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第37話 カドゥラン領強襲② 前哨戦

「……町に、どんどん近づいている……!」


 蠢く影、炎のうねり、そしてねじくれた魔力の渦。

 それは明らかに、魔獣モンスターの群れではなかった。もっと強く、もっと禍々しい――魔族の軍勢。大地を侵す、恐るべき侵略者たちの姿だった。


 「う、嘘……あれって、魔獣モンスター……の大群? ……いや、違う……!」


 思わず後ずさりながら、カナリアは昔聞いた母の語りを思い出していた。

 太古の昔、女神と魔王がこの星を分かち、人の住む祝福の大地と、呪われし魔の大地が生まれたという話。

 もし、あの闇の向こうにいるのが“魔大陸の者たち”だとしたら。


 「まさか……本当に……魔族なの……?」


 ガラン、ガラン、ガラァン……!


 突如として、街全体に警鐘の音が鳴り響いた。

 鼓膜を打つ鋭い金属音。それはただの注意喚起ではない。“敵襲”を意味する、非常の合図だった。


 「っ……! あの方角、南大門……!」


城壁の向こう――見覚えのある地形。その先から、黒い雲のような闇がゆっくりと迫ってくる。


 その瞬間、防壁の上から一斉に火矢が放たれた。続いて、魔法使いたちが魔法を放つ。

 炎、雷、氷の魔法が次々と空を走り、夜の闇を焼き払うように輝いた。


 暗かった風景が、一瞬ごとにまぶしい光で照らされる。

 燃え上がる炎が街の建物を赤く染め、雷の光が地面を震わせながら空を割る。


 光と音と熱が混ざり合って、まるで戦場全体が大きな光のかたまりになったようだった。



 その中に混じって、空を翔ける影が現れる。

 鳥人バードマンたちだ。軽やかに翼を翻し、上空からの投擲武器や爆撃、風の魔法で敵陣を攪乱していく。


 「すごい……!」


 彼らの連携は見事だった。落下する黒影。吹き飛ばされる魔族。

 

だが、「……止まらない……!」


 戦火に包まれながらも、なお進み続ける黒い群れ。

 傷ついても、焼かれても、霧のように広がりながら、魔族の本体がじわりと南門へ迫っていた。


 その姿は、まるで死を運ぶ波。


 「嘘……このままじゃ町に……っ!」


 カナリアの心臓が、はっきりと音を立てて脈打った。



バチッ……ズガァァン!


 闇の中、無数の黒い魔力が軍団から放たれ、まるで光線のように一直線に街の防壁を貫こうと迫る。

 それは魔法による遠距離砲撃――黒い魔力弾が雨のように降り注ぎ、外壁を狙って次々と撃ち込まれていく。


「魔法……砲撃!? うそ、あれ全部!」


 ドゴォォォォンッ‼


 轟音が夜空を突き破り、大地を揺るがす。

 火と雷の魔力が外壁に叩きつけられ、閃光と衝撃が周囲を白く焼いた。


「……あれは、町の魔法障壁……!」


 爆光の中、街を取り囲む防壁に、うっすらとカドゥランの紋様が浮かび上がっていた。

 それは〈魔法障壁〉。街全体を覆う防御魔法が、限界ぎりぎりで猛攻に耐えているのだ。


 しかし、それも限界がきていた。

 ひび割れた結界の表面には、無数の魔力痕。次々と追撃が迫るたびに、そのたびにきしみを上げる。

 止まない砲撃。容赦ない黒き魔力の奔流。


 このままでは、持たない。


次の瞬間。


 黒い群れの中から、ひときわ巨大な鉄槌が唸りを上げながら回転し、一直線に防壁へ叩きつけられた。


 ドゴオオオオオオォォォンッ!!


 魔法障壁とぶつかった瞬間、爆ぜるような衝撃音が夜を切り裂き、大地そのものを揺らした。

 その風圧は、はるか郊外、町外れにいたカナリアのもとにまで届く。


「きゃっ――!」


 轟音とともに巻き起こる突風に、蒼い髪が一気に逆巻いた。

 服も肌も、まるで嵐に叩かれたかのように激しく揺さぶられる。


「……こんなに遠くなのに……!」


 信じられない規模の衝撃に、カナリアは目を見開いた。


 爆風と揺れ、そして、町を襲う圧倒的な“災厄”の気配を感じる。


「……大変、町が……! みんなを守らなきゃ!」


 反射的に、腰へと手を伸ばす。だが。


「……あっ……そっか……刀が、ない……!」


 空を掴んだ指先が、小さく震える。

 焦り。無力感。罪悪感。

 そして、胸の奥で家族や弟の顔がよぎった。


 けれど、立ち止まってはいられない。


「……でも、行かなきゃ!」


 カナリアは拳を握りしめた。

 不安も、悲しみも、怒りも、すべてを振り払うように、彼女は駆け出す。


 何も持たずとも、彼女の中には“護る意志”があった。

 蒼い風が、少女の背を押した。


 ――その風は、これから始まる戦いの幕をも押し開くかのように。



街に、警鐘が鳴り響いた。

 金属を打ち鳴らす鈍い音が、空気を揺らし、人々の心臓を貫くように響き渡る。


「敵襲‼ 敵襲! 未確認の軍団が押し寄せています!」


 大門上から偵察兵の叫び声。

 その声を合図に、街の防衛線が一気に騒然とした。


「魔法障壁、復帰及び維持は不可能です! 防壁と大門の強化へ移行します!」


 兵士たちが走り、指示が飛び交う。

 鉄の音と怒声が混じり合い、街の中に緊張の波が広がっていく。


 大門の内側では、すでに二百人前後の兵士たちが隊列を整えていた。

 重装の歩兵部隊、盾を構えた守備兵たちが戦意を高めながら、じりじりと構えを固めていく。


 そのとき――


 石畳の中央街道を、重々しい蹄の音が規則正しく響き渡った。


「騎士団……来ます!」


 兵の一人が声を上げると、誰もが反射的に振り返る。


三十騎ほどの騎士団が、整然と進軍してくる。その先頭に立つのは、副騎士団長レオナ。

 長身に銀鎧をまとい、女性にも関らず大盾を背負うその姿は、静かに戦場へと威圧感を持ち込んでいた。


背筋をまっすぐに伸ばし、凛とした眼差しで前方の大門と兵たちを見渡し、高らかに発言する


「我らが領主町カドゥランが、敵に膝をついたことは一度たりともない!」


 レオナが馬上から声を張る。


「今日という日も例外ではない!この門を、通すな!」


 その一声に、兵たちは一斉に槍を掲げて応じた。


「応ッ!!」


 騎士たちを率いたまま、大門近くの後方へと進み、警備隊長のもとへと馬を止める。


 一瞬、視線が交差した。レオナがわずかに顎を引いて合図を送る。



鳥人バードマン部隊、応答しろ! 外の状況はどうなっている!?」


 警備隊長の怒鳴り声が、通信石を通して飛ぶ。


「こちら鳥人バートマン部隊、上空にて交戦中! 敵軍本体は二手に分かれています! 先陣部隊が突入準備中、注意されたし!」


「な、なんだあいつは! 先頭に、巨大な……!!」


 声が、途切れた。


「……どうした!? 状況を伝えろ!」


 応答はなかった。通信石から返ってきたのは――

 魔鳥たちと激しく衝突する、耳をつんざくような羽撃と咆哮の音のみだった。


(来やがった……本当に来た……!)

(あの数……なんとかなるのか……!?)


 胸の奥を締めつけるような緊張と、背筋を撫でるような恐怖。

 兵士たちの背中に、冷たい汗が伝う。

 装備の金具すら震え出しそうな異様な気配が、戦場を満たしていく。


「賢者殿から通達のあった“魔族の襲来”と見て間違いない!」


 偵察兵長が怒号に近い声で叫ぶ。


「手筈どおり、支援部隊は南の居住区民を北の城区へ避難させろ! 急げ!」


 怒声に押されるように、兵士たちが動き出す。

 だが、その表情からは、誰もが理解していた。

 単なる奇襲などではない。

 これは、戦争たたかいのはじまりなのだ。


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― 新着の感想 ―
まさか、ここで刀を持ってきていない痛恨のミス‼️ うーん、まぁ攻められる前提で飛び出してきた訳じゃ無いし、仕方ないのか……。 (・–・;)ゞ 大盾の女副団長はなんか良いですね。 特にルックスに触れら…
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