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第67話 帰るべき場所

 ――もうすぐ、村に着く。

 馬車の窓から差し込む風に頬をなでられながら、私は静かに目を閉じた。


 合同葬儀のあと、私たちはできる限りカドゥラン領主町の復興を手伝った。

 炊き出しをしたり、瓦礫をどかしたり……ほんのささいなことしかできなかったけれど。


 それでも一番驚かされたのは、賢者ギルバートが呼び寄せた復旧特務隊だった。

 彼らの建築魔法は、まさに圧巻。崩れ落ちた建物を元通りにするだけじゃなく、橋や教会の細かな装飾まで寸分違わず再現してしまうのだ。


(あの調子なら……半年もあれば、町はある程度の形を取り戻すんじゃないかな)


 町の復興も気になるけれど、それ以上に考えなければならないのは――自分たち自身のこと。


(気になる点といえば……やっぱり、私とノアの力のことだよね)


 あの戦いで確かに“覚醒”した。けど、二人ともまだ“完全”には制御できていない。

 ノアは全属性の魔法を使えるようにはなったけど、得意な氷魔法ほどには自由が利かないみたいだし……。


 私だって同じ。異世界の門――《アビスゲート》は、不安定なうえに燃費が悪すぎる。

 一度空間を開くだけで、魔力切れ寸前になるのが現実だ。


(ダウロ戦……あのときは、七年間分ためこんできた魔力を一気に使ったからこそ発動できたのかも)


 思い返すほどに、奇跡に近い勝利だったと思う。

 だからこそ、これから先の課題ははっきりしている。


(今後も……特訓、特訓、だなぁ)


 母シンシアは馬車の小窓から外を眺めている。

 ようやくおじいちゃんのこと、ふっきれたみたい。

 あの優しい笑顔に戻ってくれて、本当に安心した。


 父エルドと目が合うと、父さんは何も言わずに私の頭を撫でてくれた。

 うーん……ほんと、いい両親だ。


 ノアは――私の肩ですやすや寝てる。

(……モノホンの勇者は器が違うね)


 ちょっと意地悪に、ノアの綺麗な鼻先へ軽くデコピン。


「ん……むにゃむにゃ……」


 思わず吹き出しそうになりながらも、私は肩に寄りかかる弟の頭をそっと支えてあげた。


 そのとき、前方から御者の声が響いた。


「――見慣れた景色が見えてきましたか? 間もなくハースベル村に到着いたします」


 馬車を降りると、御者が「領主ルグイ様やバルクレイ団長らから、皆さまへよろしくとの伝言です」と簡潔に告げてくれた。


 家の前では、たくさんの人々が帰還を祝福しつつ、祖父ギャンバスのことを悼むために集まっていた。


「おかえり、ノアくん、リアちゃん!」

「大変だったわね、聖環の儀……」

「ギャンバスさんのこと、本当に残念だったわ……」


 次々と投げかけられる言葉は、温かく、そして少しだけ切なかった。

 ノアと私は小さく会釈をしながら、村人たち一人ひとりと目を合わせて応えていく。


 ふと視線の先に、ホフマン神父の姿が見えた。

 彼は胸に手を当て、静かに目を閉じて祈りを捧げている。

 その横顔には深い悲しみが刻まれていたけれど、それ以上に、ギャンバスの魂を敬う強さがあった。


 そのとき、ホフマン神父が静かに歩み寄ってきた。

 胸に手を当て、深く頭を下げる。


「……リア。本当に、すまなかった。……昔、君に無責任なことを言ってしまった。私の軽率な言葉が、どれほど君を傷つけたかと思うと――」


 私は首を振り、慌てて笑顔を作った。


「大丈夫です! ……じつは、属性がないかもしれないって、気づいていたんです」


 そして胸に手を当てる。


「それに……今は“自分だけの道”を見つけましたから」


 神父の瞳が揺れ、祈るように小さく頷いた。


 その少し離れた場所では、祖父の仕事仲間だった木こりたちが、大きな体を震わせて声をあげていた。


「ギャンバスぅ……お前がいねぇなんて……!」

「俺たち、どうしたらいいんだよ……!」


 分厚い手で顔を覆い、オンオンと泣き崩れる姿は、不器用な男たちのまっすぐな友情そのものだった。


 父さんが静かに歩み寄り、荷台から酒樽を二つ抜き出して彼らの足元へ置いた。


「……今日はこれを飲んで、父を弔ってやってください。きっと、あの世で喜ぶはずです」


 母さんもその隣で微笑み、深く頭を下げた。


「夫も……そして私も、父を誇りに思っています。どうか、皆さんも」


 木こりたちは涙に濡れた顔を上げ、酒樽を抱きかかえると、仲間同士で肩を組んだ。


「……よし! お前ら、今日はギャンバスのために飲むぞ!」

「おーっ!!」


 その声は村じゅうに響き渡り、涙に沈んだ空気を少しだけ力強く塗り替えた。


 そんな中、ノアが周囲をきょろきょろと見渡しているのに気づく。


「どうしたの、ノア?」

「……ううん。なんでもない」


 弟は小さく首を振り、曖昧な笑みを浮かべた。


 そこへホフマン神父が改めて近づき、グレンハーストの一家へ向き直る。


「……ギャンバス様のお墓のことですが、教会に用意いたしましょうか?」


 私は首を横に振り、はっきりと声を上げた。


「ううん! もう、決めてあるんだ」




 ギャンバスの仕事場――その小屋の裏手にある、小高い丘の上。

 そこに置かれた墓石の前に、家族四人が揃っていた。


 墓の隣には、祖母の墓もひっそりと並んでいる。

 私とノアは祖母のことをほとんど知らないけれど、

「オシドリ夫婦だった」って、村の人たちからよく聞かされていた。


(……これでまた、二人一緒になれるんだね)


 墓の周囲には色とりどりの山野草が添えられ、風に揺れている。

 それを見ながら、母・シンシアがそっと手を合わせた。


「お父さん、お疲れさま。お母さんとゆっくり、休んでね」


 エルドはどこか寂しげに笑った。


「義父さんが切った木で、もう家や家具を作れないと思うと……やっぱり寂しいな」


 リアとノアもそれぞれの想いを胸に、手を合わせる。


「守ってくれてありがとう。これからも、見ていてね……」


 そのとき、ノアが墓の傍らに歩み寄り、静かに両手を大地へかざした。

 土の魔法が柔らかくうねり、ギャンバスが生涯を共にした愛斧が地中に埋め込まれていく。

 やがて斧は墓石の脇にぴたりと収まり、まるで墓を守る番人のようにそこへ根付いた。


 カナリアは空を見上げ、胸の内で思う。

(ここなら大好きな木も近いし、職場の仲間たちもすぐそば。きっと、おじいちゃんも安心して眠れるよね)


 そして、風がそっと頬を撫でた時。


「……さあ、帰ろうか」


 父の言葉に、皆が静かに頷いた。


 しかし――


「……ごめん。僕、ちょっと寄り道して帰るから。先に帰ってて!」


 ノアがそう言い残し、くるりと背を向けて駆け出していった。




 カウンターの向こうで、魔女の老婆はぼんやりと遠くを見つめていた。

 ここはハースベル村の郊外――《箒が丘》に建つ、メリンダ魔法具店。


「メリンダばあちゃん!」


 元気な声と共に扉が開く。


「わっ……ノアかい。驚かせないでおくれよ」


 苦笑しつつも、メリンダの横顔には、どこか寂しげな影が差していた。


「出迎えのとき姿が見えなかったから、心配でさ」


 ノアの言葉に、メリンダは一瞬目を瞬かせ、それから照れくさそうに笑う。


「……まったく、気のきく子だねぇ。……話は聞いてるよ。大変だったねぇ。……にしても、全属性持ちとはねぇ」


 ノアは懐から、あるものを取り出した。


「これ、返すよ。封魔の腕輪……聖環の儀のあと、もう暴走しなくなったんだ。」


 優しく両手でメリンダの前に差し出す。


「大切な物っていってたよね? ばあちゃん、ありがとう」


 メリンダはそれを受け取り、無言で見つめる。

 そして――あの日の記憶が鮮やかによみがえった。


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