第71話 VS 魔造工兵(ゴーレム)
作品タイトル変更しました。宜しくお願いします!
「きゃわいいぃぃぃ~~っ!!」
彼女たちは叫ぶなり駆け寄ってきて、カナリアとノアを――容赦なく、ひょいっと抱き上げた。
「わっ!?」「きゃっ!?」
まるでぬいぐるみでも抱えるように、柔らかな力でぎゅうっと抱きしめられる。
「勇者様って聞いてたから、もっとこう、ゴツい感じかと思ってたけど……」
「なにこの美少年と美少女! 絵本から出てきたみたい~っ!」
驚いている双子の反応など気にする様子もなく、メイドたちの抱きしめ攻撃は止まらない。
ノアはというと――
「……ちょ、ちょっと、くるし……っ」
抱きしめていた長身の女性獣人――豊満な胸に埋もれ、もがいていた。息がうまくできず、口をパクパクさせている。
「ふふっ、ごめんなさいね~。可愛すぎて、つい♡」
軽く謝りながらも、まったく離れる気配はない。
一方で、リアを抱きしめていた金髪の少女は、じっと顔を覗き込むと、そっとカナリアの髪に触れた。
「ほんとに……お人形さんみたい。目の形も、まつげのカールも……パーツパーツがまさに黄金比」
「は、はずかしいです……」
(お、おねえさんも十分美人だってば! それに……顔がちかい~~っ!!)
カナリアは思わず頬を赤らめながら、じりじりと後ずさろうとする――が、しっかりホールドされて逃げられない。
そんな双子の様子に、ようやく金髪メイドが気づき、ふっと笑みをゆるめた。
「ふふ……ごめんなさい、取り乱しちゃって。でも、可愛すぎる罪、ってことで許してね?」
その言葉にノアとカナリアは同時に困り顔になりながら、こくこくと頷くしかなかった。
一方、その様子を少し離れた場所で見ていたギルバート一行。
「なんだ、いつの間にかすっかり歓迎されとるじゃないか」
ギルバートが苦笑しながら腕を組み、アデルは肩をすくめる。
マルシスはというと――やり取りにはあまり関心がないようで、シンシアから受け取ったバスケットの中身の匂いをそっと嗅ぎ、目をきらりと輝かせていた。
ギルバートが一歩前に出て、双子の方へ視線を向ける。
「紹介しよう。屋敷を管理してくれてるふたり――リーリャと獣人のルルエだ。二人とも、今後はいろいろと世話になるだろうから、仲良くな」
「黒狼族のルルエ・フーガだよ! よろしくねぇ~!」
ルルエは尻尾をブンブンと揺らしながら、満面の笑みで手を振る。
その陽気さに釣られるように、ノアも思わず「よろしく!」と返した。
「星セレスティア聖教国出身の、リーリャ・バートネットです。よろしくお願いします」
もう一人の金髪の少女――リーリャは、クールながらも優しい笑みを浮かべ、綺麗な角度でお辞儀をした。
その柔らかな雰囲気に、カナリアとノアも思わず背筋を伸ばして応える。
「カナリア・グレンハーストです!」
「ノア・グレンハーストです!」
二人が元気に名乗ったその瞬間――メイドたちのテンションが再び一気に跳ね上がった。
「やっぱり、かわいい~~っ!!」
ふたり同時に、再び双子をぎゅーっと強めにハグし直し、今度はナデナデ付き。
「わふっ!?」
「うぇっ……! だから苦しいって……」
ノアが小さく抗議の声を漏らすも、その言葉はふかふかの胸に吸い込まれていった。
「よし、挨拶は済んだかな? まずは外から案内するよ」
双子はルルエとリーリャに手を振り軽く別れの挨拶をし、アデルの後に続く。
こうして二人は、屋敷とその周辺の施設を一通り巡ることになった。
建物の外には、広々とした剣の稽古場が整備されていた。
硬質な石板が敷き詰められ、木剣や訓練用の装備が整然と並べられている。
(……あの鎧みたいな人形、なんだろう?)
カナリアがふと気になって声を上げた。
「ねえアデルさん、あれは?」
「ああ、あれは魔造工兵だよ。相手のレベルに合わせて動いてくれる、便利な訓練用の魔法道具のひとつさ」
アデルが軽く笑いながら説明する。
「ちゃんと訓練者の力量を解析して、過剰な力を出さないようになってるから安心していいよ」
「ちょっと動かしてみるかい?」
アデルが軽く笑いながら、稽古場の中心を指さす。
「えっ、いいの!?」
カナリアの目がぱっと輝いた。
(魔造工兵なんて聞かされたら、やらない理由がないです!)
「えーずるいー! ぼくもやりたい!」
ノアが横から身を乗り出す。
「んー、じゃあコイントスで決めるか」
アデルが懐から小さな銀貨を取り出し、ひょいと掲げて見せた。
「これな、表には剣の紋章。裏には――竜の刻印だ」
言いながら、指先で銀貨をくるりとひっくり返す。
「表!」「ぼく、裏!」
ぴっと指ではじかれた銀貨が空中に舞い上がり、陽光を反射してきらりと輝く。
くるくると回転しながら落ち、石板の地面に軽く跳ねてから、カタンと静かに転がり止まった。
「……表、だな」
アデルが拾い上げて、ふっと笑う。
「ちぇー……」
ノアが唇を尖らせて不満顔を見せる。
「じゃあ次、なにかあったらノアに譲るから!」
カナリアが笑いながら肩越しに言うと、ノアはぱっと顔を上げた。
「ほんと? ぜったいだからね!」
「うん、約束!」
「じゃあ……まだ案内中だから、軽く一戦だけ。ルールは簡単」
アデルは片手を上げて、人差し指を立てる。
「一攻一防。つまり、お互いに一撃ずつ交互に技を出す。攻撃されたら、防御か回避のみで反撃は禁止。防ぎきれない、もしくは最初に立ち位置の円から出たら負け。──OK?」
(なるほど……シンプルだけに奥が深い!)
「やるっ!」
アデルが魔力を送り込みながら、軽く指を鳴らすと、魔造工兵の目が青く光り、静かに稽古場の中央へと移動する。
聖青銅の装甲に包まれた重厚な人型――だがその動きは驚くほど滑らかだった。
「それじゃ、カナリアちゃん先攻。思いきっていこうか」
そう言いながら、アデルは壁にかけてあった木刀をひょいと外し、カナリアへ放る。
続けて、もう一本の木剣を魔造工兵の方へと放り投げ、器用に掴んだ。
カナリアは軽く息を吸い、木刀を構える。
(どれどれ~……まずはお手並み拝見といきますか)
瞬間、右斜め上から――つまり、肩口から脇腹へと抜ける袈裟斬りの軌道で踏み込んだ。
その一撃が振りぬかれる直前、
魔造工兵はわずかに肩を引きつつ、上腕の装甲を持ち上げてガードを取る。
刃と刃がぶつかり、硬質な音が響く。
互いの力がぶつかり合い、木刀と木剣が一瞬、押し合った。
しかし次の瞬間、魔造工兵の剛力がわずかに勝り、
カナリアの木刀は弾かれるように跳ね返される。
押し合いを制した魔造工兵は、そのまま木剣を押し上げ、
無駄のない動きで大きく振りかぶる。
両腕を使い、重力と自重を乗せた垂直の一撃が、真上から振り下ろされた。
(……来る!)
木刀を構える素振りだけ残し、体をひねって一気に踏み込む。
魔造工兵の剣が地面へ叩きつけられる、ほんの直前――
彼女の体は、その軌道から紙一重で抜けていた。
風を裂く音と、石板を打つ衝撃が背後から響く。
だがカナリアはもう、次の動きへと移っていた。
再び一撃。
受け止められる。
今度は魔造工兵が反撃。
それを捌き、カナリアが再び踏み込む――
一攻一防の応酬が、正確に、そして淡々と繰り返されていく。
(……悪くない。けど、まだちょっと遅いね。テンポあげていこうかな)
打ち合うごとに、カナリアの動きはどんどん速さを増していく。
反応速度、踏み込み、間合いの読み――すべてが、ほんの数ミリ単位で鋭くなっていった。
「この角度!」
「この間合い!」
「この速度!」
そして、気づけば斬撃は目にも止まらぬ速さとなり、
稽古場の中央で、超高速の斬り合いが繰り広げられていた。
キィ……ギギギ……ッ
魔造工兵の関節が限界を訴えるように、軋んだ音を立てはじめる。
「……あっ、まずい」
アデルが小さく呟いた、まさにその瞬間――
二百三十一手目。
カナリアの木刀が鋭く振り下ろされた。
ゴーレムは反応しきれず、わずかに半歩遅れる。
「ギィンッ!!」
甲高く金属を打つ音が響き、打撃は首と肩の継ぎ目に深くめり込む。
その瞬間、巨体がびくんと硬直し、わずかにのけぞった。
──ピピッ……!
肩と胸の接合部から、青白い蒸気がプシューッと噴き出す。
蒸気の隙間から、魔力刻印が瞬くように乱れ、明らかに異常をきたしていた。
そして――
ゴーレムの瞳に宿っていた魔力光が、すぅ……っと音もなく消えていった。
《活動限界》
膝をつくように、その場にがくんと沈み、完全に静止する。
「ごめんなさい……! 大丈夫?」
カナリアが慌てて駆け寄り、倒れた魔造工兵の様子をのぞき込む。
(や、やば……壊しちゃった? ていうか、やりすぎた……!?)
焦りと困惑が入り混じった顔でカナリアがアデルを見ると、
彼は苦笑しながら、魔造工兵の肩を軽く叩いた。
「大丈夫、大丈夫。試作用だから壊れても平気――とはいえ、熱っつ!」
蒸気がまだ残る装甲を指でちょいと触れた瞬間、思わず手を引っ込める。
「こりゃストラトス先生に修理依頼するしかないな……」
そして、ふっと笑みを浮かべて言った。
「……息ひとつ上がってないね、カナリアちゃん」
「い、いえ~それほどでも~」
(修理代とか請求されるかとおもった……よかった~~……)
カナリアは引きつり気味の笑顔を浮かべながら、内心そっと胸をなでおろした。
一方その様子を見ていたアデルは、小さく肩をすくめ、誰にも聞こえない声でぼやいた。
(あの魔造工兵……訓練用じゃなくて兵器用の試作機なんだけどね……)
その視線の先で、青白い蒸気を噴き出したまま、魔造工兵はぐったりと沈黙していた。
打撃を受けた首元には、対物・対魔の両面に優れた聖青銅の装甲が、はっきりと凹んだ痕跡を残していた。
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