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第39話 カドゥラン領強襲④ 騎士の誇り

ダウロの頭部めがけ放った警備隊長アーキルの光の矢が、風を裂いて突き刺さる!


 その直後、四方から放たれた兵士たちの矢、火矢、魔法弾が相次いで着弾し、轟音とともに爆発が巻き起こった。

 煙と火花が渦巻き、土煙が城門前を覆い尽くす。


「……完全に死角から、全魔力を込めた会心の一撃ッ……! あれを受けて無事なはずがない!」


 勝利を確信したその瞬間だった。


 ――ビュオッ!


 土煙の中から、何かが飛んできた。風切り音が耳を裂く。

 それは、巨大な鉄槌。まるで投擲された彗星のごとく、アーキルの眼前へと迫る。


「なにっ!?」


 ドゴオオオオンッ!!


 その一撃は、高台ごと時計塔を粉砕した。

 閃光の矢を放ったはずの警備隊長アーキルの姿は、土煙と瓦礫の中に飲み込まれた。


ダウロに打ち込まれた火矢や魔法弾が巻き起こした爆煙が次第に晴れていく。


 その中から“魔将ダウロ”の姿が、ゆっくりと露わになった。


 確かに、兵士たちの矢も魔法も、アーキルの渾身の一撃も確実に命中していた。

 だが、ダウロはそれらを、素手で、時には額で受け止め、無造作に振り払い、体を震わせて落としただけだった。


「なるほど……それが貴様らの返事というわけだな!!」


 鼻孔を大きく広げ、ダウロの肩がわずかに震える。

 怒気に満ちた呼吸が荒く、獣の唸りのように地を揺らす。


「ひ、怯むな!突撃っ!!」


 先陣にいた若き騎士が、勢いあまって叫んだ。

 その声が引き金となり、隊列の前方が一気に動き出す。


「ま、待て、まだ合図は」


 副騎士団長の制止も間に合わず、騎士団と防衛団の兵たちは、剣と槍を構え、一斉に駆け出していった。

 その瞬間、ダウロが敵陣を一瞥し、赤黒い魔力を片脚へと集中させた。


「……クク、俺の“二つ名”を教えてやろうか……!?」


 ズドンッ!!


 振り上げた蹄が、雷鳴のごとく地に叩きつけられる。


 《蹄鉄粉砕デストロイ・ストンプ》!!


 大地が炸裂し、衝撃波が円状に広がった。。

 突撃していた兵たちはその余波に呑まれ、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされた。


「“圧壊のダウロ”だ」


 瓦礫すら残さぬ巨大な窪地のただ中に、ダウロは立っていた。

 後方にいた配下の魔族すら巻き添えにした殲滅の一撃の後、奴は忌々しげに周囲を見渡す。


「軟弱者どもが……! 今のでくたばるような奴は必要ない!」


 咆哮とともに、命令が下る。


「探せ! 勇者のガキを連れてこい!!」


 呻き声とともに、魔物たちが大門より大量に侵入し姿を現す。

 地を掻き、嗅ぎ回り、血を求める目で町を睨みつける。


 命令と同時に、四方へと駆け散っていった。


土煙の向こう、なおも立ち尽くす魔将ダウロが、ふと目を細めた。


「ほう……今のを耐える奴がいるとはな……」


 その声の先。

 爆風に抉られた地面の中――

 その中心で、ひときわ大きな影が、盾を構えて踏みとどまっていた。


 聖印《重騎士》の才覚を持つ屈強な女性、副騎士団長レオナ。


 大地の魔法で強化された巨大な盾が、前方へと堂々と構えられ、

 その背後には、数名の部下たちが身を伏せ、無傷で息をついていた。


 レオナは、焼け焦げた鎧の隙間から覗く額の汗を拭いもせず、

 ただ、じりじりと足を踏みしめながら、巨体の魔将を見据えていた。



ギィ……ッ、バキィッ……!


 一撃を耐えきった大盾が、きしみを上げながらヒビを走らせ、崩れ落ちた。

 土の強化魔法をまとっていたそれですら、今や砕け、粉となって風に消える。


 レオナは盾を手放すと、すぐさま背後の部下たちに振り返った。


「よく聞け! 伝令を伝える!」


 苛烈な咆哮に、兵たちが顔を上げる。


「勇者候補の二名を連れ、この地をただちに離脱しろ! 交戦など考えるなッ!!」


 レオナは叫びながら、ゆっくりと近づいてくる影へと視線を向けた。


「奴は……」


 睨むその先にいたのは、周囲の建造物をも超える、牛頭の巨人。

 赤黒い魔力を纏い、獣のように唸りながら、確実に一歩一歩、距離を詰めてくる。


「人がどうにかできる領域の相手ではない」


 その声音には恐怖ではなく、冷静な現実の判断であった。



(……我が軍最高の単体火力を誇るアーキルの会心貫通特化弓術ディヴァイン・レイを、不意打ちでくらっても無傷……)


 (おそらく団長でさえ……)


 レオナの脳裏を、冷や汗のような思考が過ぎる。


 その傍で、震える声が響いた。


「でも、副団長……俺たちも!」


「いいから早く行け!!」


 命を繋ぐための一喝。


 その声に、兵たちは顔をこわばらせながらも、歯を食いしばった。


「は、はいいいっ!」


 勇者候補を護るべく、城へと向かって駆け出していった。


 レオナはひとつ、深く息を吸う。


 崩れた大盾の破片を足で払い、両手で大槍ランスを構えなおし、全魔力を集中させる

 そして、大地を蹴った。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 咆哮とともに、魔将ダウロへと突撃する。




その頃、リアの帰りを待つグレンハースト家の面々は、宿《白銀の翼亭》の一室にいた。


 ノアは窓の外に視線を向け、ふと眉をひそめる。


「……なんだ、これ……感じたことのない、異様な魔力……?」


 その瞬間。遠く、南大門の方角から獣じみた、重低音の咆哮が響いた。

 その声はまるで、空気ごと震わせるような威圧と殺気を帯びており人々を不安に陥れた。


 町じゅうに警鐘が鳴り響き、建物が小刻みに震える。


 外で一体何が起きている?確かめなくてはそう思ったノアが立ち上がった瞬間、支配人のマルセンとシャロンが慌ただしく部屋へ飛び込んでくる。


「ノア様、カナリア様! いますぐ領主様の城へ避難してください!」


 外ではすでに、避難の号令が飛び交っていた。

 人々の怒声と悲鳴が混ざり合い、床を打つ足音が響く。

 泣き声、倒れた椅子、舞い上がる土埃。秩序は、音を立てて崩れかけていた。


 そんな混乱の中、母シンシアが顔を強張らせながら部屋を飛び出す。

 玄関先に駆け出し、息を呑んだ。


「……警鐘!? リアを迎えに行かないと……!」


 焦りに満ちた声が上がった、その瞬間――


 ゴオォォン……ッ!!


 地鳴りのような衝撃が、宿舎全体を揺らした。

 外で何かが爆ぜ、爆風が街道を駆け抜ける。


 建物の隙間を吹き抜けた衝撃が、窓ガラスを粉砕した。


 ガシャァァン!!


「きゃっ……!」


 飛び込んできた破片と瓦礫の中、鋭い石片がシンシアの足をかすめる。


 悲鳴とともに床へ倒れ込み、足首を押さえたその表情に、痛みと焦燥が入り混じっていた。

 足元には、うっすらと赤い血がにじんでいる。


「痛っ……リアが……リアがまだ……っ!」


「シンシア! そのケガじゃ無茶だ! まず治療をしないと!」


 父エルドがすぐに駆け寄り、床に倒れた妻の体を支える。

 その背後で、祖父ギャンバスがゆっくりと腰を上げた。


 皺だらけの顔に浮かぶ決意が表れている。


「言う通りじゃ。わしが行く。リアを迎えに行くぞ!」


 その言葉に、ノアが前へ一歩踏み出した。

 まだ幼い顔に、強く結ばれた唇。


 小さく息を呑み、だがその声は誰よりも、はっきりとしていた。


「……僕も行く!」


 その場の全員の視線が、ノアに向けられる。


「いけません!」


 支配人マルセンが、慌てて声を上げた。


「ノア様だけでも……! 町に異常事態があれば、勇者候補を連れ出し避難させるのが第一。私には、その任があるのです!」


 エルドが鋭く問う。


「……この事態を、予測してたってことですか」


「……」


「どおりで。町に入った段階から来賓扱いでつきっきり。つまり……お目付け役も兼ねてたってことですね」


 マルセンが、深く頷いた。


「……これも、あなた方を護るため。

 それに、奴らが本当に攻めてくるかどうかは不確定だった。

 だが、こうなってしまっては……一刻の猶予もありません。どうか、城へ!」


 だが、ノアは首を横に振った。

 その目に、迷いはなかった。


「……いけないよ。僕は剣神で、全属性持ちの勇者候補なんでしょ?」


 冗談めかした口調で言いながらも、声の芯は揺るがない。

 その目は真っ直ぐだった。


「この町で、今一番強いのは……僕なんだ。……姉さんには負けるかもしれないけど、ね」


 少し笑ったその横顔に、家族は誰も言葉を返せなかった。


 ノアは拳を握りしめた。


「……姉さんに、ひどいこと言っちゃった。

 だから僕が、迎えに行かなきゃ!」

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― 新着の感想 ―
外の方は壊滅状態なので、せっかく名前が出てきたレオナが心配です。生き残って欲しい……。 (。ŏ﹏ŏ) ノアが姉を気遣えるよう、成長しましたね。 カナリアが大人の対応をし過ぎたのもあって、ノアの精神成…
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