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第92話 四大種族による魔族対策会議~大人たちの口喧嘩①~

 女神の大地・中央大陸──星セレスティア聖教国 総本山

 大聖教庁アストラトリア・大会議室《四聖種の間》。


 神すら言葉を飲む静けさの中──

 聖域の最奥に設けられた《天義の円卓》には、

 人間、エルフ、ドワーフ、獣人ビースター……

 四大種族の代表者たちが、戦火の続きを前に“沈黙の刃”を交えていた。


 魔族の侵攻という未曾有みぞうの危機に対し、各国、各種族、それぞれの思想と立場が激しくぶつかり合う。


 沈黙。

 しかしその空白は、ただの静寂ではなかった。


 ──触れれば即座に爆ぜる、火薬にも似た空気。


 四大種族による魔族対策会議──

 そこには、空中庭園で語られた種族間の“理想”とはあまりにかけ離れた、“現実”が広がっていた。


「どう責任を取るおつもりか、ギルバート殿!」


 声を荒げたのは、ローネアン連合国の臨時代表、レナード王子。

 緋色の儀礼服に身を包んだ細身の青年は、戦火を潜り抜けた者だけが持つ、鋭い眼光を宿していた。


 黄金の髪が揺れ、唇が震えるたびに、怒りと悲しみが交錯する。


「我が国は、首都と西領大陸のすべてを失った。

 国王である我が父も……そして何より、二人の“勇者候補”も討たれた……

 我らは、誇りすら死者とともに埋めてきたのだ!」


 レナード王子は、テーブルを両手で叩く勢いで身を乗り出した。


「それに……貴様らエルフ本国の支援は、まるでなかったではないか!」


 鋭い視線が、対面に座るエルフの首都《月詠の塔》から派遣されたブルーデンス特使へと向けられる。


「お前たちと同じエルフの血が流れ、神の才覚を持つ双子が──我が国にはいたのは知っていただろう!

 それを……見殺し同然にしたというのか!」


 銀髪を背に流したエルフの男──ブルーデンス特使は、表情ひとつ変えなかった。

 白磁のような肌に、翡翠ひすいの瞳。

 その佇まいには、感情の起伏すら“品格”という名の鎧で抑え込んでいるような静けさがあった。


「人間らしい、感情にまかせたもっともらしい言いぐさだな。他者に責任を押しつけるとは。」


 声色にも、表情にも揺らぎはなく──ただ視線だけを、レナード王子に合わせて告げる。


「我らは、あの双子が誕生した当初より、特別な支援を行わぬ旨を、正式に通達していた。今回の魔族の侵攻があろうがなかろうが、関係ない。」


 そして──口元だけが冷たく吊り上がる。


「それに……“混じりもの”は、我らの守護に値せぬ。」


「混血ゆえに……!? 貴様っ!!」


 レナードの怒声が会議室に響いた。

 だがその瞬間、彼の声を遮るように、別の声が空気を裂く。


「ギルバート。……そもそも、貴殿が戦力を分散させたことが、今回の悲劇の要因ではないのか?」


 声の主は、ガイアス獣王国からの特使、ライカ。

 しなやかな肢体に金属の装飾を纏った、豹の女獣人だった。


 褐色の肌には、氏族の誇りを示す紋様が揺れ、

 怒りを宿した黄色い瞳が、まっすぐに賢者ギルバートを睨み据える。


「我が国も三人いた勇者候補のうち、二人が戦死。生き残った一人も、目の前で兄弟を喰われ、心を壊した。……金剛の意志も、もう残っていない。今後、使い物になるかどうかも怪しい。」


 ライカは小さく舌打ちし、拳を握る指先が白くなる。

 怒りは煮えたぎるが、牙を見せる前に理性で噛み殺した。


「これが“連携”とやらの成果なのか?」


 冷静な口調ではあったが、

 彼女の感情の昂ぶりにあわせて、雷の魔力が微かに髪先へ走った。

 本能の咆哮を、ぎりぎりの理性で押しとどめているのが見て取れる。


「結果的に生き残ったのは、非協力的な“帝国様”と──ギリス公国の子どもだけではないか。……たしか、“全属性持ち”の、“剣神の少年”だったか」


 言葉の端々に込められた皮肉。

 その矛先は明らかに、レグナント帝国へ向けられていた。


「言わせてもらうが──その少年には、“刀神”の姉がいる。同じく“神”の名を冠する、もう一人の勇者候補だ」


 ギルバートが静かに口を開いた、その直後。

 すかさず、冷笑が返ってきた。


「ふん、馬鹿を言うな」


 レグナント帝国の代表、ザルカス特使が椅子にもたれたまま、鼻で笑う。

 黒と紅の軍礼装に身を包み、銀髪をぴしりと後ろに束ねたその男は、


 知略と皮肉を武器に、あえて場を“操ろう”としているようだった。


「知らないと思ってたか? 聞いているぞ。」


 嘲るように片唇を吊り上げ、靴先で蟻でも踏みにじるかのような眼差しを送る。


「無属性の落ちこぼれに、何ができる。弟の盾になるのが関の山。“神”を冠していようが、所詮は──噛ませ犬だろう」


 その言葉に、アデルはぐっと歯を食いしばった。


 脳裏に浮かんだのは──剣の鍛錬を終えたあと、額の汗をぬぐいながら笑っていた、あの少女の姿。

 自分たちのことを「先生」と呼び、誰よりも努力を惜しまない、まっすぐな瞳のカナリア。

 あの無垢な笑顔を──どうして嘲笑することができようか。


 拳が、わずかに震えていた。


 空気がひりつくような沈黙の中──

 ドワーフの国、ドルガン鉱国からの代表、マイザード特使が、目の前のお茶を一気に飲み干した。


 そして、どん、と重く茶器を机に置くと、低く太い声で言葉を落とす。


「……口喧嘩をしに来たのではあるまい。本題は、いつ来るかもわからぬ“次の魔族の再侵攻”に──我らが耐えられるかどうか、だろう?」


 その問いかけに、アデルが一歩、前に出た。


 その手には、映像投影用の魔法装置──《視環晶ヴィジョンリング》が握られていた。


 装置が起動されると、魔力が光となって円を描き──

 一瞬、空気がピリリと揺れた。

 そして、会議場の中央に立体映像がゆっくりと浮かび上がる。


 映し出されたのは──惑星イクリスを周回する3つの月の内の一つ、崩壊した狂気の紅月であった。


「それについては、こちらをご覧ください」


 アデルの声は冷静でありながらも、どこか抑えきれない怒気を含んでいた。

 先ほどザルカス特使が侮辱した少女──カナリアの尊厳を守るためにも、アデルはこの場で彼らを納得させる必要があった。


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