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第153話 禁書案内人《ブックマーカー》

「なるほど……こいつが原因ね」


 私はオーブへ視線を向け、足を一歩踏み込み、抜刀の構えを取る。


「――斬!!」


 ガギィィィン!!


 鋭い音とともに、私の一太刀でオーブが真っ二つに斬り裂かれた。


 その瞬間、私達に向けていた魔力の照射がぴたりと止まり、地面へと落下し沈黙する。


「なんてことはないや。本体には物理的な防御機能はなしね。」


 光が消え、空間に静寂が戻る。


 私は、すぐさま倒れこんでいるノアのもとへ駆け寄った。

 ぐったりとした彼の頭を膝にのせ、顔を覗き込む。


「ノア! ノア、起きてっ!」


 頬をペチペチと叩いても起きる気配がない。ムニムニも追加しておこう。


「ん? んん〜……だああああ、食べられちゃうよぉ〜……!」


「まったく……いつまで夢見てんのよっ!」


 私は溜息一つに刀の柄で、目覚まし代わりにノアの額を軽くポカリと叩いた。


「いったぁ……!? え、ここどこ?」


 ようやく正気を取り戻したノアが、ぐるりとあたりを見渡す。


「うわぁあ! すごい……大図書館じゃん!? ってか、館より広くない!? どうなってんのこれ!?」


「その前に、さっきの海とか空とか、あれ全部なんだったわけ!? 竜に食べられたんじゃなかったの!?」


 ノアが立て続けに叫ぶなか、私はチョンチョンと指を差し示した。


 指先には、先ほどまで七色に輝いていたオーブが真っ二つになって転がっている。


「あれが幻覚の正体だよ。たぶん、禁書庫に正規の方法以外で侵入した場合に起動する――トラップだね」


「……トラップ?」


「そう。侵入者に強制的に“命の危険”を感じさせる幻影を見せて、精神に異常なストレスをかける。つまり精神攻撃型の結界装置ってとこかな」


 私はにやり笑って、ノアの体を肘で小突いた。


「……実際、誰かさんは見事に失神しちゃってたみたいだし~?」


「うぐっ……! しょ、しょうがないでしょ!? 誰だって普通は、ああなるさ!」


「はいはい、言い訳はあとで聞くよ〜」



 パチ、パチ、パチ、パチ――



 突然、大図書庫に拍手の音が響いた。


「本当に素晴らしい!」


 高く澄んだ女性の声が空間に反響する。


「“幻死の宝玉”を真正面から打ち破る人間がいるなんて! 感動したわ」


 その声に反応し、私とノアは同時に背中合わせで構えを取った。

 私は刀の柄に手をかけ、ノアも双剣を抜いて周囲を警戒する。


「姉さん! あ、あれ見て!」


 ノアが指を差す先へ、私は振り返った。


 ――そして、“それ”を見た。


 図書庫の中央。古びた樹木のような質感を持つ台座に置かれた、一冊の巨大な本。

 そのページの中心から、白くしなやかな“手”が突き出していた。


「……うげぇっ」


(か、完全にホラーなんですけど)


「姉さんアレ、亡霊魔獣ゴースト系の敵!?」


 ページの奥から、何かが這い出してくる。


 その姿は、魔術師とも踊り子とも取れる軽やかで艶やかな装束に身を包み、

 腰まで届く銀色の長髪が、静かに床へと垂れていく。


 浅黒い肌には、淡く光を帯びた魔導の入れ墨が刻まれていた。


 恐怖と美しさがまざりあった高身の美女が目に焼き付く。


「よいしょっと。……ふぁぁ、久々の外の空気は最高ねぇ」


 彼女は四つん這いの姿勢から、静かにそして優雅に立ち上がった。


「あなた……一体、誰? 何者なの?」


 私の問いかけに、女はほんの少しだけ困ったような表情を浮かべ次の瞬間、笑みをこぼすと、小さく笑い声を漏らして言葉を返した。


「アッハハハ……それは、私のセリフよ?」


「急に知らぬ人間が押し入ってきたかと思えば、お前は誰だって――そんな自己紹介を求める侵入者がいたら滑稽だとおもわない?」


(た、確かに……勝手に入ってきたのは、私たちの方だった……非があるのはこっちかも)


 私はバツが悪そうに頭をかきながら、喋り出す。


「か、勝手に入ってきたのは悪かったわ、ごめんな――」


 その時、隣にいたノアがスッと私の前に剣で制止して、言葉を遮った。


「……姉さん。油断しちゃだめだ」


 その声音は、いつになく真剣で、少し震えているようにも見えた。


「こいつ、隠してるけど僕にはわかる……すごい魔力だ」


 ノアの瞳が、決して視界から外さないよう、静かに女を見据える。


 ノアの眼には映っていた。あの女の身体から滲み出す、ただならぬ魔力が。


「あら! 君は感じ取れてるの? これでも魔力を抑えるのは得意なほうなのだけれど」


 身体の内側だけでなく、その周囲の空間そのものが、彼女の魔力で満ちている。


「抑えるだって? 見せつけてるの間違いじゃないの?」


 ノアがすかさず返す。そして、いつでも戦闘に入れるように構えを崩さない。


 銀髪の女はただ立ち構えているだけなのに、その存在感は空間ごと支配しているかのようだった。


「とりあえず落ち着いて。私に敵意はないわよ? むしろ感謝しているの」


 女は、両手をひらりと開いて見せながら、柔らかく微笑む。


「その物騒なものは、そろそろお納めてくれない? 自己紹介もするわ」


 風もないのに、銀の髪がふわりと揺れる。


「私の名は、ヴェルベット。この禁書庫を預かる管理人にして、本の導き手――禁書案内人ブックマーカーよ」


 そして、彼女はゆっくりと頭を垂れた。



 ノアは相変わらず、まったく構えを崩していない。恐らく、彼が感じ取っていた“魔の気配”その正体は、目の前のヴェルベットに違いない。


(こいつは得体がしれない……引くべきか?)


 私が一歩判断を迷った瞬間――


「あら、まだ警戒しているの?」


 ヴェルベットは、肩をすくめるように言った。

 そして、わざとらしく小さくため息をつく。


「頭まで下げて、ちゃんと自己紹介までしたのに……私、傷ついちゃったな」


 ふっと笑みを消すと、声の調子が変わった。


「命令は、好きではないのだけど、同じことを何度も繰り返すのも嫌いなの」


 言葉が、刃のように鋭くなる。


「しまいなさい――武器を。」


 次の瞬間、私とノアの手が、まるで引き寄せられるように動いた。


 意志とは無関係に、武器が鞘へと吸い込まれる。


(体が……勝手に……!? 足もうごかない)


 ヴェルベットは、口元に小さく微笑を浮かべながら言い放つ。


「言っておくけど、この禁書庫テリトリー内では絶対に私には逆らえないから、いい子にしててね?」


(くっ……纏衣は、まだ連発できない……でも、いつでも発動できるように――準備だけはしておかないと)


 私が静かに魔力を制御しながら構えていると、ヴェルベットが、まるで気まぐれな女王のように微笑んだ。


「それでは早速、“幻死の宝玉”を打ち破ったあなたにふさわしい一冊を、贈呈しましょう」


 そう言うや否や、彼女の人差し指がスッと伸び――

 私の額へと、軽く触れた。


(……っ!)


 次の瞬間、その指先は皮膚をすり抜け、私の脳内へと侵入してきた。


 痛みはない。だが、“何か”が入り込んできた異質感は、確かにそこにあった。


(うへぇぇ……気持ち悪っ)


「……へぇ。これは面白いわね」


 ヴェルベットが、くすりと口元を緩める。


「あなた――“特別な魂”を持っているのね」


「子供の身体なのに、魂の器はほとんど成人並。それなのに、大半が……モヤで覆われていて、記憶が読み取れない。なるほど、なるほど……」


(こいつ……私に前世の“記憶がない”ことまで読み取ってる――)


 私はヴェルベットの得体の知れなさに、ゾクリと背筋に鳥肌が立つのを感じた。

 だけど、それと同時に――


(……もしかしたら、こいつなら……)


 ずっと思い出せなかった、転生前の空白の記憶や思い出、その“何か”を取り戻せるかもしれない。

 そんな希望を、どこかで感じていた。

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― 新着の感想 ―
うわぁ‼️ ついにノアが真実を知る流れに。 しかもヴェルベットという第三者の口から……。 (。ŏ﹏ŏ) これは姉不信&姉弟喧嘩が不可避の流れか⁉️ (´・ω・`)
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