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第2話 消えた騎士団と導きの賢者

雰囲気大分違うけど同じ作品です!

 

 月明かりが差し込む、崩れかけた古城の広間。


 石畳には無数の亡骸が横たわり、血の匂いが重く空気に沈んでいた。


 その中心に、一人の男が膝をついていた。


「……遅かったか」


 騎士たちの亡骸に手を添え、目を閉じる。

 それは哀悼ではなく、静かな諦めの祈りだった。


 男の名は――ギルバート・ピアソン。

 知と力を兼ね備えた導きの賢者。

 だが今は、ただ“ひとり残された者”でしかなかった。


 その時空気が震え、空間が歪む。


「――《ヴォイド・スピア》」


 紫電を帯びた三本の魔槍が、上空からギルバートを貫かんと迫る。

 彼は一瞬で属性の揺らぎを察知し、地を滑るように跳ねてかわした。


「賢者ギルバート・ピアソン……ですね」


 その声と共に現れたのは、空中に浮かぶ漆黒のローブを纏う魔族の男。

 肩までの白髪に、蒼く光る魔眼。狂気と知性を同居させた異質な存在だった。


「貴様ら魔族は攻撃してから相手を確認するのか?……。

 しかし信じられん。魔族が女神の大陸に何故いる。目的はなんだ?」


「我が名はゼノムス。七魔星一柱、《消滅のゼノムス》。

 あなたには、ここで消えていただきます」


 その瞬間――


「ヴォイド――」


「遅い!」


 ギルバートが杖を振り上げるより早く、

 淡い金色の光が空間に広がった。


「《セイント・グラスバインド》」


 蔓のような聖光がゼノムスの足元から噴き出し、

 鋭く高速で伸びながら縛り上げようと襲いかかる。


「……こざかしい……!」


 ゼノムスは魔力を跳ね上げ、空中へ舞う。

 すぐさま指に魔力を掲げ――


「《シャドウサーバント》――」


「だから、遅いと言っている!」


 ギルバートの声が重なる。地面が一瞬うねり――


「《フォールン・クエイク》!」


 ドンッ!!という轟音と共に、四方の石柱がゼノムスを中心に衝突。

 崩れた床材が形を変え、四角い岩塊となってゼノムスを押し潰すように迫った。


「――石棺に抱かれ、爆ぜろ!《クロス・ノヴァ》!」


 封じ込めた岩の内側から十字の閃光が放たれた。

 爆音と共に、四方の岩塊が内側から破裂する。


 白銀の十字架が石棺を砕いた。


「……はぁ、はぁ……」


 杖を支えにしながら、ギルバートが息を整える。


「《フォール・クエイク》の初弾は完全に死角から……

 手応えもあった。……やったか?」


 その時――


「……無詠唱三連発とは、さすがですね」


 背後。血の気もない声が、耳元に突き刺さる。


「――何!?」


 振り返った瞬間、ギルバートの視界に黒い影が踊る。


「あなたが、遅い!」


 ゼムノスが静かに叫んだ瞬間、

 地面から染み出した影が歪み、形を取った。


 《シャドウ・サーバント》――


 黒い影の従者が2体、背後から襲いかかる。


 ギルバートはとっさに一撃をかわすが、

 バランスを崩したその隙――


「ッ……!」


 二体目の爪が鋭く肩を切り裂いた。


「ぐっ……!」


 返り血が宙を舞う。

 致命傷には至らなかったものの、確かな深手。

 ギルバートの片膝が地に落ちた。


 息を荒げながらも、賢者はわずかに顔を上げる。

 その視線の先には、石畳に倒れ伏す騎士たちの亡骸があった。


「……ふふ、なぜ……という顔をしていますね?」


 不意に、ゼムノスが口を開いた。口元には不気味な笑み。


「なぜ、私があなたの魔法をあれほど正確に躱せたのか――

 理解が及ばないといった表情だ……!」


 ギルバートの眉がわずかに動く。

 ゼムノスは一歩前へと出て、蒼く光る魔眼を指差した。


「ククク……答えは簡単です。あなたの“動き”が、私には“視えている”のです」


「――未来が、ね」


「魔神様より授かりし祝福。

 この《未来視の魔眼》こそ、あなた方が抱える“希望”を最も確実に潰せる力!」


 ゼムノスの声が、徐々に狂気を孕みながら高ぶっていく。


「あなたがどんな魔法を選び、どう動こうと、すべて私には先に“視える”のです!

 まるで、あなたが紙芝居の人形ででもあるかのように!」


 ギルバートの表情が僅かに曇る。


 それは、ゼムノスの言葉に怯えたからではない。

 むしろ――その“絶対性”に、自らの戦略がどこまで通用するかを測る、静かな計算の目だった。


「……彼らも、手練れだった。その眼を使って手にかけたということか……」


 悔しげに、ギルは血に染まった床を見つめた。


「しかし……なぜわざわざ、一人だけ生かして私をこの場に誘導させた?

 その兵士にまで“呪い”を刻み、確実に死なせた!」


 怒りがにじむ。


 杖を床に突く音が、広間に響く。


「答えろ……! 貴様の“真の目的”はなんだ?

 そして、どうやってこの地に侵入した!? 魔大陸からこの人類大陸への越境は、結界によって封じられているはずだ!!」


 ゼムノスは口角を釣り上げて笑う。


「質問が多いですね。ですが……目的については、すでにお伝えしましたよ?」


 魔眼が、ギルの負傷した肩をじっと見つめる。


「“我々の目的の遂行”において、あなたという存在が未来を乱す――そう視えた。

 だからこそ、ここで消えていただく。それだけの話です」


「……結界についてはどうだ?」


 白髪がゆるく揺れた。どこか芝居じみた仕草。


「ふふ。ああ、それはもう……じきに“意味をなさなく”なりますよ。時間の問題です」


「何……?」


「言葉通りの意味です。

 大陸間を隔てるその結界も、我々の手でいずれ無意味となる」


 ゼムノスの口元が歪む。


「……さて、随分と“口がよく動く”と思っていたが」


「――長話のせいで肩の傷が癒えてきていますね? 気づかないとでも思いましたか?」


「魔力検知されないように小さく仕込んだ魔法具……回復を狙っていたのですね?」


「チッ!」


 ギルは足に風の魔力を込めて後方へ跳び退く。

(無理はできんが……動かすには問題ない!)


「さて……手負いのお前を倒すには、十分だ!」


 ゼムノスが魔族語で詠唱を始める。


 二体の《シャドウ・サーバント》の影が地に溶け合い、

 蠢きながらひとつの異形へと変貌していく。


「いでよ、《オルトロス》!!」


 石畳を突き破るように現れたのは――

 双頭の巨大な魔獣。

 灼熱と氷気を纏う、まさに魔の番犬であった。


最後まで読んでくださりありがとうございます!

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