第1話 転生中に頭ぶつけて全部わすれた件
薄れゆく意識の中で、痛みだけが確かな感覚として体に訴えかけてくる。
「痛ったぁ……」
口に出そうとしたけど、喉から声さえ出てこない。
あー、これダメなやつだ。助からないな。喉が焼けるように乾いていて、声すら出せない。
……でも、最後にみんなを守って逝けるなら、それなりに立派な最後……だよね?
あれ……? なんか視点が高い。
見下ろすと、ぐったり倒れてる自分の身体がある。
(えっ、ちょっと待って……これ、もしかしなくても幽体離脱ってやつ!?)
混乱して横を見たら――ふわっと現れた可愛らしい天使様が、私の魂をズルズルと引っ張っているではないか。
(悪魔じゃなくて天使ってことは……これ、天国行き確定!?いや~、やっぱ日頃の行いって大事!)
……まあ、こうなったら仕方ないよね。
天使ちゃん、せいぜい丁重に運んでおくれ……。
私は心の中でそう呟きながら、ゆっくりと覚悟を決めていった。
――そのときだった。
暗闇の視界の奥の奥に、ひときわ強く光る"ゲート"のようなものが見えた。
目を凝らすと、その向こうには――噴水のある輝くような庭園、ふわふわの雲、そして……この世の者とは思えないほど美しい女性が、手を招いている。
(庭園……女神……え、これ……これって、まさか……あれだ!)
異世界転生フラグ来っちゃあああああ!!!
死のショック? そんなのより私の心を支配したのは、これから始まる第2の人生での煩悩まみれの人生計画だった。
チートスキルでやりたい放題! 万能スキルでスローライフ! 前世の知識で裏切り者をざまぁ展開!
魂だけの状態の私、もうテンション爆上がり!
慌てて止めようとする天使の手を振り切って、私は両手を広げた。
「さあこい異世界っ! さあ輝け、私の異世界生活!!」
プールの高飛び込みスタイルで、光のゲートへ一直線にダイブ!
その瞬間、肉体はふっと溶けて、淡く輝く光の玉になって――私は空へ、異世界の空へと弾き出された。
(よしよし! これはもう、主人公演出確定!)
きっとこれから始まるんだ。夢と希望にあふれたファンタジー世界で、万能スキルで無双して、美男美女や仲間とワイワイして運命の中で大切な何かを守って……私、感動して泣いちゃうかもしれない……!
そんな物語の中心に立つのは、もちろん! わたくしこと、宮野――
……と思ったのも束の間。
(……ん? これ、落ちてね? いやいや待って! 落下してるんですけど!?!? てか体がないから、受け身とれない! てか肉体があったら、今からぺっちゃんこ案件!!)
――そのとき。
バサッ
視界の端を、巨大な神鳥がかすめて飛んでいった。
その風圧で、私の魂はさらに加速。
(ちょ、今のでスピード上がったんですけど!?)
ぐんぐん落ちていく。地面が見えてきた、ヤバい!
(え? なんか下に白いモフモフが見える……!?)
ダメ! ぶつかる――!!
ドゴォオオオオオオオッ!!!
「痛ったああああああい!!!???」
強烈に走る魂への衝撃。今、なにかに全力でぶつかったんですけど!?
てか魂だけでも痛覚あるのこれ!?
耳鳴りがキンキン響いて、視界もぐらつく中、何が起こったのか周りを確認する。
ふと目線を落とすと、隣で、ふわふわした白い狼が頭に星を飛ばして目を回しながら気絶している。
(あっ、この子とぶつかったの……? ご、ごめん……)
魂と一匹が倒れ込んでいると、神々しい女性が心配そうな顔で近寄ってくる。
なんとか身体を起こし、振り返る私。
あなたは……誰? てか、私……誰……?
血の気が引いてゾワッとする。自分のことがまるで思い出せない。
「……大■夫で■か? お■我はあ■■■んか?」
女性の口が動いた。けど――なに言ってるか全然わかんない。
耳鳴りが、まだキイイイィィンって鳴って鳴りやまない。
「無理や■この■■へ連れ■■て■まっ■■■んな■い。でも、■■■には貴■に■■できない、■切な■■がある■■す」
――美しい人。……女神様みたい。てか女神。まごうことなき女神。
神聖な装束と美しい銀の髪、そして慈愛の微笑み。そして明らかにすべての状況を把握しているような眼差し。
人間離れしたその存在に、すこしだけ冷静さを取り戻してきた。あ、そうだ――たしか死んで、転生して……この世界に来たんだっけ?それは覚えてる。
……あれ? でも、なんで死んだんだっけ??
ていうか、名前も思い出せないんだけど!?
「こ■ほ■■■は、■きな■■がせ■って■。あな■の《■■》のちか■で、この■■を」
(……ん!?なんかめっちゃ大事なこと言ってない!?)
意識が揺れてる。音もおかしい。なにも入ってこない。
でも、その中でも――かろうじて、最後の一言だけがはっきり聞こえてしまった。
「――それでは世界を、頼みましたよ」
「え、ちょっと待って!!」
叫んだ、その瞬間。
女神がふわりと手を上げて、ひと言。
「サルフェン」
呼ばれた白狼が、ピクッと反応。
うっすら目を開け、ぶるぶるっと頭を振った。
「アオォォォォン!!」
遠吠えとともに、突然ふわっと私の身体が浮き上がる。
「ちょっ……! チートスキルは!? 万能加護は!?せめて記憶だけでも戻してぇぇぇぇぇ!!!」
そのまま私の魂は、ぐるんと旋回して――
異世界の空へと、光の雫となって落ちていった。
――そして私は、全部忘れたまま、この世界に転生することになる。
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