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第96話 狙え!SSR!レアモンがちゃ ゴーレムくんメダルの使い道

 ──空中庭園ギルバートレアー・書庫。


 ゴォォォン……。


 荘厳な鐘の音が、壁に掛けられた時計が13時を告げるため、鳴り響いた。

 だが、書物に没頭していた私はまったく気づけない。


 そのとき、カタカタと羽音がして、時計の小窓から魔法仕掛けの鳩時計人形が飛び出してくる。

 白い小鳥の人形はまっすぐこちらへと舞い降り、私の開いた本の上にちょこんと降り立つ。


「……あっ」


 ページをめくろうとした手が止まった。

 読書を邪魔するように首をかしげる小鳥の姿に、ようやく我に返る。


 心臓が一拍、強く跳ねた。

 ――もうこんな時間!? 今日はなんせ、賢者ギルバート様の初授業だ。遅れるわけにはいかない。


 空中庭園の書庫って、ほんと危険だ。どれもこれも見たことのない本ばかりで、気づけば何時間も読みふけってしまう。

  ついさっき開いたはずなのに、あっという間に時間が溶けていくんだから。


 本を慌ただしく棚へ戻す。背表紙の列に収まる音が、読書欲に駆られる私の後ろ髪を、断ち切るように響いた。


 ノアは昼食後とっくに先に行ったし、私もそろそろ行かなくちゃ。


 訓練用の木刀を手に取り、腰に差し込む。ひとまずの必需品をそろえると、深く息を吸い込み立ち上がった。


 たしか、今日の授業は中庭だったな。

 てっきり教室でやるんだと思っていたけど……まあ、賢者の考えることだ。何が飛び出してきても不思議じゃない。


 そう思いながら中庭へと続く通路を進む。

 だが、ふと足が止まった。


 ストラトス先生の工房室の前──扉が半開きになっていて、中から声が漏れてくる。



 中をのぞくと、ノアとルルエが真剣な顔つきで何やら機械に向かっていた。

 額に汗を浮かべながら、互いに短く言葉を交わしている。普段の二人とは違う、張りつめた空気。


「……あーもう! またザコモンスターだ!」

「もう、私のメダルも残ってないよ~!」


 二人の声が工房の中に響き渡る。


 目を凝らすと、そこには見慣れない奇妙な魔造工兵ゴーレムが置かれていた。

 訓練用のものとは違い、土台は床にがっちりと固定されている。中心部には、マルシス先生の授業で使った《詠動写紙えいどうしゃし》――魔法版電子PADのような映像装置が組み込まれていた。


 その表面には、大きな文字でこう刻まれている。

 ──《ゴーレム君 メダル投入口》

 ──《ボックス排出口》


 私は思わず首をかしげて声をかける。


「……なにこれ?」


 ノアがこちらを振り返り、真剣な顔のまま説明を始めた。


「これね、メダルを入れて魔力を込めながら、この赤いレバーを引くと宝箱ボックスが出てくるんだ。で、その箱の中に、いろんなモンスターとか、かっこいい騎士の人形が入ってるんだよ!」


 そこまで言うと、ノアはむきーっと眉を吊り上げた。


「でもさっきから、いらないモンスターばっかり出てくるんだよ!」


 拳を握りしめる弟の姿に、私は思わず内心でツッコんでしまう。


(……なるほど。つまり、こっちの世界版ガチャガチャってことか。ゴーレムくんメダルって、これに使うものだったんかい!)


 ノアは悔しそうに髪をかきむしった。


「どうしても、《光の勇者シリーズ》と、このカッコイイ竜王が出てこないんだ!」


 顔をしかめ、ぐっと拳を握りしめる。

 次に吐き出された言葉は、普段の弟らしくない冷徹な響きを帯びていた。


「……もう、僕、出なさすぎてイライラしてきた。次外れたら──ゴーレムくん、氷漬けにしちゃうかも……」


 青白い魔力が指先にちらつき、ノアの瞳に危うい影が差す。

 今にも“廃課金兵”を通り越して、闇落ち勇者候補になりそうな雰囲気だった。


(子供が課金ガチャやっちゃダメな理由がよくわかります……)


 さすがにルルエさんは大丈夫だろう、と視線を向ける。

 彼女はにっこりと笑っていた。


(……よかった。やっぱり大人だし、落ち着いてるよね)


 そう安心しかけた瞬間――その笑顔が、ゆっくりと邪悪な陰りを帯びた。


「ストラトス副教皇のご飯……野菜スティック“だけ”にします。これは、確定事項です」


 低く囁かれた言葉に、背筋がぞわりとする。


(お前も闇落ちしてるんかいーーっ!!)


 完全にガチャに魂を奪われた二人を前に、私はただ額を押さえるしかなかった。



 まったく、ガチャ初心者たちには困ったもんだ。


 私は鞄からメダルを取り出す。


「えっ、姉さんもやるの!? いいの出たら交換しようよ!」


 ノアが身を乗り出して目を輝かせる。


(ふっ……ガチャには“タイミング”ってものがあるんだよ。乱数、外れた回数、そして課金するタイミング……。すべてを考慮して導き出した“今”こそが、その瞬間!)


 私はメダルを投入口に差し込み、魔力を込めて赤いレバーを引いた。


 ゴーレムくんのディスプレイ部が緑色に光り、内部からゴウン、と低い音。

 がこん、と排出口が開き、ボックスが勢いよく吐き出される。


(……ふっ、演出きたな。間違いない、SSR確定演出だ!)


「おっ、出てきた出てきた」



 ごろん、と転がり出てきた宝箱の中身は……ふわふわした白い影。


「えっ……犬? 子犬?」


 思わず手に取ると、くりくりした目でこちらを見上げてくる。

 なんだこの愛嬌、反則級じゃないか。


「あ、それ……」


 ルルエがゴーレム君の排出表をのぞき込み、指差して笑った。


「一番ランクの低いやつですね。隣の家の──マックスです」


「………………」


 ──隣んちの犬ぇぇ!?

 ガチャから出すなよ、そんなリアルな生活密着型!!


「ま、まぁ……ガチャは所詮は確率論だからね。残り四十九枚の中には……きっと当たりがあるんだよ」


 自分に言い聞かせるように、もう一枚メダルを投入する。


 ガコンッ。


 出てきたのは──掌サイズの小鳥の人形。くちばしがやけに鋭い。


「これは……?」


 首を傾げる私に、ルルエが即答した。


「それ、マックスの餌を狙うピー助です!」


「ぷっ……あははははは!!」


 ノアとルルエが床に転げ回って笑い始める。


「やばっ、隣の家の“日常セット”揃ってきてるじゃん!!」


 ──おい待て。なんで私のガチャ運だけ、こんなに生活感に寄ってんのよ!? ストラトス先生どんなセンスしとるんじゃい!


 ブチッ! 一気に火がついて、私は怒涛の四十七連ガチャをかました。


 結果は惨敗×47連


 ……後から聞いた話だが、目から光が完全に抜け落ちた私は――


「天井システムがないのが悪い……」

「詫びメダル千枚よこせ……」


 震える声で、そんな呪詛めいた言葉を吐き続けていたらしい。


 だが機械相手に理屈はもう通じない。私は木刀を握りしめ、機械めがけて構えた。


「安心して……ノア、ルルエさん。斬れば中身は全部出てくる。そしたらコンプリートだから」


 そう言って、完全に闇落ちしていたようだ。


 ノアとルルエは黒いオーラを放つカナリアをみて同時に戦慄した。

(あんたが一番こえーよ……!)


 そのとき――透き通るような声が、静かな工房の入口から響いた。


「ルルエ、こんなところでさぼっていたのですか」


 振り向けば、そこに立っていたのはリーリャ。

 いつものメイド服姿のまま、澄んだ瞳でこちらを見つめている。


 彼女の一言に、ルルエが「リーリャぁ~だって~」と半泣きで抱きついた。


 私はハッとして声を上げる。


「……あ、そうだ! リーリャさん、これ私の最後の一枚!」


 事情をざっくり説明しながら、手渡したメダルを彼女の手に押し込む。


「お願い、ゴーレム君ガチャを回してみて!」


 カナリアが最後の一枚をリーリャに渡すと、彼女は小さくため息をついた。


「……仕方ありません。一度だけですよ」


 そう言ってレバーを下ろした瞬間――


 ゴーレム君の瞳がギラリと赤く点滅し、内部から「ゴゴゴゴ……!」と低い駆動音。

 床一面に魔法陣が浮かび上がり、柱のような光が天井まで突き抜ける。


 普段は無機質にカタリと落ちるだけのカプセルが、この時ばかりは宙で揺れながら虹色に発光!


 ノアが思わず絶叫した。


「き、きたっ……!確定演出だぁぁぁぁっ!!」


 ルルエは両手を合わせて、飛び跳ねるように喜ぶ。


「すごい!これ絶対大当たりのやつだよ!!」


 ガゴォォンッ!


 ゴーレム君の内部から地鳴りのような振動が響き、ディスプレイに突如として巨大な竜の姿が浮かび上がった。


「グオオオオォォォ!!!」


 まるで現実のドラゴンが咆哮しているかのような声が広間を揺るがす。


 ノアとルルエは同時に飛び上がった。


「きたぁぁーーーっ!!」



 輝くカプセルが排出口から転がり出て、パカッと開いた。

 中に収まっていたのは、宝飾をちりばめたようにきらびやかな《風の竜王》の人形。


 ルルエが目を丸くして叫ぶ。


「り、竜王……! 排出確率0.1%だって!!」


 ノアも目を輝かせて、思わず声を張り上げる。


「か、かっこいいーっ!! 姉さんこれ絶対交換して! お願い!」


 私はどや顔で蒼髪を手でなびかせながら、ノアとルルエに向かって高らかに言い放つ。


「ふっ、これが──物欲センサー回避スキルってやつなのさ」


「「すっごーい!!」」


 ノアとルルエは同時にぱちぱちと拍手をして、まるで英雄を見るかのように私を見上げる。


 リーリャは無表情のまま、小さく首をかしげて淡々と返した。


「……いや、回したのは私ですけどね」


 リーリャはいつもの無表情に戻り、淡々と問いかけた。


「ルルエ、料理の仕込みはしなくていいのですか?それに──カナリア様、ノア様も。今日はギルバート様の授業のはずでは?」


「……っ!!」


 私とノアは同時に青ざめた。


(やばいやばい! これじゃ本当に……“ミイラ取りがミイラになる”ってやつだ!)


 ノアは「まずいまずいー!」と叫びながら、モンスターフィギュアでパンパンに膨れたカバンを抱え直す。

 そのまま転びそうな勢いで駆け出し、私も慌てて後を追う。


 こうして、私達は大慌てで中庭へと向かっていった──。

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