第5話 昔の神話はリアルな過去
――銀河の果て。未踏の暗黒帯を、ひとすじの光が疾走していた。
船でも、隕石でも、魔物でもない。
それは、“彼女”だった。
(……ん?)
疾走する虹の波動体が、速度を落とさず、「こちら側」にふと視線を向ける。
「およ? ……うっそ、観測されてる?しかも――私より高次元存在じゃん!興味持ってくれてるなんて、光栄だよ~」
そう言って、くすくすと笑った。
「見つけてくれてありがとう! おっしゃ!せっかく見てくれてるんだから……とびっきりおもしろい星、つくらなくっちゃね♪」
言うが早いか、虹の光は再び加速する。
その先にあるのは、まだ誰にも知られていない――未活性の惑星。
「おっと、たしかこのへん……あっ! あったあった〜!」
虹色にきらめく波動体が、超光速から急減速し――
目指していた惑星の大気圏を突き抜けると、乾ききった大地に、ふわりと着地した。
そこは、水分の気配すらない砂混じりの灰色地帯。
地面には無造作に岩塊が転がり、周囲には意味もなく巨大なクレーターや崖が口を開けている。
風もなく、空も沈黙したまま。
――生命の気配など、どこにもなかった。
「うへ〜、ぜんっぜん活性化してないじゃ〜ん!
ま、だからあたしが派遣されたんだけどね〜」
虹色の光がふるふると揺れ、波動体はまるで肩をすくめるように、空間を見回した。
彼女は周囲の空間を見渡し、ぽつりと呟く。
「……あ、この姿じゃやりづらいな~」
次の瞬間、虹色の波動がふわりと揺らぎ、光の粒が集まるように形を変えていく。
やがて現れたのは――
つば付きキャップに、明るめのブルーのパーカー。
その背中には、銀の文字で《7-A GALAXY CLUSTER》とプリントされている。
白いショートパンツに、銀のラインが入ったスニーカー。
どこにでもいそうで、どこにもいない。
空間に溶け込むような、軽やかな、おねえちゃんだった。
「よしっと♪ やっぱこっちのほうが動きやすいや~」
彼女は自分の身体をちらっ、ちらっと横目で見て確認し――
軽くその場で飛び跳ねる。
靴底が地面を蹴る瞬間、きらきらと星屑のような粒子が一瞬、宙に舞った。
軽やかに着地すると、ニッと笑って言う。
「うん、重力も問題なしっ」
彼女は足元の未活性惑星を見下ろし、拳を握る。
「そしたらまず、星――活性化っしょ!」
瓦割りのように腰を落とし、リズムよく声をあげる。
「いち、にの……セイッ!!!!!!!」
拳が地表を叩いた、その瞬間だった。
拳の先から放たれた高エネルギーの波が、大地を伝って星の核へと直撃する。
まるで心臓に電気ショックを与えるかのように、未活性だった惑星が――
ドクン、と鼓動した。
つづいて、地面がうねり、核が熱を帯び、大気が震え出す。冷えきっていた星全体が、内側からじわりと熱を取り戻していくように、徐々に、だが確実に、“生命の脈動”を始めていった。
「星の構造、どうしよっかな~……」
空を仰ぎながら、彼女はぽんと顎に指をあてて考え込む。
「ワイルド全開! 巨大生物だらけの原始惑星!地響きバンバン、種と種との生存競争。食うか食われるかの、デカい命がぶつかりあう星……!」
そのイメージだけで目を輝かせていたが、やがて表情を曇らせた。
「んー……これは迫力あるけど、感動なさそう。絶滅する側に感情移入しちゃったら、メンタルもたないかも~」
次に、くるりと手のひらを返すように思考を切り替える
「じゃあ、超高度文明系?
量子制御、無限エネルギー、自己進化する機械ネットワーク。全ての営みが数値化され、感情すらアルゴリズムで最適化された世界――」
「うわ~、SFでカッコいい~~~」
そう呟きながらも、すぐに首をかしげて口をとがらせる。
「でもさ、こういうのに限って滅ぶの早いし、
他の惑星に侵略するんだよね~~~。
戦争とか、すーぐやるし。こわ」
「あたし、創るのは好きだけど……壊すのは担当外ってことで」
そこでくるりとターンして、両手をぱんっと合わせた。
「うん! やっぱ属性系統惑星にしよう!剣と魔法が織りなすファンタジー――やっぱこれが一番ロマンあって、輝いてるよねっ!」
両手を広げた彼女の背後に、ふわりと六つの輝きが浮かび上がった。
深紅の炎。燃え盛る力と衝動の化身、火
蒼き生命の母、水。その手のひらは、ときに慈悲、ときに災厄。
大地を支える、剛き基盤。土。この惑星という舞台の“骨格”そのもの。
風は変化と拡散の運び手。境界をこえて世界をつなぐ、見えぬ導線。
調和と照らしの象徴――光。優しく、温かく、導き、癒す存在。
最後に現れるは、拒絶と欲望、沈黙の象徴――闇。すべてを呑みこみ、消し去る深淵。
六つの輝きが出揃うと、属性たちは自然と波動ねえちゃんの周囲をくるくると回り始めた。火、水、土、風、光――それぞれが違った光と軌道を描きながら、軽やかに舞う。
ただひとつ、闇だけは違っていた。
くるくると回る輪の外側で、ふわりと浮かび、まるで何かを観察するかのように静かに漂っていた。
「よいしょっと……」
波動ねえちゃんはしゃがみこみ、地面に指を当てる。
ほんの少し力を込めると、地面が音もなく裂けるように開いていき、
その奥から、ゆっくりと――鈍く脈動する星の核が姿を現した。
「おっし、みんな星の核と融合して~!
うまいことやって、生命とか魔法とか、バンバンっと生み出して星活いってみよう!」
彼女のひと声に、火、水、土、風の属性がわずかに光を強め――
彼女の意志を読み取り、望んで、静かに星の核と融合していった。
――しかし、その問いかけにただ一つ、拒む意志を示した属性があった。闇である
「……断る。成長には闘争と欲望が必要だ。無理に馴れ合いの環境に溶け込んでも、真の進化は生まれん。完全な融合は停滞である。」
その言葉にくるっと振り返る、 そして彼女はぱちくりと瞬きをした。
少しだけ驚いたように眉を上げ、顎に指をあてて、ふむ、と首をかしげる。
「えぇ~……でもまぁ、一理あるし。
無理強いはよくないよね! うんっ!」
光「……それでは、私も核と融合してまいります」
「ちょいまちっ!」
彼女がぴしっと指を突きつけて、光の属性を制止した。
「闇っちだけボッチってのはかわいそうだし、かといって特別待遇もできないから~……」
「光ちゃん、監視役兼、星全体の管理役に任命しまーす! ドヤー!」
そこで彼女は、ひょいっと自分の胸元に手を差し入れ――
すぅっと腕が、まるで水の中に沈むように、身体の中へと潜り込んでいく。
同時に、指先からこぼれ出すようにまばゆい光があふれはじめた。
「……んしょっ」
やがて、掌をぐいっと引き抜くと、そこには眩しく輝く鍵のような光が宿っていた。
「え? でもでもそんなのできな――」
彼女は光が意志表示する前にその“鍵”を、ぽいっと軽やかに空中へ放り投げた。
「壊したら大変だよ! きゃっち!」
すると、光は慌てたように軌道を変え――
鍵の落下地点へ、すっと滑るように移動した。
輝きが交差し、ふわりと星の空へと定着する。
光「わっ! うけとっちゃいました~……」
困惑のにじむ声に、波動ねえちゃんはにっこりと親指を立てた。
闇「……話はまとまったようだな。私は私だけで生態系を作る。余計な邪魔はするなよ」
そう言い残し、闇は静かに軌道を外れ、星の裏側――陽の光すら届かぬ場所へと沈んでいった。
やがてその地には、のちに“魔大陸”と呼ばれることになる瘴気と影の領域が形成されはじめる。
光「ぜ、ぜったい、いつか戻ってきてくださいよ! お母さん!」
「……ま、みんないい子にしてたらね~」
そう言って、彼女は空へひょいっと指を突き出す。
「んじゃ目印にこれ、残しておくねっ!」
指先から放たれた光が、星の重力圏に三筋の軌道を描き―― 三つの月となって、惑星イクリスの衛星としてゆっくりとまわり始めた。
「んじゃ、あとはよろぴくー!」
キャップを直し、スニーカーのかかとで地面を軽く蹴って、
虹のような残光を引きながら、波動ねえちゃんは超光速で銀河の彼方へと旅立っていった。
しばしの静寂。
そして――
「……そっかぁ、闇っちと光ちゃんは融合しなかったんだね~」
声が響いたのは、もう誰もいないはずの空間だった。
だがそこには、微かに揺れる波動の残滓が、頬に指をあててくすくすと笑っていた。
「うんうん、そういうのも“個星”ってやつだよねぇ~☆」
一拍おいて、目を細める。
「……でも、“あたしに逆らう意志”がいるっての、ほんっと~~~に、珍しいんだよね」
にやり、と唇を吊り上げた。
「あの星……これから、ぜったいおもしろいことになる。にっしっし♪」
そう言って、彼女はウインクひとつ。
次の瞬間、虹の軌跡を描きながら宙を翔け、
流星のように、銀河の彼方へと消えていった。
「……そうして、光の女神さまと闇の魔王さまは、それぞれの役目を持って、この星に根づいたのよ」
母シンシアのノアはぽかんと口を開けて、リアはじっと目を細めていた。
物語の余韻が、部屋に静かに漂っている。
静かに手を組み、空を見上げるようなまなざしでぽつりと私は口を開く。
「……ねえ、ママ。このお話って――作者、だれなの?」
「あら」
シンシアは少し驚いたように微笑み、そっとカナリアの頬に手を当てる。
「ほんとうに、リアは大人っぽいわね。そんなことが気になるなんて」
「……ううん、なんとなく。だって“この世界はこうしてできました”って、すごく大事なことなのに、だれが語ったのかなって思って」
シンシアは少し目を細め、柔らかい声で答えた。
「この物語を残してくれたのはね、“初代聖女アリシア・マザーマリア様”。今のセレスティア聖教国を築いた、最初の光の聖女様なのよ」
「アリシア・マザーマリア様……」
横で目をこすっていたノアが、ぱちんとまぶたを開く。
「ねぇ、それって……なんか、ママの名前に似てるね!」
その言葉に、シンシアはふっと笑った。
「そう。おばあちゃんがね、“聖女様みたいな女性になりますように”って、わたしに『シンシア』って名付けてくれたのよ」
「……へぇ。そういうの、なんかいいな」
小さく呟いたカナリアの表情は、どこか遠くを見ているようだった。
少しの静寂のあと、ノアがぽつりとつぶやいた。
「ねぇ……魔大陸って、こわいとこなの? 怪物とか……お化けとか、くるのかな……」
声は小さかったが、その響きには本気の不安がにじんでいた。
その言葉に、カナリアも少しだけ背筋をのばす。
シンシアは優しくノアの髪をなでながら、やわらかい口調で言った。
「大丈夫よ、ノア。大昔にね、“女神の大地”と“魔大陸”のあいだには、“結界”っていう目に見えない障壁が張られてるの。目には見えないけれど、とっても強い“壁”みたいなもので、お互いに行き来できないように守られているのよ」
「けっかい……?」
「そう。昔はね、魔族と人間が争っていたけど……今はその結界のおかげで、大陸の行き来ができなくなってるの。だから、魔物たちも、こっちには来られないのよだから安心して」
「そっかぁ……よかったぁ……」
すっかり夜になっていた。
部屋の明かりがぼんやりと揺れ、窓の外では虫の声がかすかに響いている。
だけど私は、母から聞いた“魔族”という言葉がどうにも胸にひっかかっていた。
たしかに今は“結界”によって大陸の行き来は封じられていて、安全だという。
それはきっと本当なのだろう。
――でも、本当に“永遠”に安全なのだろうか?
どこか、胸の奥に残るざらついた予感。
“杞憂”で終わればいい。けれど、なぜだかそんな気がしなかった。
「刀の才覚……かぁ」
あの時に感じた、魂の奥底にある“何か”。
あれは、やはりただの幻想ではない。
この世界で生きるということは、きっと――
「……何が起きてもおかしくない、ってことだよね」
そろそろ“特訓”を始めるべきかもしれない。
そんな直感めいたものが、私の背中を押していた。
窓を見上げると、夜空に三つの月が浮かんでいた。
赤、青、白――まるで童話の挿絵のような幻想的な光景。
だが、今の私は知っている。
それがただの“おとぎ話”ではなく、現実の一部だということを。
同じころ。
その月の光を受ける、遥か遠くの地ローネアン連合国。最も魔大陸に近い場所。
ここで“世界の均衡”を揺るがす戦いが、静かに幕を開けようとしていた。
それは、未来のすべてを揺るがす戦いの始まりだった――。
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