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第33話 私が、ざまぁ展開なんて聞いてませんけど!?

私は、緊張でこわばる身体に鞭打ち、そっと手を伸ばす。

指先に魔力を込めながら――聖印石に、触れた。


(だ、だいじょうぶ……きっと……だいじょうぶ。これを終わらせて、観光して帰るんだ……)


こわばる指先が震えていたけれど、なんとか抑えて、私は聖印石にそっと手を触れた。


瞬間、小さく――ピシッ、という音。

それと同時に、淡い光が縦に走った。


(来た!? 今の、風っぽくなかった? ねえ、風属性? 違う?)


期待が胸の中で膨らみかけた、まさにその時だった。


神聖石の反応は消え、私の左肩の聖印に聖環は出現せず、静けさが戻る。


(……えっ? なに? まさか、やめてね?)


「……あれ? おかしいですね。もう一度」


司教が優しく告げる。

私はもう一度、手をそっと重ねる。けど――何も起こらない。


会場の空気が、どんどん重くなっていく。


「一瞬、光ったよな……」

「さっきの弟の勇者様の影響じゃない?」


ざわつく声が、耳に刺さる。

さっきまでノアに向けられていた拍手と歓声とは、明らかに違う空気。


(うそ……やだ、こんなの……。は、早く終わって……!)


司教が私に近づいてきて、「すみません」と低く声をかける。

そっと、私の左肩に手を伸ばし――その瞬間、彼の表情が凍りついた。


「な……ない……。弟と真逆だ。星の生命の源である属性反応が……まるで、属性そのものを感じない……」


ぐらり、と視界が揺れた気がした。


会場の中心で、記録官が一歩前へ進み出る。

ペンを走らせたあと、静かに、けれども確かな声で宣言した。


「カナリア・グレンハースト! 其方を歴史上、始まって以来の無属性者エレメンタル・ゼロと記す!」


その宣言が下された瞬間、膝の力が抜け座り込んでしまった。頭のどこかで「冷静になれ」と自分に言い聞かせていた。


……でも、無理だった。


ここまで積み重ねてきた努力。

7年間、ずっと憧れてきた魔法の世界。

誰よりも準備して、期待して、夢を見ていたのに――


なのに。


(な、なんで……なんで転生者の私が……)


悔しさと情けなさと、なにより“納得いかなさ”が、感情の限界を突き破り、思わず口から飛び出す


「ざまぁ展開されなきゃいけないのよおおおおおおおおお!?!?」


会場の空気が凍りつく中、私はひとり、両手をぎゅっと握りしめ、

その拳をぐいっと下に突き出すように全身で叫んだ。


「ざまぁ……?」

「属性が、ないって……どういうことよ?」

「見間違いじゃ……いや、一瞬だけ光ったって……」

「ありえない……過去に一例もない……」


視線。声。囁き。

どれもが、カナリアの心を突き刺す。


(うるさい……うるさいうるさいうるさいっ!!)


立ち上がろうとして、足に力が入らなかった。

自分は、ただ皆と同じように認められたかっただけなのに。


(……覚悟はしてたけど……)


唇を噛みしめ、ぎゅっと目を閉じる。


そのとき、聞き慣れた声が届いた。


「ね、姉さん……落ち着いて……っ」


振り返ると、ノアがこちらを見ていた。

顔をこわばらせ、明らかに心配そうな瞳。

その視線の先――親族席に目をやると、父と母、そして祖父の顔が視界に入った。


困惑と驚き、そして――沈黙。

どんな言葉よりも、心に響いた。


(あっ……やば、儀式の最中だった……!)


頭が真っ白になったまま、わたしは口を開く。


「ちょ、調子悪いんで失礼します!」


すごい勢いで大聖堂の扉を押し開き、そのまま外へと飛び出した。


「姉さん!」「待って!リア!」


家族の声が、背中に届く。


振り返れない。こんな顔を見られたくなかった。

晴れた空が広がっているのに、どうしてこんなに息が詰まるんだろう。


(……って、もっとマシな言い訳なかったんか私ィィィ!!)


そのまま朝に通った大通りを足早に引き返し、《白銀の翼亭》へと戻った。


石畳を踏む音がやけに大きく感じる。胸の奥がざわざわして落ち着かない。

大理石造りの門柱をくぐると、玄関前では昨日案内してくれたメイド――シャロンが箒を手に掃き掃除をしていた。


「──あっ、カナリア様! おかえりなさい! おひとりでお戻りですか?」


その声に返事もせず、いや、正確には余裕がなくて出来なかったんだ。勢いよくドアを押し開け、宿の中へ飛び込んだ。


そして、自室の扉をバタンと閉める。

さらに部屋の奥、荷物置きとして使っている小部屋へと転がるように入り、ガチャリと鍵をかけた。


(……穴があったら、入りたい)


狭いその空間に座り込み、わたしは膝を抱えた。


(……こういうときは、状況の整理だなぁ。おちつこう)


深呼吸。してみたけど、胸の奥がざわついて、どうも落ち着かない。


やっぱり、というべきか。

私には、属性がなかった。


以前、ホフマン神父との会話で聞いたあの言葉が脳裏をよぎる。

――才覚は肉体に宿り、属性は魂に宿る。


(つまり……)


私は前世の魂を持って、この世界に転生した。

肉体はこの世界のものでも、魂は異質。その結果、才覚は有るが属性が宿らなかった。


非情だけど、構造的には至極真っ当な理屈。


(……なら)


なら、どうして?

なぜ女神は、わざわざ私なんかを別の世界から連れてきたの?

属性も持てないような、不完全な形で――


「あああもう!イライラして考えまとまらないいいいい!! なんなのよ女神様っ!!」


勢いよく立ち上がった瞬間、**ゴンッ!**という鈍い音が響いた。


「いったああああああいッ!!?!」


頭のてっぺんに衝撃。咄嗟にしゃがみ込みながら、手で押さえる。


(いたたたた……棚!? なんでこんなとこにあんの!?)


キィィィィィン……と甲高い耳鳴りが脳内に広がった、その刹那――

視界の奥がチカチカと揺れて、まるで記憶の底が割れるような――


「なんで自分だけこんな目に」

「七歳の誕生日なのに!そんなこと知りたくなかった!」

「なんか言ってよ、お父さん!!」


聞き覚えのない“声”と顔の見えない“シルエット”が、頭の奥に直接響いてきた。


「……え?」


思わず固まる。


(今の……誰の声……? まさか……私?)


思考がぐらつく中、呆然とつぶやいた。


「前の記憶なの……? だとしたら……前世でも七歳って、ろくな年じゃなかったんだな、私……アハハ」


ふうっと、大きくため息。


「なんか疲れちゃった。……こういう時は……」


ドサッ。


「はーもういいやっ! 不貞寝しよっ!!」


無造作にその場へと倒れこみ、倉庫の冷たい床に顔を埋める。

ざらついた木の感触が肌に伝わってきたけど、考えたって今は答えなんて出ない。


 もうどうでもよかった。


その背中から、どこかふてくされたような寝息が、やがて静かに聞こえてきた。


今日の私は、もう活動限界で……ございま……す……スースー。


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― 新着の感想 ―
属性が一つも無いから魔法は使えない……と _φ(・_・ 刀の才能はあるのだし、そっちで勝負していくしか無い! 頑張れカナリア! (「`・ω・)「 前世の記憶も気になりますね。 (´・ω・`)
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