No.3環への愛
環チョンボする。
受雷と真美は合流して、沖端町の掘割を歩いた。
時刻は19時半、ここ柳川は日帰り観光で有名、町中のうなぎ屋産などのお店は早々に店じまいをはじめていた。
茜とは、固く口留めをしてその場を別れた。
「大丈夫ですよ。私も・・・(事情は)なんとなく分かりますから」
と、笑顔で答えてくれた。
ほどなくして、慌てた表情の白石静が流星綺羅々が掘割の道をきょろきょろとリーダーの頭を走り探し回る姿が見えた。
伊武夫妻の脇を2人が駆け抜けようとする。
「ちょい待ち」
受雷は声をかける。
息を切らせながら立ち止まった静は、苛立ちを隠せずに言った。
「なんですか!私たち急いでいるんです」
受雷は右手に持つ風呂敷をゆっくりとあげて言った。
「探し物はこれかな」
「!」
途端に表情が強張る環と静だった。
受雷夫妻は明石環が勤める沖端の海苔屋へと招かれた。
彼はカウンターテーブルにそっとそれを置くと風呂敷を広げた。
「環!」
環と綺羅々は叫び、
「ごめんなさい」
捕獲された環は、生首のまま号泣し涙を流している。
「なんてことだ」
碧は絶句する。
「あらあら」
と環の母、海苔屋の社長絵美は苦笑する。
「明日は念願のライブだぞ・・・とんでもないことを・・・」
碧は拳を固め、わなわなと震える。
「ごめん!」
「御免で済むなら警察はいらんっ!環、お前は不用心なんだよ!」
碧は激昂する。
「まあまあ、碧君」
絵美はヒートアップする碧を宥め、ひょいと環の顔を持ちあげ、畳に仰向けになっている彼女の胴体へ近づく。
「よっと」
絵美が多少強引に胴体へねじ込むと、見事、元通りとなった。
「良かった~」
「はいはい。環、気をつけようね」
絵美はよしよしと彼女の頭を撫でつける。
「さてと」
受雷の一言で、和みはじめたその場の空気が、一変し緊張感が走る。
「・・・招かざる敵ってところね」
真美はぶつぶつと言った。
「真美、声にででる」
「あ、失礼」
彼女は右拳で頭を叩き、てへぺろをする。
「偶然、彼女の頭を見つけたもんでね」
日常会話では絶対発しないであろう言葉を口にしつつ、そんな自分に受雷は苦笑する。
訝しがる一同を気にする事も無く受雷は歩くと、環の前に立ちそっと手を差し伸べる。 「・・・・・・」
困惑する彼女だったが、碧が受雷の手首を掴む。 「またアンタ、何の真似だ」
「これは・・・君が仕組んだことなのか」
「なんの事だ」
「この期に及んで、まだしらばっくれようとするのかい」
「だから・・・なんの」
「死者を蘇らせることなどあってはならないことだ」
「・・・それは」
「摂理を捻じ曲げ因果をも捻じ曲げる悪しき所業は・・・ロクな事にはならない」 「・・・・・・」
「事の方が多い・・・統計的にな」
睨み合う2人。
絵美は受雷の前まで行き、深々と頭をさげる。 「すいません。どうしても環を私の娘をこの世に繋ぎ止めたかったんです」
「・・・お母さん」
「それは・・・」
「それは私も同じくだ。家族の罪は私の罪」
受雷の言葉を遮り環の兄、和志が膝まずく。
「だとしても・・・」
「子を持つ親の気持ち、あなた方にもいるんだろ?お子さん・・・だったら、あなたにも分かるはずだ」
父、俊二が床に額をこすりつける。 碧はその場に崩れ落ち泣きじゃくった。
受雷は天井を見上げ呟いた。
「愛か・・・」
そして、真美を見ると彼女は大きく頷いた。「・・・わかりました。この件は私、妻並びに川田茜が墓場まで持って行く秘密にしましょう」
「ありがとうございます!」
環家族と碧、静、綺羅々は深々と頭を下げる。 「ただし。もっと意識して欲しいですね。自分達が置かれいる立場、死者の器がいかに脆いというものか・・・あなたたち皆が、このまま幸せな未来を送れるとは私は思えない」
「・・・・・・それは」
「ま、これも一般論ですがね。が、気をつけてください・・・どこで誰かに見られているか分からないという事を・・・そうすれば未来は心がけ次第で変えることが出来るかもしれない・・・だが、その前に確かめたい」
受雷はおもむろに環の手を取った。 「・・・・・・あの」
「失礼。確認したい、心を穏やかに」
受雷は静かに目を閉じた。
「うん、うん、よしっ!よしっ!みえる!みえたっ!よしっ!」
彼の一際甲高い絶叫に、真美以外の者達はドン引きする。
「こんなん、こんなん、でましたけどーっ!」
そう言い終わった受雷は素に戻り、
「ま、君の魂以外にこの器には何もいないようだ。したがって今のところは何の問題はない」 「・・・それって」
「得てして、悪霊が器に巣くうことがよくあるのでね」
受雷は環にそう言うとサムアップしてみせて、彼女も返した。
次に受雷は環から手を離すと、綺羅々の方へ向かい、その手に触れる。
「うん、うん、よしっ!よしっ!みえる!みえたっ!こんなんでましけどぉっ!なんだとぉ!」 「大迫力でびっくりしたあ」
まじかで見る必死の受雷に綺羅々は目を丸くする。 「綺羅々君・・・君は・・・まあ・・・うん、いいか。彼女たちをよろしく頼みます」
「はい」
「気になるなあ」
真美は呟いた。
続いて静を見つめる受雷だったが、
「君は君の為にここにいるんだね」
「はい」
「2人を守ってくれ」
「勿論です」
「ふふふ、面白いなちぇんじまいらいふ、それぞれの運命、生き方を変えるか・・・」
彼は笑うと、そう呟いた。
それから受雷は一同を見渡し、
「あとは憂いを早々に断つべきだな」 「憂い?」 首を傾げる環。
「そう憂いだ」
受雷は言い切った。
いざっ。




