~八月~ №1物思いに耽る環
思いが。
ここは喫茶凪や。
外はうだる熱波が漂い、猛暑の一日となっている。
相変わらず閑散とした店に、環はひとりソファに腰かけ、腕組みを沈思黙考していた。
「う~ん」
思わず洩れるうめき声に、マスターヒロシの聞き耳が立つ。
カウンター越しからうら若き乙女の溜息(うめき声)に彼の妄想ははかどる。
(あのスケコマシにフラれたに違いない。きっとそうだそうにちがいない)
テーブルに置かれたクリームソーダのクリームが溶けはじめても彼女は考え続けている。
それは、ライブの打ち上げの事、鎮魂探偵伊武受雷が放った一言であった。
以下回想
宴もたけなわになった時、受雷は環の元へやって来た。
「環君だったね」
「はい」
「ほい」
「私は未成年なので」
受雷が差し出したビール瓶を環は右手で遮って断った。
「そうだったね。さもありなん。今は何かと五月蠅い時代だ」
「アイドルはスキャンダルが命取りですから」
「そうだな・・・時に」
「はい」
「そのスキャンダル・・・」
「はい?」
「あの記者が君の正体のことを調べていた」
「そう・・・でしたね」
「君はどうだ?」
「どうとは?」
「バレない自信はあるのか」
「それは・・・」
「この前みたいに首がとれたり・・・」
「うっ」
「それが人前だったら・・・もし、身体がバラバラになったり・・・」
「うっうっ」
環は耳つまされる言葉にうな垂れはじめた。
それを見かねた碧が、
「ちょっと伊武さん何を話して・・・」
「ふむ」
受雷はふたりを一瞥して、
「いいかい。環君、強く願うことだ。祈りがその身体を強くする・・・多分」
「・・・多分って」
「生に固執するんだ。その思いが念があれば、ちょっとじゃそっとじゃ身体は四散しない」
「・・・・・・」
「碧君」
「はい」
「君は君らしく、環君とみんなを見守るんだ」
「はい」
「ふっ」
と、受雷は表情を緩めると、ビール瓶にメントスを入れて自爆した。
・・・・・・。
・・・・・・。
「強く願う・・・か」
環はそう言うと、おもむろに両頬に両手を持ち、
「ほい」
と、首を持ち上げた。
「ぎょえっ!」
マスターヒロシが驚愕する。
「あ、マスターこれマジックです」
環はそう言いながら首を戻し、
「はあ」
と、溜息をついた。
「いけない」
ストローに口をつけ溶けたクリームソーダを飲んだ。
環を強くする。




