毒々独々 01
ダーク・サラマイデ。
王国の西、ルナスプレンデンテ地方を収めるサラマイデ公爵家に生まれ落ちる。
王国の三大公爵の一つ、サラマイデ公爵家。そのの嫡男として生まれ落ち、幼き頃から剣術の修行を欠かさない少年は、13才の降臨式で毒術士という天職を授かってしまった。
「お前のような恥ずかしい奴は、我が家に相応しくない!」
そう言われた少年は、僅かな資金を持たされ家を追い出されてしまう。
ただのダークとなった少年は、公爵家の力により国外追放。西の隣国である帝国の田舎町ベントエストになんとかたどり着き、なし崩し的に冒険者となったのだ。
そこで出会ったDランク冒険者パーティ『龍翼の輝き』のリーダーに拾われ、冒険者となったダーク。
毒術士として魔力を変換しあらゆる毒を生成する能力を持ったダーク。範囲攻撃で魔物をデバフを行うが、連携の取れないパーティメンバーにより誤爆することもあり、遂には厄介者として距離をおかれることになる。
それでも情報収集や買い出し、果ては料理や洗濯など、寝る間を惜しんで雑務をこなしてパーティに籍を置いていた。
そんな生活が2年ほど経過。CランクとなっていたパーティはBランクに推薦され、遥か西の中央都市、帝都セントロデルモンドへと拠点を移すことになる。
「ダーク、お前のような毒野郎、もうこのパーティには置いておけない!さっさと出ていけ!」
それがリーダーからの最後の言葉だった。
裸一貫で追い出されたダーク。
ソロとして自身の身体能力を上げる強化毒を使って魔物を狩る生活へと転身した。
目立たぬようにひっそりと……。
身体強化のバフのかかる強化毒を自身に施し、手刀を毒に変えるという毒術士の能力を駆使して、周辺の弱い魔物を狩りながら日銭を稼ぐ日々を送っていたダーク。
そんな生活の中で思い出す。
この身体強化毒について、元メンバーに伝えていなかったことを。
ちゃんと話し合えば良かったかな?そう考えてもみたが、そもそもまともに僕の話を聞いたことなどなかった元メンバー達のことを思い出す。
僕が抜けたのだから戦力ダウンは仕方ない事だよね?
そう思うことにしたダーク。
自分自身には強化毒を限界まで使うことができるダークは、そこらの冒険者を軽く凌駕する高い身体能力を持っている。さらに猛毒を発する手刀での直接攻撃により、現時点でも周辺に大きな被害をもたらす災害級の魔物すら討伐できてしまう程のダークの大きな力。
狩りを続けるダークは、その能力がさらに高まっていることに気付いてしまった。
その事実に高揚したダークは、遂には冒険者ギルドで持ち込むと目立ってしまう程の魔物を探してまで狩るようになってしまった。
売ることのできない素材が安宿に貯まってゆく。
ここならば、と持て余した素材を闇ギルドに持ち込み、それと引き換えに収納鞄を購入した。
当然ぼったくられてしまったが、大量の資材を持ち歩き、目立って活動できなくなることが嫌だった。
その後も何度か闇ギルドで素材を売却するダーク。当然ながら素材の出どころを探られることとなった。
闇ギルドに目をつけられたダーク。次第に素材の買取価格も酷いものとなり、ついには収納鞄に大量のレア素材を貯めこんだまま西の街コリナエストへと移動することになった。
新たな街で活動するものの、冒険者ギルドの受付嬢に「毒術士だとソロは厳しいでしょ?」と要らぬ御節介を受けてしまう。
その受付嬢、カーリラにより半ば強引にCランク冒険者パーティ『剛腕の支配者』に加入させられる。
毒術士として蔑まされながらもメンバーと一緒に狩りをするダーク。
メンバーの普段の素行を考えれば、能力向上毒について正確に伝えることはできなかった。利用されるなんてもうごめんだ。そう思ったダークは、こっそり能力向上毒を使ってサポートすることにとどめることにした。
それでも順調に依頼をこなしてゆく日々が続いた。
パーティメンバーも順調に依頼を完遂し続ける自分達の力に自信をつけた為か、日に日にダークへの風当りは強くなっていった。そして1か月も過ぎた頃、役立たずなダークとしてパーティからの追放を宣言された。
ソロに戻ったダーク。
特に悲しいなどの感情は起きなかった。
暫くはソロとして地道な生活が出来る程度の依頼を受け素材を貯めこんでゆく。
そんなダークを見て受付嬢カーリラは悔しさに唇をかみしめる。
話しかけたかったが、何と声を掛けて良いか分からず、結局声がかけられていなかった。
この街のベテラン冒険者ルドルフに、ダークに紹介した『剛腕の支配者』のメンバーによるダークの不遇な扱いについて度々指摘されていた。その話を信じなかったカーリラ。
ダークが追い出され、他の優秀な冒険者を強引に勧誘するメンバーを見て、やっとそのことに気付いたのである。すぐに信じなかった自身を強く後悔していた。
ダークをあのパーティに入れてもらったのは本当に善意からであった。だが、その中にほんの僅かでも良い人として優越感に浸りたかった気持ちがあったこともまた、疑いようもない事実であった。
そう言えば、加入を勧めた時には酷く沈んだ表情をしていたと感じたことを思い出す。それでもみんなで狩りを続ければ、安全にお金も稼げるし、何より楽しいだろうと……、勝手な押し付けであった。
後悔するほどに、ダークを見ることすらできないカーリラだった。
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