表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/117

第22話 水と刃、重なりて岩犀を討つ

「こっち見た……! 合図だよな!? い、いくぞぉぉぉおおおお!!

 絶対お前らなんとかしろよおおおおおお!!!」


 その叫びと共に――


 彼の手の甲に刻まれた剣豪の聖印が、紅蓮のごとく輝きを放つ。


 空気がひりつき震えた。

 熱を帯びた魔力が大剣へと収束し、刀身に炎が灯る。


 ごぉっ……と低く唸るような音と共に、剣が炎の魔力を帯び赤熱化していく。


 その異様な気配に、岩犀ロックライノが反応した。


「グルゥオオオアアアッ!!」


 咆哮とともに、岩塊の巨体がノアたちを素通りし、狙いをギャリソンに絞る。

その脚部に、突如としていくつもの小さな穴が開いた。

ゴウッ!!と地響きを伴って、そこから赤熱の魔力が噴き出す。まるで火山がえるかの如く。


次の瞬間、巨体が一気に加速した。

脚部の“火山噴射”が推進力となり、数トンはあろう質量が弾丸のようにギャリソンへと迫る!

大地が爆ぜ、空気が爆音を立てて割れる。


「ひいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


ギャリソンの顔は引きつり、冷や汗が滝のように流れていた。

 瞳は今にも飛び出しそうなほど見開かれ、口元はひくひくと痙攣けいれんしている。

 だが――それでも。

 膝を笑わせながらも、彼は両手でしっかりと大剣を構えていた。


「おじさん……やるじゃん!」


 カナリアがニッと笑う。

 岩犀の目が、完全にギャリソンへと向いていた。


 ――今が、最大の好機チャンス


 ノアが水面に手を伸ばすと、魔力がはしり大量の水が渦を巻くように舞い上がる。


 「行くよ、姉さん!」


 その水は、双子の木刀と木剣に水が絡みつき、滑らかに流れながら形をなぞっていく。

 ノアの意識に応じて、水は正確にカナリアの武器にもまといついていく。

 水面のようなきらめきが広がり、まるで流れる魔力が武器に力を与えているかのようだった。 


 「よし、あいつの横に並ぶよ!」


 カナリアは脚に力を込め、一気に跳び上がる。

 地面がわずかに沈み込むほどの強烈な踏み込みこむ、子供の身体とは思えない脚力。

 姉の背中を追って、ノアも負けじと地を蹴る。


 ギャリソンに突進する岩犀ロックライノの左右に、双子が並ぶように駆け抜けた!

 ぴたりと呼吸が合う。


 そして――


 二人が跳んだ。


風を裂いて、岩犀ロックライノの頭部をその左右から狙い澄ます。


「今だよ、ノア!!」


その瞬間。

ノアの魔力に応えるように、空気が一瞬ひやりと凍りついた。

両腕から放たれる冷気を纏った魔力は二人の剣を

巨大な氷のハンマーへと変貌させる。


 「はああああああああ!」

 「やああああああああ!」


 重さを得たその一撃が、疾走の勢いを乗せて 左右から岩犀のこめかみを同時に打ち抜く!


  ――ドゴン!!! 


 衝撃音が、あたり一帯に木霊する。


 頭部の左右から繰り出された一撃は逃げ場など、どこにもない。


 「――ッガアアアアアアッ!!」


 脳天で衝撃が炸裂する。

 次の瞬間、岩犀は白目を剥き、ぐらりと体勢を崩した。


 全身の装甲が、音を立てて剥がれ落ちギャリソンの手前で失速する。


 むき出しの肉体。無防備な巨体。

 そこに――


 「――《絶崩天獄炎突ぜつほうてんごくえんづき》ッ!!」


 ギャリソンの叫びが轟いた。


 紅蓮の魔力を纏った大剣が、一閃――


 跳躍と同時に顎下から突き上げられた炎の剣は、

 岩犀の頭蓋を貫き、脳天を突き破った!


 「オオオ……オ……」


 呻くような、嗚咽のような声を残し――

 岩犀の巨体が、崩れ落ちる。

 カナリアとノアが、手のひらを合わせて勝利を確信する。


 「ナイス、ノア!」

 「うん、姉さんも!」


 その瞬間、カナリアの中にある“感触”が確かに芽生えていた。


 (ノアの“属性付与エンチャント”……ちゃんと私にも作用してる。これはかなり強力なバフだね。今後も活用させてもらおう)


 けれど、思考はすぐに冷静さを取り戻す。


 (でも……魔力VS魔力の勝負になると、魔力防御ができなければ、あの岩犀みたいにいくら外殻が強くても一撃で沈む。私も、魔法に対する防御手段を考えなきゃ……課題山積みだね)



 その背後――


 「やった……俺がやった……!」


 ギャリソンが剣を構えたまま、その場にへたりこむ。手の甲の聖印がまだじんわりと赤く光り、震える肩が勝利の余韻を語っていた。


 「倒したぞおおおおお!!」


 歓喜の絶叫が森に響き渡り、やや遅れて警備団の声も重なる。


 「やった! 本当に倒したぞ!」

 「生きてる! みんな生きてるぞ!」


 安堵と歓喜が一気に爆発する中、カナリアはちらりとノアを見て、そっと息をついた。


 ロイドが、少し離れた林の端から片手を上げていた。

 彼は負傷していたようで、仲間の警備団員に肩を貸されながら、足を引きずるようにして歩いてくる。


 「無事だよー!」


 その声に、カナリアはホッと息をつく。


 「……よかった」


 間もなく、警備団の隊長が声を張り上げる。


 「動ける者は救助にあたれ! 負傷者の確認を急げ! 全員の生存を確認するんだ!」


 生き残った団員たちが次々に動き出す中、カナリアとノアは一緒に歩きながら、剣を突き立てたまま座り込んでいるギャリソンに声をかけた。


 「おじさん、やるじゃん! まさかほんとに倒すとはね!」


 「すごかったよ!」


 ギャリソンは肩でぜぇぜぇと荒い息をつきながらうなだれていたが――

 その声が耳に届いた瞬間、ピタリと動きを止めた。


 そして、ゆっくりと顔を上げ、背筋を伸ばし、胸を張る。

 まるで最初から堂々としていたかのような態度に変わっていた。


 「ふん……当然だ。今日はちょっと調子が悪くて、少し手こずったが――こんなもんだな」


 妙にキメ顔で言い放つ姿に、カナリアは内心でツッコミを入れずにはいられない。


 (にしても……“絶崩天獄炎突”って、技名中二病すぎない?)


すると隣のノアが、ふと思い出したように叫ぶ。


 「姉さん! そろそろ戻らないと、剣の先生来ちゃうよ!?」


 「あっ、そうだった……もう帰っちゃったかも!」


 ばたばたと騒ぎ始めた双子を見て、ギャリソンが不思議そうに眉を寄せる。


 「……剣の先生?」


 そして、ふと真顔になり、信じられないように問いかけた。


 「お前ら……もしかして、“刀神”と“剣神”の《聖印》を持つ、あの双子か?」


 「え? おじさん、なんで知ってるの?」


 ギャリソンの顔から、見る見る血の気が引いていく。


 (じょ、冗談じゃねえぇぇぇ! こんなバケモンたちの指導なんてできるかぁぁぁぁっ!!)


ギャリソンは、なおも堂々と胸を張ったまま、急に何かを思い出したように咳払いをした。


 「じ、実はだな……その剣の先生と、俺は知り合いでな!」


 カナリアとノアが同時に「えっ?」と首を傾げる。


 「そ、そうそう。今日はちょっと先生が来られなくなったらしくてな。で、偶然にも――この村に用事があった俺が! 代わりに伝えに来たってわけさ!」


 どこか焦ったように眉を引きつらせながらも、ギャリソンは早口で言い切った。

 そして照れ隠しなのか、腕を組んでやけに大きな声で笑い出す。


 「ま、まぁ! 俺から見ても、もうお前らには指導なんかいらないくらい成長してるって! そいつに、ちゃんと伝えておいてやるよ!」


 そして――


 「ガッハッハッハッ!」


 やや不自然なほどに響き渡る豪快な笑い声が、森にこだました。


 (……おじさん、なんか隠してない?)


 カナリアは呆れたように、でもどこか微笑ましそうにギャリソンを見つめていた。


 「と、とにかく俺はもう行かなくてはならんのだ!」


 ギャリソンはやたら慌ただしく肩掛けバッグを直すと、近くの警備団員に振り返って叫んだ。


 「そこの君! 俺の帰り道に同行してくれ! 道中の安全確認も兼ねてな!」


 「えっ、は、はいっ!? え、俺ですか!?」


 戸惑う団員の返事を聞くよりも早く、ギャリソンはくるりと背を向け、全力で歩き出した。

 歩幅はやたらと大きく、やがて早足、ついには小走りに。


 「じゃあな! 任せたぞ!」


 その背中からは、全力でその場を後にしたい気配がにじみ出ていた。


 (結局あのおじさんが何者なのか、よくわかんなかった)


 カナリアが呆れ顔でぽつりとつぶやき、ノアがこくりと頷いた。


 警備団の隊長が、剥がれ落ちた装甲と死骸を見下ろしながら、低く呟いた。


「……間違いない。こいつは――**“山砕きのゴルガンド”**だ」


 カナリアは、その名にぴくりと眉を動かす。


(……二つ名付き。ネームドモンスター……!

 どおりで、今までの魔獣よりも格が違ったわけだ)


 隊長は眉間に深い皺を刻み、岩犀の異様な状態を見回した。


「……ありえん」


隊長は死体を見下ろし、苦々しげに眉をひそめた。

「山の頂上付近でしか姿を見せないはずの魔獣だ。それも、余程のことがなければ人に牙を剥かない」

「一体、何が起きている……?」


その頃――。


 遥か遠く、ゴルガンドの縄張りである山の頂き付近。


空はまだ青く晴れているはずだった。

 しかし、頂のさらに上空――

 雷雲とも違う、不気味な黒いもやが、まるで意思を持つかのようにうごめき、広がり始めていた。

よろしければ、ブックマークか☆のポイント評価で応援いただけたら嬉しいです!

読者の皆様の反応が私の活力源です!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさかの家庭教師キャンセルをしたギャリソン……。 (´・ω:;.:... せっかく見せ場を貰ったのにw (´ε`) にしてもネームドですか。 何やら変化が起こっている? (´・ω・`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ