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第2話 想定外の誕生 ハローワールド

 ギリス公国 カドゥラン領 ハースベル村


 ――夜更け。


 教会に併設された診療院の一室に、女のうめき声が響いていた。


「はっ……はっ……! くぅぅぅっ……!」


 白いシーツをぐしゃぐしゃに握りしめ、額には玉のような汗。

 限界を超えた痛みの中、それでも我が子を迎えようとする必死の想いが、その表情ににじんでいた。


「シンシアさん、あと少しですよ! 呼吸を整えて、はい!」


「もっと力を入れて! 今よ、ふんばって!」


 助産師と女医の声が、交差するように響く。

 その扉のすぐ外――。

 落ち着かない様子で廊下を行き来する二人の男がいた。


「……うう、俺は何もできないのか……っ!」


 木材職人の作業着を着た逞しい男――エルドが、焦燥を吐き出すように髪をかきむしる。

 命を懸けて戦っている妻のそばにすらいられず、ただ見守るだけの無力感が、胸を締めつけていた。


「うむ、それでいいのじゃ。父親は昔から、どーんと構えておればいいんじゃよ」


 隣で肩を叩いているのは、陽気な白髪混じりの木こり――ギャンバス。

 シンシアの父であり、エルドの義父でもある。

 だがそのギャンバスも、落ち着いたように見せかけて、何度もちらちらと扉を見やっていた。娘と孫の無事を願う“父”であり、“祖父”としての顔がそこにあった。


 そして――


「おぎゃああっ……!」


 張りのある、澄んだ女の子の産声が響いた。

 続けてもう一つ。


「おぎゃあっ! おぎゃああっ!」


 今度は、力強い男の子の泣き声。


「――!」


 エルドが扉に手をかけたそのとき、内側から声がした。


「お父様、どうぞお入りください」


 扉がゆっくり開く。


 そこには、ベッドに横たわるシンシアと、彼女の胸に抱かれたふたつの小さな命があった。


「ああ……シンシア、よく頑張ったな……!」


 エルドは駆け寄り、しゃがみ込むようにして妻の額にそっと手を添える。

 その瞳には、涙が浮かんでいた。安堵と感謝、そして――これから父となる覚悟。


「見て……元気な赤ちゃんよ……」


 言葉の途中で、声が震える。

 二人は互いの手を取り合い、静かに涙を流した。

 その涙は、痛みと苦しみの果てに宿った命への、純粋な祝福だった――そのはずだった。



 だが。


 そのうちのひとつ――女の子の魂だけは、心からの祝福に戸惑っていた。


(あ、ちょっと待って? ……意識が戻ったと思ったら、なにこれ……)


(……うそでしょ、あたし生まれてる!? もう赤ちゃんからスタート!?)


 戸惑いの波に飲まれながら、小さな手が勝手に動く。全身はむずむずと不自由。


(やっばい……これ……でも、なんも聞いてない! 説明なし!?)


(あたしゃ泣きたいよふぇぇぇええ……)


 その瞬間、まるで気持ちと連動するように、勝手に声が出た。


「おぎゃあああ! おぎゃああああ!」


「まあまあ、カナリアったら。どうしたの、お腹すいたのね?」


 シンシアが微笑みながら、カナリアをそっと抱き直す。


 母乳を飲みながら、私は観察する。


(カナリア?それが私の名前かな…………母乳にはちょい抵抗あるけど、生きるためにここは、赤ちゃんムーブかましてバブっておかないと。)

(てか、この人がお母さん?え、若い!そしてすっぴんでこれとか……美人遺伝子あざます)


 私の前の母親なんかーーだめだそこは思い出せない。


(お父さんも優しそうだし……職人肌っぽいし……わりといいスタートなんじゃ?)


「……二人とも……君に似て、かわいいな……」


 ん?父上今なんと?二人?

 ふと視線を横にやると、スヤスヤと眠るもう一人の赤子が目に入る。


(……あれ? もう一人? ……え、双子!?)

(まさかこの子も転生者……? いや……でもなんか寝顔が純真すぎる……それに、この状態じゃ確かめようがない)


 そこへ、バタバタと足音が近づいてくる。


「シンシアぁあ! 無事か!? 赤子たちは無事かあっ!」


 荒々しく駆け込んできたのは、先ほどの木こり、ギャンバス。


 子どもたちの顔をのぞき込んだ瞬間、満面の笑みを咲かせて叫んだ。


「うおおお……なんという可愛さじゃ……! お前たちのじーじ、じゃぞぉぉ!」


(うわ、これが私のおじいちゃん? でっか……筋肉凄い……)

(指、太っ! これ小指かよ!)


 本能的に、私はその差し出された小指を、ぎゅっと握ってしまった。


「……っ! 見たか! みんな! 今、小指を……! こりゃあもう、女神様にも匹敵する可愛さじゃ……!」


 いやいや、女神様マジで見たけど、あれは宇宙スケールだから。そう思いつつも、私の行動一つでこんなに喜んでもらえるのはなんか照れくさいけど純粋に嬉しいな。そう思った。


 ギャンバスが頬をくしゃくしゃにして喜ぶその姿に、助産師と女医が慌てて声をかける。


「はいはい、お二人とも。奥様はまだ処置が残っておりますので、ご退出を」


「あ、はいはい。す、すまんの。……うむ、すまんすまん」


 促されるままに、エルドとギャンバスが部屋を出ていく。


 いろいろ確認したい事をあるけれど私も限界。この体…………眠気に逆らえないみたい。これが赤子の性なのか。今日はとりあえず寝よう。また明日からがんば……るーー


 扉が閉まると、女医が小さく一礼した。


「……エルドさん」


「はい」


「明日、教会にて“聖核印の儀”を執り行います。よろしいですね?」


 エルドは深く頷いた。

 胸の奥に、祈るような願いが芽生えていた。


「……お願いします。どうか、この子たちに、女神の御加護がありますように」



 ――夜の静寂の中。


 窓の外、澄んだ空には双つ星が輝いていた。


 新たな物語のはじまりを告げるように――。


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