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第86話 ストラトスによるイクリス聖歴史学②「ストラトス=アングレフであ~る」

 次の瞬間──


 ぱあっ。


 暗闇を切り裂くように、眩いスポットライトが降り注ぐ。

 浮かび上がったのは講堂の片隅に据えられた巨大なパイプオルガン──

 そして、その椅子に静かに腰掛けていたリーリャの姿だった。


 小柄な身体をすっと伸ばし、両の手を鍵盤へ。

 次の瞬間、流れ出した旋律は──とても彼女から紡がれるとは思えない、圧倒的な美しさを放っていた。


 細い指が、まるで舞うように鍵盤を駆け抜けていく。

 軽やかでありながら、力強く、深みのある音。

 その一音一音が、聖講堂の広い空間を震わせ、天井にまで響き渡っていく。


「……っ」


 カナリアは思わず息を呑む。

 ノアも隣で、ただただ目を見開き、その光景に釘付けになっていた。

 (……リーリャさん、演奏すごー……プロみたい……)


 普段のあどけなさからは想像できない、荘厳な演奏。

 二人はただ、音と光に包まれながら、見とれるしかなかった。


 旋律が最高潮へと駆け上がった、その刹那。

 一瞬、音のすべてが空へ昇っていくような静寂が訪れる。


 その直後──


 ゴウン……


 低い共鳴音とともに、聖講堂の天井付近──広い空間に、淡い光が走った。


 四方向からなる魔法具による光の投影。

 やがて幾何学的な紋様が空中に広がり、重なるようにひとつの形を描き出していく。


 浮かび上がったのは──灰色の星。


 静かに回転しながら、講堂の中央に大きく浮かび上がる。

 荘厳な音色と共鳴するかのように、星の輪郭が淡い光を放ち、見上げる者すべてを圧倒する存在感を持っていた。


 (……プラネタリウム、みたい……でも、この魔法の光、綺麗……)


 カナリアは見上げたまま、そう呟きそうになるのをこらえる。


 灰色の星が静かに回転を続ける中、再び──


 ぱあっ。


 新たなスポットライトが降り注いだ。


 その光に照らされたのは、祭壇の側に立つルルエだった。


 彼女はそっと息を吸い、姿勢を正すと、自然と口を開く。

 まるでそこに音楽が満ちているかのように──静かに、しかし力強く、歌い出す。


 次の瞬間──


 聖歌が、独唱で響き渡った。


 澄み渡るような高音。

 どこまでも伸びやかで、聖堂そのものを震わせる声量と響き。

 普段のおちゃらけた調子からは想像もつかない、清らかな歌声だった。


 澄みきった高音が天井へと吸い込まれ、低音は床を震わせる。


 カナリアは胸の奥がざわつくのを感じた。

 普段はおちゃらけた彼女が、歌ひとつで空気を支配している。


 (ルルエさんまで……声めっちゃ通る……オペラ歌手かっての……!)


 呆れるよりも、ただただ感嘆しか出てこない。

 気づけば呼吸すら忘れ、ふたりの放つ音の奔流に飲み込まれていた。


 リーリャの荘厳な旋律と、ルルエの澄んだ歌声が重なり合う。

 それはただの演奏や歌ではなく、魔力そのものを震わせるような、圧倒的な力を帯びていた。


 やがて──空中に、ひときわ強く輝く六つの光が現れる。


 赤き炎。

 青き水。

 茶の大地。

 翠の風。

 眩き光。

 そして、黒き闇。


 聖音に呼応するように、それらはそれぞれの形を成し、まるで生命を持つように漂い出す。

 光粒子のような属性たちはやがて、講堂の中央に浮かぶ灰色の星へと導かれ──音に溶け込むようにして、星の内部へと吸い込まれていった。


 灰色に沈んでいた星が──微かに光を帯びはじめる。

 暗く無機質だった輝きに、次第に色が差していく。


 緑。


 小さな芽吹きが星の表面に広がり、葉を繁らせるように活気が満ちていった。

 朽ちたような灰の表面に、命の気配が宿りはじめる。

 星の鼓動がゆっくりと蘇っていく──そんな風にも感じられる。

 灰色だった星は、まるで大地が蘇るかのように、生い茂る緑へと姿を変えていく。


 緑の光に満ちていく星を見上げていた、その時──


 ぱあっ。


 今度は、空中に一本のスポットライトが差し込む。


 暗闇を切り裂いた光の柱の中、影がひとつ浮かび上がった。

 その人物は──小さな天使たちを数体まとい、光に包まれながら、ゆっくりと舞い降りてくる。


 大きすぎる教本を抱え、立派な髭をたくわえた中年の男。

 くるくると回転しながら、何度もうなずいていた。


 その姿はまるで、舞台の幕間に現れる大役者。

 演出に全力を注いだ登場に、講堂の空気が一瞬固まる。


 光の柱の中で回転を止め、ゆったりと着地する髭の男性。

 観客に語りかける役者のように、胸を張り──


「かくして──惑星イクリスは、創造主と属性神が突如として現れ、誕生したのであ~る!」


 堂々たる口上が、聖講堂に響き渡る。

 あまりに芝居がかった調子に、場が一瞬しんと静まり返った。


 その沈黙を破ったのは──マルシスの心底深いため息だった。


「……はぁ。なんでドワーフというのは、こうも凝り性なのでしょう」


 マルシスの嘆息に続くように、スポットライトの中心へと降り立った男が、堂々と腕を広げた。


 その瞬間──


 女神のステンドグラスが、一斉に輝き、聖堂内に光が灯された。


 祭壇前に立つその姿は、立派な髭を湛えた、神父装束のドワーフ。

 胸を張り、朗々と声を響かせる。


「それでは──イクリス聖歴史学は、この私、ストラトス=アングレフに任されよ!」

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