第205話 謁見、決裂、連れ去られし勇者候補
主要な登場人物のザックリ紹介
カナリア(主人公で転生者 双子の弟ノアがいる。基本カナリア視点で物語は進みます)
ノア(全属性の勇者候補筆頭 双子の姉のカナリアがいる)
ライゼル将軍(帝国最強の剣士で将軍 ノアの剣の師匠)
カイロス皇帝(帝国観光中のカナリアとノアを呼びつける)
ディートリヒ(帝国のお偉いさんの専属警備副隊長)
ザルカス(帝国の特使で偉いけど小物キャラ)
ルーダ(帝国の一級転移師の女魔法使い)
「え、どういうことですか!? 父さんが……父さんが何かしたんですか!?」
思わず声を上げたノアに、謁見の間の視線が一斉に集まる。
だが、皇帝は眉一つ動かさなかった。まるで最初から想定の内だと言わんばかりに。
ガゴン、と重い音を立てて、背後の大扉が閉じられる。
(閉じ込められた!?)
「ノアと言ったな。全属性が宿ると聞いてまさかとは思ったが……なるほど合点がいった。お前にも来てもらう必要がある」
皇帝のその一言で、胸の奥が嫌な音を立てて沈む。
(なに、なに……一体何……? 理由はわからないけど、これ、絶対まずいやつじゃない!?)
今までの経験と直感が全力で警鐘を鳴らしていた。
この場に、この流れのまま乗っていたら、絶対に取り返しがつかなくなる。
まさかライゼル将軍もグル!?……いや、違う。今日までの彼とノアの師弟の日々が、そんな疑念を即座に否定した。
そう思うと同時に、言葉が口をついて出ていた。
「ライゼルさん! どうすれば――!」
彼を信じて叫ぶと、将軍は一瞬だけ歯を食いしばり、すぐに決断した。
「――ぬうっ。ノア、カナリア。私の後ろへ!」
雷の魔力を纏い、一歩前に出るライゼル。その背は、私たちを守る盾そのものだった。
そして、皇帝に向かって深く一礼する。
「陛下。どうか、少しお時間をお与えください」
それは自身の王に敬意を示した、はっきりとした声だった。
「この者たちは賢者ギルバートとの正式な取り決めにより、帝都への滞在は一日限りと定められております。それを越えて拘束、あるいは謀反の疑いとして扱われれば――」
言葉を区切り、視線をまっすぐ皇帝に向ける。
「ギリス公国、ひいては星セレスティア聖教国との関係に、不要な火種を生むことになりかねません」
将軍の言葉に、謁見の間が張り詰めた沈黙が落ちた。
(……ライゼルさん、本気だ。これって皇帝にたてついてるって事でしょ? 反逆者扱いされるのを覚悟で、私たちのことを……!)
冗談でも牽制でもない。
これは“帝国と世界情勢”を天秤にかけた発言だ。
「ライゼル将軍、貴殿は正気か!? カイロス皇帝の命に背くつもりか!?」
すかさずザルカス特使がライゼル将軍の立場を追及する。
皇帝カイロスは、その様子を片目の奥でじっと見据えていた。
そして、目で合図を贈った次の瞬間だった。
まるでその一瞬を待っていたかのように、ディートリヒが一切の躊躇なく剣を抜き、凄まじい踏み込みでライゼル将軍へと突っ込んだ。
「――っ!」
ガギンっ!
反射的にライゼルも剣を抜き、真正面からそれを受け止めた。
甲高い金属音とともに火花が散り、二振りの剣が噛み合ったまま止まる。
「ディートリヒ……貴様……!」
押し合う力は互角。
だが、ディートリヒの眼には一切の私情がなかった。
「ライゼル閣下。剣を収め、勇者候補二名をお引き渡しください。あなたはこの国の英雄だ。今この場にいるのは全て私の部下――反逆の罪には問われませぬ」
今の自分ではどうしようもない状況に、思わず私は奥歯を噛みしめる。
(あーっもう! 刀さえあれば!)
私もノアも、今は丸腰だ。
武器さえあれば、ほんの一瞬でも援護できたのに――!
そのときだった。
ノアの全身から、抑えきれないほどの魔力が噴き上がり始めた。
「先生! 僕も助太刀します!」
その光景を見た私は、思わず目を見開いて叫んだ。
「馬鹿ノアっ!!」
気持ちはわかる。わかるけど、それだけは、やっちゃだめだ。
「腕輪をつけたまま魔法なんて使ったら――!」
ウィィィィィィィィン!
遮るように、甲高い警告音が王城中に鳴り響いた。
床下から、壁の奥から、城そのものが警鐘を上げる。
外が、ざわつき始める。
人の気配、足音、重装備の気配が、この部屋に迫ってくる。
(最悪だ……! 中だけじゃない、外まで囲まれる!)
王城防衛機構が完全に反応した証拠だった。
ここから先は、もはや「謁見」でも「交渉」でもなくなってしまった。
警告音が鳴り響く中、皇帝カイロスは片目の奥をわずかに歪めた。
その表情は怒りでも焦りでもない。――純粋に厄介事を前にした、為政者の顔だった。
「……帝国評議会に、この件を感づかれるのは面倒なことになりそうだな」
その低い呟きに、ザルカスが血相を変える。
「へ、陛下!? ゆ、勇者候補の拘束は……まさか、評議会の事前承認を取り付けていなかったのですか!?」
慌てふためくザルカスをカイロスは視線だけで彼を見た。
それだけで、空気が一段冷える。
「緊急の案件だ。先ほど私が拘束を決断したのだ。評議会の開催など、間に合うわけがなかろう」
短く言い切り、続ける。
「……お前ももう関係者だ。口を滑らせれば、どうなるか――わかっているな? ザルカス」
「は、はいいいっ!」
返事と同時に、ザルカスの背中がわかりやすく強張った。
さっきまでの自信満々な態度は、どこにも残っていない。完全に巻き込まれた顔だ。
シュル……ギュルルルルッ!
「うわっ!? なに、これ!」
ノアの腕輪から伸びた漆黒の魔糸が、一瞬で締め上げた。 自由を奪われたノアは抵抗する間もなく、床へと崩れ落ちる。
「が……はっ、ほどけ……ない」
声を出すことすらままならない。 魔力を練ろうとするたび、腕輪が脈打ち、体を握りつぶされるような痛みがノアを襲っている。
(……そうだった。この腕輪……無理に外そうとしたり、想定以上の魔力を使ったら、拘束が発動するって……)
助太刀するどころか、身動き一つ取れず、ノアはただ床に転がって師匠の背中を見上げることしかできなかった。
「ノア!」
私は反射的に魔糸へ手を伸ばし、それを引きちぎろうとした。
だが、私の力でもびくともしない。かえって力の反動で魔糸はノアの肉体に食い込むだけだった。
(私の力じゃ、届かない! 刀さえ、私の刀さえあればこんな糸……!)
無力な自分への怒りと、弟が目の前で「モノ」のように扱われている現実。視界が怒りと焦りで冷静さを失いかけていた。
しかしその直後、耳を刺すような鋭い金属音が響く。
視線を向けた先では、もはや人間業とは思えない速度で、ライゼル将軍とディートリヒの斬撃が火花を散らしている。
(ライゼルさんだけが、戦ってる……。私たちは、今、彼を頼りにするほかない。)
万が一の場合には、黒雪をつかって私とノアだけは、脱出できる。でも、私達のために戦う将軍を一人置いてはいけない。
様々な不安が私の脳裏をかすめる中、聞こえてきたのはライゼル将軍の頼もしい声だった。
「もう、へばってきたのか?」
低く、余裕のある声。
「それで王族特別警護隊の副隊長を名乗ろうとは、少々荷が重いのではないか?」
次の瞬間、ライゼル将軍の凄まじい斬撃が、防御の上から叩き込まれた。
ディートリヒの身体が吹き飛び、壁へと激突する。
石造りの壁面に、大きなひびが走った。
「ぐはっ……!」
床に膝をついたディートリヒが、口元から血を吐く。
「雷の反対属性を持つ……私の土属性の魔剣技をもってしても……手も足も出ぬとは……」
苦しげに、しかしどこか感嘆を含んだ笑みを浮かべる。
「……さすがですな、ライゼル将軍」
最初は互角に見えた剣戟。
だが今や、勝負は完全に傾いていた。
その光景に、謁見の間の衛兵たちが一斉に構え、ライゼル将軍へと近づく。
「ライゼル将軍! 剣をお納めください! でなければ――」
だが一歩踏み出した瞬間、雷の魔力を全身に纏ったライゼルが、剣を垂らしながらゆっくりと振り返った。
「でなければ何だ? 次は、お前たちが相手になるのか?」
眼に雷を宿した、その一言だけで十分だった。
衛兵たちは恐怖に震え、その場に釘付けになる。
足がすくみ、誰一人として前に出られなかった。
(ライゼル将軍、かっこいいいいい……! 敵だったら死ぬほど嫌だけど、味方だとこれ以上なく心強いってこの人!)
圧倒的な武力を前に、情けない声が壇上から割り込んできた。
「ラ、ライゼル将軍! 謁見の間で覇剣エルライザーを抜くなど――国家反逆罪だぞ!」
ザルカスがそう叫ぶが、足はがくがくと震え、声も完全に裏返っている。
ライゼルは視線すら向けず、淡々と言い返した。
「私は、向かってきた刃を退けただけのこと。皇帝に剣を向けるつもりは毛頭ない」
雷の気配を纏ったまま、一歩も引かない。
「だが、私がいる限り、力でこの場を支配することはできませぬぞ。カイロス陛下」
その言葉と同時に、大扉の向こうが一気に騒がしくなる。
「陛下! ご無事ですか!?」
「内側の門番は何をしている、早く開けろ!」
「議長に連絡しろ! 強制解除の魔法を使える術士を呼べ!」
完全に、外の世界が異変に気づき、騒動へと発展していた。
壁に凭れたディートリヒが、口元の血を拭いながら、低く進言する。
「……陛下。間もなく時間切れです。外の衛兵たちまでは口止めできません。それに私では、もはやライゼル将軍を足止めできない。どうか、ご決断を」
その一言で、皇帝カイロスはゆっくりと立ち上がった。
そして手元のグラスを掴むと、残っていたワインを一息に飲み干し放り投げる。
――ガシャン!
「外には口うるさい議会連中の影……」
低く、苦々しく笑う。
「そして、さすがの私も、ライゼル将軍相手では骨が折れるな。――こちら側の詰み、か」
(……よし)
胸の奥で、小さく拳を握る。
皇帝側にも、無視できない制約がある。そう理解した。
(なんだか、よくわかんないけど……皇帝側も都合が悪そう。このまま、なんとか――!)
淡い期待を込めて視線を送ると、皇帝は「すぅぅぅ……」と深く息を吸い込んでいた。
そして腹の底から、空気を震わせるように叫ぶ。
「――ルーダ!!」
その名が謁見の間に響いた、まさにその瞬間だった。
天井付近の空間がぐにゃりと歪み、青白い光が円を描いて転移陣を形成する。
次の瞬間、そこから一人の女魔法使いが、突如として姿を現した。
「仰せのままに……カイロス皇帝陛下」
瞼を伏せたまま、感情の読めない静かな声。
(――あの人!)
一瞬で思い出す。
王城の入口で、私たちを転移させた、あの魔法使いだ。
その存在に、真っ先に反応したのはライゼル将軍だった。
一瞬で状況を理解したその顔には、はっきりと焦りが浮かぶ。
「ルーダ……! まずいっ!」
その警告が届くより、ほんの一瞬早く。
謁見の間の床一面に、青い光が走った。
複雑な紋様が幾重にも重なり、まるで床そのものが発光しているかのように、私たち全員の足元へ同時に転移陣が展開する。
光は引き裂くように輝きを増し、空間を歪ませていく。
その刹那、響くは轟雷。
雷鳴と見紛う炸裂音とともに、ライゼル将軍の姿が掻き消えた。
発動したのは、魔術師殺し。
相手の魔法発動を前提に組み上げられた、魔術師を殺すためだけの初動。
思考より早く、詠唱より速く、ただ「戦闘不能」にするための雷の術式。
(ライゼル将軍、そこまでやる!?)
一直線に走った雷光は、迷いなくルーダの喉元を捉える。
――だが。
ルーダの転移陣が、それより僅かに早く完成した。
刃がその白い首に触れる、その寸前。
ライゼル将軍を包む空間そのものが歪み、折り畳まれるようにして、その身体が光の彼方へと飛ばされていく。
「先生!」
ノアが叫ぶ。
だが、もうそこにライゼル将軍の姿はない。
残されたのは、転移魔法の光の欠片だけだった。
その後を追うように、私たち全員の足元の転移陣が、さらに強く輝きを増していく。
「ノア!」
「姉さん!」
反射的に、お互いが必死で手を伸ばす。
叫び声が重なり、指先が触れ合いそうになった――その瞬間。
光が、その場にいたすべての人間を呑み込んだ。
意識は上下も距離もわからなくなり、身体が投げ出される感覚だけが残り、どこかへ飛ばせていくのだけは分かった。
◇――
ドン!!
遅れて、謁見の間の大扉が外側から叩き破られた。
砕けた木片と石片を蹴散らしながら、警備兵たちがなだれ込んでくる。
「陛下! ご無事ですか!」
「賊はどこへ行った!?」
怒号と足音が響き渡る中、彼らが目にしたのは――
誰一人として残っていない、もぬけの殻の謁見の間だった。
剣戟の熱も、人の気配もすでに消え失せ、ただ青い光の残滓だけが、ゆっくりと空間に溶けていく。
そこには、静寂だけが残されていた。
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