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第204話 戦王の玉座

主要な登場人物のザックリ紹介


カナリア(主人公で転生者 双子の弟ノアがいる)

ノア(全属性持ちで勇者候補筆頭 双子の姉のカナリアがいる)

ライゼル将軍(帝国最強の剣士で将軍 ノアの剣の師匠)


ディートリヒ(帝国のお偉いさんの専属警備副隊長)

カイロス皇帝(帝国で一番偉い人。帝国観光中のカナリアとノアを呼びつける)

ザルカス(帝国の特使で結構偉いはずなのだが、いかんせん小物キャラ。)


父さん=エルド=ユリウス(主人公達の父親でカイロス皇帝の血を引いていた事が判明)

 ◆――レグナント王城 謁見十数分間前


「城内を案内するつもりではいたが……それは軍事区画、第二層までの話だ。まさか一層の王城本体まで来ることになるとは」


 ライゼル将軍は、さすがに予想外だったと言いたげに肩をすくめた。

 私も口を合わせるように、小さく溜息をもらす。


「それも、皇帝陛下との謁見なんて……」


「先生、皇帝ってどんな人なんですか?」


 ノアの問いに、ライゼルは少しだけ考えてから答えた。


「一言で言うなら……型破りなお方だ。一般の器だと思わぬことだな」


(……型破りなライゼルさんがそう言うんだから、相当ですね)


「ライゼルさん……あの、客間なのに、どうして警備の人たちがいるんです?」


 私が声を落として尋ねると、ノアも同じように小さな声で続けた。


「……僕たち、歓迎されてないんですかね?」


「それはないだろ。だとすれば、会おうと思わぬはずだ」


 ライゼル将軍は即座に否定した。確かに言う通りだ。

 会いたいということは、少なくとも好意的な興味はあると見ていい。


「ただ……急に、お前たちに会うことになった。そのきっかけだけは、少し気がかりだがな」


 そのとき、客間の扉を叩く音が静かに響いた。


「ライゼル将軍閣下。失礼いたします」


 ――ガチャリ


 扉の向こうに立っていたのは、三十代半ばほどの男だった。


 細身だが無駄のない体躯。銀髪を低く束ね、切れ長の瞳は感情を映さない。

 眉間には、現場に立ってきた者と分かる薄い古傷。

 紅と黒を基調とした王族警護の正装に、極端に短いマント。腰には剣が一本だけ下げられている。


 その男が歩み出しても、床は一切音を立てなかった。


「……ディートリヒか」


 ライゼルが低く名を呼んだ瞬間、室内の空気がわずかに張りつめた。

 雷が遠くで鳴る前触れのような、苛立った気配を、ライゼルは纏わせた。


「王族警護特務隊の副隊長が、わざわざ出迎えとはな」


 ライゼル将軍は、立ちふさがるように一歩前に出た。


「私が二人を皇帝陛下のもとへお連れするのでは……不満か?」


(……この人も、相当な手練れだね。ノアも、きっと感じ取ってる。それにしても――その相手に、正面から凄むライゼル将軍。頼もしすぎでしょ)


「ライゼル閣下。ご無礼をお許しください」


 ディートリヒは一切感情を乗せず、淡々と続けた。


「このような事態は、異例中の異例。我々としても、どう対応すべきか判断に迷いました。お客人をお迎えするにあたり、失礼のないよう――私が来ただけのこと。他意はございません」


 その言葉に、ライゼルの纏っていた苛立ちが、わずかに緩む。


「ふむ。では、謁見の準備が整ったのだな」


「はい。陛下がお待ちです。ライゼル将軍。そしてカナリア殿、ノア殿。私についてきてください」


 その一歩を踏み出す前に、ライゼルが私たちに振り返った。


「お前たち、心配はいらないとは思うが……陛下の前では礼を欠くな。絶対にだ」


「「はい!」」


 私とノアは、思わず声を揃えて返事をした。


 こっちとしたら、皇帝陛下なんてお偉いさんなんて、関わりたくないくらいだ。

 下手をすれば国家間の外交問題になりかねない。余計なことをする考えなんて、毛頭ございません。


 触らぬ権威に祟りなし。

 借りてきた猫ばりに、大人しくしておきます。


 その直後、ディートリヒが一歩だけ近づき、声を落とした。


「……閣下。本人からは口止めされておりましたが、お伝えしておきます。書状に名のあった特使も、同席するとのことです」


 その言葉に、ライゼルは露骨に渋い顔をした。


「……ザルカスも来ているのか」


 ライゼルは、いかにも嫌そうに眉をひそめる。


「まったく……こういう“いてほしくない時”に限って、必ず姿を見せる厄介な男だな」


 一通りのレクチャーを終えたのち、私たちは部屋を出た。

 長い廊下を抜けた先に、一段と大きな扉が現れる。


「中に入ったら、そのまま奥まで進め。そして跪く。最初の挨拶は、お前たちからだ」


 有無を言わせぬ口調で、ライゼルが告げた。


 次の瞬間、ディートリヒが一歩前に出る。「開けます」そう一言だけ告げ、重厚な扉に手をかざした。


「ライゼル将軍閣下、ならびにギリス公国の勇者候補二名をお連れしました」


 扉が開かれ、私たちは謁見の間へと足を踏み入れた。


 広い空間の奥、玉座に一人の人物が座している。

 だが、いわゆるファンタジー世界の“王様”の姿を想像していた私は、次の瞬間、完全に面食らった。


 片目には眼帯。年は六十を超えているはずなのに、身体は筋骨隆々で、隙のない佇まい。

 厳しい顔つきだが、不思議と老いは感じさせず、むしろ今なお戦いの最前線に立っていそうな迫力がある。


 王冠も豪奢なものではなく、額を守るための実用的な造りで、鼻の下には整えられた髭が威厳を感じさせる。

 赤と黒、そして金を基調とした装束は礼装のはずなのに、どこか戦装束にも見えた。


 玉座に座っているというのに、まるで戦場の中心に立っているかのようだった。


(……うお。恰幅のいい王様っていうより、武闘派の“戦王”って感じだ)


「ねえさん……なんか、皇帝陛下。見た目、思ってたのと違くない?」


 ノアが小声でそう囁いた瞬間、


「しっ。聞こえるよ! 静かに」


 私は人差し指を口にあてて、即座に制した。

 同時に、前を行くライゼル将軍が振り返り、目だけで「黙れ」と訴えてきたのが、嫌でも分かった。


 皇帝陛下の前まで進み、私たちは足を止める。


(……ええと、確か挨拶だよね。ここは姉らしく、私からいきます!)


「本日はお招きにあずかり光栄です。ギリス公国より参りました、カナリア・グレンハーストです」


「同じく、双子の弟のノア・グレンハーストです」


 そう名乗った、その直後だった。


 皇帝の傍らに立っていた一人の男が、胸の前に手を突き出すようにして、声を張り上げた。


「ギリス公国勇者候補の二人よ!」


 やけに自信に満ちた、そして正直言って、なんとも鼻につく声が、謁見の間に響き渡る。


「今日こうして皇帝陛下の御前を許されたこと、末代までの家宝とする栄誉を与えてやろう!」


(……あ、こいつウザっ。最初にちゃんと皇帝陛下に感謝申し上げましたけど? というか、あんた誰よ)


 そんなこちらの内心などお構いなしに、男はさらに声を張り上げる。


「私が誰か気になる様子だな! 私は、レグナント帝国代表の特使――ザルカス・ブラストレイズ! 世界の指導者たちの橋渡しの要と呼ばれているのは、お前たちも知っているところであろう!?」


(あああああ! 初耳ですが!? あたしの中のツッコミセンサーが全力で「突っ込め!」って警報鳴らしているうぅぅ!……いや待て、落ち着けカナリア。冷静になるんだ。ここで突っ込んだら絶対に面倒なやつだ。そう、スルーだ。全力でスルーしよう。)


「ザルカス。陛下の御前だ。慎め」


 ライゼル将軍の低い一声に、場の空気が一瞬で引き締まった。


「ぐ……ぬぬ。ライゼル将軍め……」


(おっしゃ! ライゼル将軍、ありがとうございます! ほんのちょっとだけ、胸のつかえが取れました!)


 ザルカスは露骨に悔しそうな顔をしたが、すぐに取り繕う。


「――陛下、失礼いたしました。レグナント帝国の威厳を示したく、つい……」


 皇帝はそれに対し、「ふむ」と短く応じただけだった。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「面を上げよ。ギリスの勇者候補二名、その英傑たちよ。我が、当代皇帝カイロス・アルカーナ・レグナントである」


(カイロス皇帝、ね、しっかり憶えさえてもらいましたよ。っと)


 名前も見た目も相まって、まさに“皇帝”という呼び名にふさわしい人物だった。

 ただ玉座に座っているだけの存在じゃない。

 場を支配する重さと、背筋が自然と伸びるようなカリスマ性がある。


(それに……すごい)


 放たれている闘気の密度が、桁違いだ。

 少なくとも王という立場に胡坐をかいて、戦いを退いた人間じゃないのがすぐに理解わかった。

 今この場で戦えと言われても、最前線に立てる――そんな確信を抱かせる“現役”の気配。


「まずは、賢者からの書状だが既に読ませてもらった」


 皇帝はそう言って、視線をライゼルへと向ける。


「あのギルバートが、わが帝国に感謝状を寄越すとはな。……ライゼル、上手く指導しているようだな」


「はっ。もったいなきお言葉」


「そして、ザルカス」


 名を呼ばれた瞬間、ザルカスの背筋がびくりと跳ねた。


「当初は、将軍であるライゼルを帝国領土から離す上に……ギリスの勇者候補を鍛えると聞いたとき、耳を疑ったぞ?」


「へっ!? あ、あの、それはですね……。帝国も女神の民である以上、多国との協力関係を示す必要がありまして……」


「フッ」


 皇帝は短く笑い、ザルカスの言葉を遮る。


「そう焦るな。まぁ最後まで聞け」


 その一言で、謁見の間の空気が静まり返った。


「――お前のおかげで、長年探していたものが見つかった。褒めているのだ、ザルカス」


(……探してた、もの?)


 私はその発言に思わず、ノアの横顔を盗み見る。


(ライゼル将軍がノアに指導したことと、何の関係があるの?)


 胸の奥に、嫌な予感とも、期待ともつかないざわめきが広がっていく。


「あ、ありがとうございます! カイロス皇帝陛下!」


 ザルカスは即座に声を張り上げた。


「何か褒美をやろう。何が欲しい?」


「な、なにもいりません! 私はただ、レグナント帝国の名声と栄光さえ各国に響けばと思い――」


「ザルカス……我に、二度言わせるつもりか?」


 皇帝の低い声が、床に落ちた、その瞬間だった。


 私の刀神の動体視力でも、ザルカスの動きが追えなかった。

 気づいた時には、ザルカスはすでに床に額を打ちつけ、完璧を通り越して美しすぎる角度と姿勢で、土下座を完成させていた。


「そ、そういうことであれば! 次期帝国評議員選出の際には、ぜひとも陛下の公認推薦をいただきたく存じます!!」


(速いっ……! なんという所作のスピード)


 思わず心の中で感嘆してしまう。


(私でなければ見逃してたね、今の土下座。……いやいや、それはさておき、長いものに巻かれる姿勢が、徹底しすぎでしょ。この人)


 謁見の間に漂う厳粛な空気の中、一人だけ別ベクトルで全力を尽くす特使の姿に、私はそっと視線を逸らした。


 カイロス皇帝は、床に伏したままのザルカスを見やると、口の端だけをわずかに吊り上げた。


「ザルカスよ。その野心、私は嫌いではない。己の欲を隠さず、力に変えようとする――その姿勢こそが、レグナント人だ」


 謁見の間に、重く、しかし確かな激励がザルカスに落ちた。


「覚えておけ。野心なき者に、帝国の未来は託せぬ」


(……確かに、ここまで徹底して長いものに巻かれる精神力は並じゃないね)


 そう思った瞬間、床に伏したままのザルカスの背中が、嬉しさのあまり分かりやすくぷるぷると震えているのが見えた。


「さて……本題に入る。ギリスの勇者候補、二人よ。お前たちを呼び出したのは、ほかでもない。これに、見覚えはあるか?」


 そう告げると、皇帝は一つの箱を示した。

 長細く、装飾のない素朴な木箱だ。


 合図を受けた側近が蓋を開ける。

 中から現れたのは、一本のフルートと、淡く光を帯びた風の魔石だった。


「いえ……私は身に覚えが――」


 そう答えかけた、その時だった。


「姉さん。あの箱……見て。父さんの彫刻だ」


 ノアの低い声に、思わず箱へ視線を戻す。

 確かに、側面に刻まれている。見慣れた木工師の癖。父が仕事の最後に、必ず残す刻印だ。


(そういえば……出発する前に、“帝国側に渡すものがある”って言ってたっけ。あれか)


 でも、なぜそれを、皇帝が?

 そう思ったが、答えは分からない。素直に答えるしかなかった。


「えっと……中身自体に覚えはありません。ただ、父の刻印があります。父が持ち込んだものかと」


 そのやり取りに、横で今まで黙って控えていたライゼル将軍が、思わず声を漏らす。


「陛下……一体、これは――」


「将軍は口を出すな」


 短い一言。だが、その場の空気が目に見えて張りつめた。緊張が場を支配する。


「……ディートリヒ」


 名を呼ばれ、王族警護特務隊副隊長が一歩前へ出る。

 彼が差し出したのは、私たちの入国時の記録晶だった。


 映し出された映像を、皇帝は目で示す。


「この男が、お前たちの親か?」


「はい……父です」


 その答えを聞いた瞬間、皇帝の片目が細められた。

 次の瞬間、口元がわずかにニヤリ、と歪む。


「ディートリヒ。この男の出国の記録は?」


「ありません。現在も帝都のどこかに滞在中かと存じます」


「――よし」


 皇帝は、玉座から身を起こした。

 その存在感だけで、謁見の間の空気が押し下げられる。


「皇帝の名、カイロス・アルカーナ・レグナントをもって命ずる。陸路、空路、すべて封鎖せよ。この男を、探し出せ!」


 その一言に、ライゼル将軍が息を呑み、私とノアは同時にバッっと顔を上げた。


(……待って、待って!? 待って!!)


 皇帝に目をつけられるなんて、父さん……何をしたの?

 それに、今どこにいるのよ――!?

最後までよんでいただきありがとうございます!


誤字脱字修正ありがとうございます!


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