け、邪神まで一直線。さらにはその邪神の横をすり抜ける。星になったのかと思わせる見えなくなったスーさんは、いまだダークに握られていた触手により引き戻される。


「行ってくださいませダーク様!」

「お姉ちゃんの応援しちゃう!頑張ってダーク君!」

「アカネも応援しちゃいますぅー!ダーくんイッちゃってぇー!」

 三人の声援を受け、スーさんに引き寄せられるように加速したダークは、邪神に向かって拳を突き出した。


「行くよスーさん!」

『ビギー!』

 磨いた連携、遠く離れた一人と一匹が再会する。


「毒手!」

「ピピピッ!」

 甲高い音を鳴り響かせながら交差するダークとスーさん。


 邪神のどてっぱらにはダークの毒手により紫色に変色した大きな穴が開く。

 邪神の胸にはスーさんが貫通した穴が開いている。


『お前達を、けっして許しはしない……、いつの日か、必ず私は戻ってくるぞ!』

 そんな恨み言を残し、邪神は塵となって空に消えた。


 気づけば空は雲が消え去り、暖かな太陽を覗かせていた。


 世界の危機はさった。

 ダークの元には三人と一匹が集まり、まるで惜しくらまんじゅうをしているようにギューギューと……、それはもうギューギューと……。



◆◇◆◇◆



 夜が明ける。


 ダークは寝苦しさに悶えながら目を開ける。

 眠い目を擦りベッドから身を起こす。


 その手に柔らかい何かを感じ首を傾げる。


「スーさんごめん。でもそんなところで寝てたら潰しちゃうか、ら……」

 ダークは自身の胸に強く巻き付いているスーさんに気付いた。


 ああ、だから寝苦しかったんだ……。


 そして手に感じる柔らかさを確認するように、自身の手の先を見るダーク。

 そこには少女の柔らかな……、思わずぐにゅりと手を動かすと、その少女がううんと声を漏らしている。


 咄嗟に手を放したダークは、ベッドの揺れにより目を覚ましたアカネに強烈な平手打ちを受けるのだ。




 こんな出会いの二人だが、知らず知らずに惹かれ合うことになる。


 その時見ていた夢が、多少の誇張はあったとて、ほぼ同じ未来が待っているとはこの時は誰も気づかない。気付けるはずが無い。


 数年後にやってくる邪神による脅威から国を救う未来。


 毒に始まり毒に終わる。

 毒術士として孤独な人生を歩むはずだった少年は、真の、と言って良いのか分からない仲間達に恵まれ、決死の覚悟で繰り広げられた英雄譚。

 それはまだ始まったばかりだった。


 頑張れダーク。その毒が邪神の全ても蝕む時まで。




 おしまい


お読みいただきありがとうございました!

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[連載中] 引きこもりの少年は異世界で森に引きこもる、はずだった。~幼馴染の聖女の為になし崩し的に異世界を連れまわされた件~

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