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第48話 カドゥラン領強襲⑬ 経験の差

「おじい……ちゃん……」


 目から涙があふれ、頬を伝ってこぼれ落ちる。

 崩れた身体を支えながら、静かにその場で泣き続けた。



ノアもまた、遠くからその光景を見つめていた。

 一滴の涙が、頬を伝い――地面に落ちる。


 その瞬間、彼の聖印が眩い黄金に爆ぜた。


 いつもは冷たく澄んだ水の気配を放つはずの体から、膨大な魔力が迸る。

 氷の冷気は蒸気へと変わり、やがて炎の熱、風のうねり、大地の脈動、稲光の閃き……あらゆる属性が同時に解き放たれていく。


 それら全てが脈打つように剣へ、そして蒼い虹彩の奥へと流れ込んだ。

 その瞳には、確かに浮かんでいた――“光の環”。


「……ダウロ……絶対に……許さない……!」


 握られた剣が軋み、金属が呻くような音を上げる。

 刃は熱と冷気を同時に纏い、雷鳴と砂塵を引き連れながら、空気そのものを震わせた。


 まるで、この場すべてが少年の怒りに共鳴しているかのように。


 そして――地を蹴った。

 その動きは、もはや閃光そのものだった。


 剣が、疾走する。


 ズシャッ――ッ!!


 黄金の魔力を宿した刃が振るわれ、その軌道が残像のように宙を裂いた。

 一閃――光の線が走り抜けた瞬間、ダウロの肩から胸へかけて鮮血が噴き出す。


 続けざま、ノアは姿勢を低くして身を滑らせた。

 二閃目――脚部を斜めに断ち切り、巨体を膝から崩れさせる。


 すかさず跳ね上がり、三太刀目。黄金の弧が空を走り、顔を斜めに裂いた。

 あまりにも速く、光が過ぎ去った一瞬後に皮膚が裂け、肉が断たれる。


 怒声と悲鳴が混じった咆哮が、血煙とともに吹き上がった。

 巨体がぐらつき、重い身体がよろめきながら後退していく。


 ノアの叫びが、短く鋭く響いた。


「今夜……お前たちが奪った命の重み、全部受け止めろ!」


 血を吐きながら、ダウロが呻く。


「ヌグオオオ!!……この力……まさか、貴様が……本当に勇者なのか……!?」


 その目が見開かれ、恐怖と憎悪がせめぎ合った。


「……いや、間違いない……ッ!」


 燃え盛る憎悪。焼き焦げた復讐心。積み重ねた悲願と呪い。

 それらが一つの塊となり、魔将ダウロという存在を再び地上に引きずり起こす。


「だが、もはや後戻りはできん……! 我ら魔族にとって、貴様は――悲願を阻む“災厄”そのものだ!!」


 その腕が背後へ伸びる。


 ジャキィン!


 重い音と共に、鉄鎖が引きちぎられた。

 瞬間、バキバキと骨が軋む音が戦場を満たす。筋肉が膨れ、皮膚が内側から盛り上がった。


 次の瞬間、肌の下から黒褐色の毛が一気に噴き出す。

 指は鉤爪のように伸び、腕や脚の関節が獣じみた角度に折れ曲がる。

 人間に近かった体躯は、瞬く間に野生の獣へと変貌していく。


 赤黒いオーラが滲むのではなく、肉体の奥から爆ぜるように噴き出す。

 背に刻まれた紋様が、禍々しい光を放ちながら脈動し、蠢いた。


 ノアが目を見開く。


「っ……あれは!? 聖印……? いや、違う……!」


 巨体はみるみる肥大化し、毛に覆われた筋肉がさらに膨れ上がる。皮膚は裂け、血が蒸気となって散った。

 理性も知性も剥がれ落ち、そこに立つのは人の面影すらない獣の魔将。


 潰rlo=gy≒勇=Σ’raァァァァ!!!!!(潰れろ……勇者アアアアアアアアアアアア!)


 その咆哮は、もはや言葉ではなかった。

 破壊本能と狂気、そして執念だけを燃やす“狂牛”と化した魔将が、命を削る最後の一歩を踏み出す。


 全身を押し潰すような重圧が襲ってきた。

 覚醒したダウロから放たれる魔力は、空気そのものを歪ませるほど凄まじい。

 呼吸が重く、胸の奥に鉛を詰められたようだ。


(……すごい……けど……僕だって……!)


 ノアは歯を食いしばる。


「……水だけじゃない……他の属性エレメントが……力が……あふれてくる……!」


 身を駆け巡る魔力ちからが、熱と冷気、雷光と大地の脈動を同時に叩きつけてくる。

 それは気のせいや一時の高揚ではなかった。

 自惚れではない――これなら届く、と確信できる力だ。


 胸の奥で何かがはじけ、迷いが霧散する。


 「行ける……!いや、行くんだ!!」


 ノアは地を蹴った。

 足裏を割って飛び散る土、視界を裂く風。

 そのすべてを振り切り、まっすぐにダウロへ突き込んでいく。


ノアの剣は、精度、威力、疾さ――いずれも覚醒前とは別物だった。

 勇者として目覚めた才覚が、その一振りに宿る。

 刃は肉を裂き、火花と血飛沫を散らしながら、光を纏って魔将ダウロを着実に追い詰めていく。


 その剣には、間違いなく“勝利の兆し”があった。


 ――だが。


 すべてを賭して迎え撃つダウロは、なおも衰えを見せない。

 むしろ、ノアの覚醒に呼応するように、戦闘本能はさらに研ぎ澄まされていく。


(なんでだ……俺は、確かに強くなってる。今この瞬間だって、手応えは掴めてるはずなのに――)


 斬撃を浴びせても、次の瞬間にはそれに“対応した動き”で返してくる。

 まるで、戦いの最中に本能的な進化を繰り返しているかのようだった。


(このままだと……まずい……!)


 焦りが、じわじわと心を侵食する。

 優勢だったはずの主導権は五分に戻り、さらに――自分が“追い詰められている”という実感が、喉の奥を冷たく締め付けた。


 勝負を決めたのは必然だった。


 明日をも知れぬ過酷な自然環境と、弱肉強食の掟が支配する魔大陸。

 その苛烈な地で数百年を生き延び、力と知恵を兼ね備え、将軍の座にまで登り詰めた魔将・ダウロ。


 その“重み”は、まだ七歳の少年にとって――あまりにも圧倒的だった。


(才能だけじゃ……届かない……)


 頭ではわかっていたはずだ。それでも、“覚醒”という力にすがっていた自分がいた。

 それが今、剣と鉄槌がぶつかるたび、音を立てて崩れていく。


 そしてその崩壊は、戦況にじわじわと影を落とし始めた。

 わずかな間合い、わずかな駆け引きの読みで、ダウロが徐々に優勢を取り戻していく。


 ノアの動きは確かに冴えていた。覚醒した力を存分に振るい、今の自分はかつての自分とはまるで違う――そう確信できるほどに、動けていた。


 ……だが、次第に“練度”の差が、じわじわと浮かび上がっていく。


 刹那の判断。攻防の切り替え。そして一切の躊躇なく繰り出される殺意。

 そのすべてが、剣筋と同時に全身へと叩き込まれてくる。


(やっぱり……こいつ、“格”が違う……!)


 焦りが、呼吸の隙間を塞いでいく。

 才能だけでは越えられない、“経験”という名の圧倒的な壁。

 死線を超えた命の数――その全てが、今の自分をねじ伏せにかかってくる。


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