№5自転車と雨宿り
ま、自重かな。
幼い頃、碧と三輪車で遊んだ思い出。
環は自転車を乗る練習をずっとしていた。
兄、和志とともに仕事の空いた時間に猛練習をしていたのだった。
「よし、環、手を離すぞ」
後ろのキャリア部分を両手で掴んで走る兄は両手を離した。
「ちょ、お兄ちゃん、待って・・・ま・・・あ・・・できた」
和志が手を離した瞬間、ふらふらと自転車は安定しなかったが、慌てて環が力強くペダルを踏みだすと、走行が安定した。
「やったな。環」
和志が環の背中にサムアップする。
「うん、ありがと」
「よかったな。これで倉野碧と自転車でぃ・・・」
「お兄ちゃん、五月蠅いっ!」
環は初心者とは思えないハンドルさばきで鋭角に反転すると兄を軽く轢いた。
そんな訳で休日、二人は自転車でサイクリングへと出かけた。
柳川市民の憩いの場、干拓地にある公園むつごろうランドまで二人は並走する。
梅雨入りの晴れ間、広大な畑に青々とした小麦が風に揺れている。
ランドでは、絵美お手製のお弁当を食べ、主に環が子どもたちに混じって、むつごろうを模した巨大遊具を楽しんだ。
近くには海が見える、穏やかな波だった。
だが、碧はかつて環を失った海を思いだし、
「そろそろ帰ろうか」
と言う。
「アオちゃん、海見ようよ」
「・・・環」
「だいじょうぶだよ」
彼女は笑って、アオの手をひいた。
堤防沿いの道をゆっくりと歩く2人、静かな時間、だけど碧はどうしようもなく不安になる。
「綺麗だね」
「ああ・・・でも」
碧は言い淀んだが、環にもそれが分かる。
「帰ろっか」
「ああ」
ふたりは元来た道を辿り、一面緑の小麦畑の中を進む。
すると、急に空が暗転し、曇り空となると、ぽつぽつと雨が降り出した。
次第にその雨足は強くなり、ザーザーと音をたてて降り続ける。
環と碧は、小さな野菜無人販売店の軒下に入り、雨宿りする。
「大丈夫か」
碧は環に尋ねる。
「大丈夫。顔は溶けてないよ」
彼女はぽんぽんと自分の頬を叩き、えっへんと胸を張った。
「そっか・・・・・・!」
碧は思わず、硬直した。
環の濡れたブラウスから、ブラが透けて見えているのだ。
「・・・はい」
彼は顔を背け、タオルを彼女に手渡す。
「・・・ありがと」
環はそれで髪を拭き、両肩にタオルを置いた。
彼はずっとそっぽを向いている。
「変なの」
思わず、彼女は言った。
「うるさいよ・・・まったく」
と彼は返す。
くすくすと環は笑い、
「変なの」
と、再び彼女は言った。
やがて、ふたりは雨上がりの空の元、帰路へと着いた。
ですね。




