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第44話 カドゥラン領強襲⑨ 合流

「勇者かァ!!」

「親玉かァ!!」


 ノアとダウロの叫びがぶつかった瞬間、轟音と共に衝撃波が走った。

 周囲の空気が震え、窓が割れ、壁に亀裂が走る。


 ぬうんッ!

 体格で大きく勝るダウロが、鉄槌を振り抜いた。

 振るうというより、叩き潰すための一撃。

 その質量が空気を裂き、重圧となってノアを押し潰さんと迫る。


 ノアは一瞬で理解する。(力比べじゃ、絶対に勝てない!)

 真正面から受け止めるのではなく、刃をわずかに傾け、衝撃の流れを逸らす。


 ガァンッ!!

 振り抜かれる勢いを利用して、自らの体も後方へ跳ね飛ばすようにして衝撃を逃がした。

 地面に着地するや否や、剣を構え直し、すでに再突撃の体勢を整えていた。


 (次は、こっちから!)


 すぐさま体勢を立て直し、

 ノアは小柄な体躯を活かして、跳ねるように地を蹴った。

 空気を裂く鋭音とともに、剣が閃く。


 ザシュッ! スパァンッ!


 冷気を纏った斬撃が、巨躯の表面を正確に切り裂いていく。

 傷は確かに刻まれ、白い霜が肉を凍らせるはず。だが。


「いい動きだ、小僧……だがな、軽すぎるわぁ!!」


 地を裂くような唸りとともに、ダウロの拳が下から突き上げられた。

 狙いは胴――まるで内臓ごと吹き飛ばすつもりの、殺意に満ちた一撃。


「ぐっ……!」


 ノアはとっさに剣を横に構え、拳を受け止めようとしたが――重すぎる。

 衝撃が骨を揺らし、足元が宙に離れる。全身がふわりと浮き上がった。


 その瞬間を逃さず、ダウロが獣のように姿勢を沈めた。

 踏み込みと同時に大地が爆ぜ、巨体が雷鳴のように加速する。

 轟音を伴い、その角と全身を前方に投げ出す、猛牛じみた突進

 いや、それは質量そのものを武器に変えた、“暴力の塊”だった。


 直線的な破壊が、すべてを薙ぎ倒すかのように迫る。


(っ――くるっ!!)


 背筋があわ立ち、反射のように魔力が全身を駆け抜ける。

 本能が守れと叫ぶ。

 次の瞬間、ノアの身体を氷の光が覆った。

 それは意志ではなく、生存本能が生み出した防御の殻。


「ダーハッハッハッ!! 吹き飛べええ!!」


 衝撃。

 ノアの体は、まるで石弓から放たれた矢のように横一直線に弾き飛ばされた。


ドガアッ!! ドゴォンッ!! バガガンッ!!


 ノアの体は砲弾のように飛び、居住区の家屋のレンガ積みの外壁を五枚、十枚と次々に粉砕する。

 さらに奥の家屋の石壁まで突き破り、室内を粉塵で満たした。

 石片と木片が宙を舞い、破壊音が夜の空気を裂く。


 食器棚が砕け、はりが傾いて覆いかぶさる。

 その下で、ノアは呻きながら腕を伸ばす。


「……く……そ……っ……」


 砂煙が立ちこめる中、瓦礫を押しのけ、少年は立ち上がる。

 胸の奥で燃える炎は、まだ消えていない。

 ここで倒れるわけにはいかない。


 崩れた梁を掴んで身を起こす。

 外から、ズン……ズン……と地響きが迫ってくる。


「この音……近づいてくる」


 一歩ごとに床板が震え、空気がわずかに波打つ。


 耳がその音を捉えた瞬間――


 ゴォンッ!!


 玄関の扉が、横薙ぎの鉄槌によって粉砕され、背後の二階部分ごと吹き飛んだ。

 破片が夜空に舞い、遅れて轟音が腹の底を打つ。


 その余波に、ノアの髪がふわりと揺れる。

 そして、粉塵の中で顔を上げた。


 肩に鉄槌を担ぎ、砕けた壁の向こうに立つ巨影。


 月光に血の鎧をきらめかせ、獣の双眸を光らせた魔将ダウロが、冷徹な眼差しでノアを見下ろしていた。



 その冷徹な眼差しが、瓦礫の中のノアを射抜く。

 その圧に全身が軋む――それでも、ノアは目を逸らさなかった。

 強張った顎を上げ、歯を食いしばり、キッと睨み返す。

 小さな体の奥に宿る意思が、炎のように瞳に燃えていた。


「……たすけて……!」「やめて……だれか、だれか……!」「うっ、うう……っ……」


 断末魔のような叫びと、すすり泣く声が、町のあちこちから届いてくる。


(俺が……間に合わなかったから……!)


 ノアの瞳が震えた。心臓を鷲掴みにされたような感覚。これが、自分たちが守ろうとしていた“町”の声――。


「……どうして……こんな酷いことを……」


 それは怒りというより、悲しみと絶望が滲んだ問いだった。


 だが――返ってきたのは、わらう声。鉄槌の鈍頭がノアのすぐ横に叩きつけられるように寸止めする

 床板が爆ぜる。粉塵が舞う中、ダウロの巨体が顔を寄せ、野獣のような瞳でノアを見下ろす。


「ここだけだと思ったか、小僧?」


「……どういう意味だ……?」


「今宵! 世界中で、我が同胞たちが“勇者の芽”を狩り取っている。今頃、各地で躍起になって暴れ回っているだろうさ。勇者候補の首を挙げた者には、“七魔星”の席が与えられるのだからな!」


 その言葉は、戦慄と共にノアの胸を突き刺した。


「……“七魔星”? それって……何なんだよ……!? それに……世界中でこんな酷いことを……許せるわけないッ!!」


 拳を握りしめるノア。その眼に怒りが宿るのを見て、ダウロはわらいながら鉄槌を振り上げた。


「貴様はまだガキだが、その力は侮れん。だからこそ……ここで肉塊にしてやるッ!!」


 叫びと共に、ダウロの拳が唸りを上げて振りかぶられる。怒気を纏ったその一撃は、先ほどの比ではない。


「っ……くそ、まだ……脚が、うまく動かない……!」


 一歩、動こうとしたその足が、ぐらりと揺らぐ。


 このままでは――!


「ノアァァァァァッ!!」


 風を裂く音が一瞬だけ遅れて耳に届く――その刹那、鋭い蹴撃がダウロの顔面を捉えた。


「ぬぐおおおッ!!」


 全く予期していなかった不意打ちの衝撃に、巨体が大きくのけ反る。


「ゴルァァ!! 私の可愛い弟になにしてくれとんじゃああああッ!!」


 怒声が轟き、ダウロの巨体がそのまま建物へと崩れ落ちる。土煙の中、現れたのは白銀に揺れる聖衣。それはつい先ほどまで神前に立っていた証、聖環の儀の装束だった。


 今やその裾は泥に塗れ、焦げ跡とともに、ところどころ赤く染まっていた。


 だが彼女は構わず駆けつけた。胸の奥に宿る怒りと、弟への想いだけを頼りに。

 青い髪が風になびき、鋭い蒼の眼が戦場を貫く。


 無属性と烙印を押された少女、双子の姉――カナリア・グレンハーストだった。

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― 新着の感想 ―
ノアは魔法を何故使わなかったのか。 腕輪のせい? とにかく一方的に叩きのめされちゃいましたね……。 (。ŏ﹏ŏ) でも、満を持してカナリアが登場。 きっと雪辱を晴らしてくれるはず‼️ ヾ(・ω・*)…
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