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第32話 顕現せし氷の竜腕

「これより――」


「グレンハースト家、嫡子。

 カナリア・グレンハースト、ノア・グレンハースト、両名の“聖環の儀”を、ここに執り行います」


 静寂が張りつめる。


「なお、両名はいずれも――

 女神セレスティアより聖なる才覚《聖印核》を授かりし者にして、

 神の恩寵を受けし、希少なる魂と確認されています」


「よってこの儀式は、教典録に基づき、正規の公式儀礼として記録され、

 後世へと語り継がれるべきものと認定いたします」


 司教は静かに手を前へ伸ばし、双子を導くように告げた。


「さあ、カナリア、ノア――

 聖石へ進み、その手を重ねなさい。

 あなたたちの内に眠る“環”が、今この場にて明らかとなるでしょう」


「ではまず、カナリア・グレンハースト。前へ」


 その一言が、まるで雷鳴のように心臓を打った。


(うげ……ちょ、ちょっと待って……! まだ心の準備が……!)


 肩がピクリと震える。頭ではわかっていた。何度も覚悟しようとした。でも、実際に自分の名前を呼ばれた瞬間、足が勝手に後ずさっていた。


「さ、先にノアが受けます! お願いします!」


 私はとっさにそう口にしていた。


 手は弟の背中へ。そっと、でも確実に押し出すように。


(ゴメン、ノア……! でも、お願い。今だけは……! 情けないってわかってる。でも、こわいんだよ……)


 自分でもわかるほど、逃げるような、情けない動きだった。不安を悟られたくなくて、誤魔化すように微笑もうとしたけど、頬が強ばって動かない。


 それでも――。


「えっ……でも、早く知りたい……僕、やるよ!」


 ノアは、何のためらいもなく、笑顔で前に出た。

 その背中は小さいのに、不思議なくらいまっすぐで――眩しく見えた。


「……ご、ゴホン。わかりました。では、ノア・グレンハースト、前へ」


祭壇の奥――


 黄金の輪のようなリングに支えられ、宙に浮かぶ一つの“石”。


 ……いや、“石”などという言葉では到底言い表せない。


 直立したそれは、私よりもずっと背が高い。二メートル近い岩塊が、まるで重力を無視するかのようにゆっくりと漂っていた。

 形はごつごつとして不揃いで、でもどこか神秘的な調和を感じさせる。

 光を受ける角度によって、その表面の色が変わる。


 深い青に見えたかと思えば、次の瞬間には紫に、あるいは聖堂の天窓から差す光を受けて金にも似た輝きを放つ。


 まるで意志を持って呼吸しているかのように――


 それが、《神聖石》。


 うーむどんな原理で浮いているんだろう?ってそんな事考えてる場合じゃない。


 司祭が静かに神文を唱える。

 その声に呼応するように、神聖石が淡い光を宿し始めた。


「神聖石に触れてください」


  ノアが「はいっ!」と元気よく返事をし、神聖石へ手を伸ばした、その瞬間だった。


 ――ピシッ!


 空気が、凍った。


 いや、実際にだ。聖堂内のあちこちで、床や壁、柱の表面が一斉に氷結を始めたのだ。


 まるで目に見えない冷気の刃が走ったかのように、会場の空気が一変する。ざわめく参列者たちの吐く息が、白く霧のように浮かび上がるほど――そして


 「えっ……うわっ!?」


 ノアの叫びと同時に、聖堂の床から現れたのは、氷で形作られた巨大な“腕”だった。


 けれどそれは人のものではない。ごつごつとした鱗、太く力強い骨格、鋭く湾曲した鉤爪のような指――まるで、伝説に語られる竜の手だ。


 その掌の中央に、ノアが乗っていた。


 氷の竜腕がノアを掲げるようにゆっくりと持ち上げると、聖堂内には沈黙が落ちる。ただその神々しさと異様さに、誰もが息を呑んでいた。


 そして次の瞬間――


 竜の指先に、輝きが宿る。


 紅蓮の《火》、大地の《土》、流麗な《風》、清らかな《光》、そして澱んだ《闇》。


 五つの属性の輝きが、それぞれの指先に灯るように浮かび上がったかと思えば――


 それらが空中に解き放たれ、くるくると旋回しながら、一つの光の束にまとまり始める。


 まるで、意思を持った精霊たちが“選定”を終えたかのように。


 「ノア!!」


 私が思わず叫んだのと同時に、光の束が一直線に――ノアの胸、聖印核へと突き刺さった。


 「うわ、熱っ!? わわっ……!!」


 ノアの体がぐらりと揺れる。聖印核が輝き、まばゆい閃光がその全身を包み込んだ。

 その胸元に、星の刻印が浮かび上がる。すべての属性を内包する“環”が静かに回転を始め、ついに彼の聖印が完成した。


  その光は、見る者すべてに確信させる。


 ――この子は、ただの少年じゃない。


 神に選ばれし、“才”を持った存在なのだと。


その直後、氷の巨腕が砕けた瞬間に会場のあちこちで氷が音を立ててひび割れた。


ぱあっ、と。


 砕けた氷の破片が、光をまとった粒となって舞い上がる。

 まるで万華鏡のようにきらめく“ダイヤモンドダスト”が聖堂中を覆い尽くし、幻想的な光の雪が、天より祝福のように降り注いだ。


 そして次の瞬間――


「うおおおおおおおっ!!」


 歓声が爆発した。


「奇跡だ!!」


「すごい! すごすぎる!!」


「女神様のご加護だぁああ!!」


 歓声はさらに熱を帯び、泣き出す者、膝をついて祈る者、手を天に掲げる者――


「今日まで……今日まで生きていて、本当に良かった……!」


 中には涙を流して崩れ落ちる者まで現れ、聖堂はまさしく熱狂の渦に包まれた。


 「うわー……びっくりしたー!」


 光の嵐がようやく静まり、ノアがふらりと立ち上がった。

 少しよろめきながらも、笑顔を浮かべて私の元へ駆け寄ってくる。


 その背後から祭壇に歩み寄った司教が、静かにノアの胸元へと手を伸ばす。

 聖印核の上にそっと掌をかざし、目を見開いた。


 「……そ、そんな……こんなことが……!」


 息を呑むように言葉を落とす司教の声に、場が再び静まり返る。


 「全属性……。彼は、すべての属性を同時に持っている……!」


司教が震えるように呟いた直後、隣に控えていた聖印記録管が慌ただしくペンを走らせた。

 神聖石から漏れ出た光の余韻がまだ空間に揺らめく中、彼は立ち上がり、巻き上げた記録帳を高々と掲げる。


 「ノア・グレンハースト!」


 朗々と響く声が聖堂にこだまする。


 「其方を、全属性を併せ持つ《剣神》の聖印核保有者として記録する!

 これをもって、ギリス公国の勇者第一候補として、正式に推薦・認定とする!」


 その瞬間、どよめきが広がり、再び歓声と拍手が聖堂を揺らした。


「静粛に!」


 司祭の一喝で、会場にざわめいていた歓声が収まっていく。

 緊張と期待の入り混じる空気の中、次の名が厳かに呼ばれた。


「続いて、カナリア・グレンハースト。前へ」


 その瞬間、再びざわめきが広がる。

 期待という名の熱を帯びて。


聖印での強化された聴力でひそひそ話が聴こえてくる。


 (姉のほうは、いったいどんな奇跡を見せてくれるんだろう)

 (双子だし、複数属性を持っいるのは間違いないよな)

観衆の視線が、一斉に私へと向けられる。


(あんな奇跡を見せられた後に私が……やるの?)


 まるで舞台の中心に立たされた役者みたいに、私一人に照明が当たっている気分。

 そんな期待の目に晒されながら、私は心の中で叫んだ。


やりづらあああああああああああああああああああい!


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― 新着の感想 ―
及び腰だったため、先に全属性をやられてしまう……悲しいカナリアw (´ε`) 上がり過ぎたハードルは、くぐりやすいですね〜。 (*´ω`*)
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