第149話 異世界ロボと昼下がりの情事
私は胸を張って、描き上げた懐かしの巨大ロボのイラストを掲げた。
「見てください、この重厚なフォルム!」
私は机に転がっていた指し棒を手に取り、頭から足先、各ユニットを順番にトントンと指しながら解説していく。
「全身を覆う高強度装甲! そして多彩な兵装と追加ユニットによる汎用性の高さ!」
前世での遠い記憶、あの日の映像が、止まらない勢いであふれ出す。
(こういうくだらない事は、何故か覚えてるのよね)
「これを、ゴーレムに置き換えるなら、動力源は術者の魔力と連動させて、反応速度は意思とほぼ同時! 背部には、高機動用の風の魔石を浮遊ユニットとして搭載! 脚部の関節は、着地衝撃を吸収する魔金属構造で――」
言葉が出るわ出るわ。早口になっているのは自覚していたけれど、それでも語り出したら止まらない。
第三者がみたら完全にオタクに見えただろう。
(うっ! 流石にちょっとしゃべり過ぎた?)
夢中になりすぎて、つい一人でしゃべり過ぎてしまった私は、先生の様子を横目でちらりと確認した。
先生は俯き、神妙な顔つきで先生の手がワナワナと震えている。
(げぇ……やばっ!? 怒りで震えてる!? 先生のゴーレム美学を……私の世界のロボットデザインで汚しちゃった!?)
「か、カナリア君……一体なんなんだねこのゴーレムは?」
「す、すみませんーーっ!」
勢いよく頭を下げる。やってしまった……! ごめん。ザンガル、あんたじゃこの星は救えないかも!
一瞬の静寂。
手元の震えが止まったかと思えば、次の瞬間――
「君は……君はまさしく、“天才のソレ”ではないか!!」
「へ?」
ストラトス先生が、目を見開き勢いよく机をバンッと叩いた。
「見よ! 巨大で圧倒的な姿! 正に女神の代行者を彷彿とさせる意匠! これなら魔族や巨人族も恐るに足らず! 魔導武器も今まで以上に様々なものが装備可能だ! 出力もこれまでの比ではない! そして何よりこの術者搭乗機構……!」
ぶわっと荒くなった鼻息で、立派な髭がなびいている。……わたしよりオタク化してません!?
完全に技術者のやる気スイッチを刺激してしまったらしい。
さっきまで悩んでた人とは思えないほど、目がギラギラしてる。
「こ、こんな発想、ワシには到底おもいつかん……! これは新時代の魔造工兵の夜明けじゃああああ!!」
「ス、ストラトス先生?」
返事などない。すでに先生は図面に向き直り、ぶつぶつと独り言を始めている。
「問題は一体あたりの製造コストが……搭乗者の危険性があるものの……そこは緊急転移陣を搭載して……うむ、各主要部に巨大な魔力石も必要か……それと魔石炉を大型化して――」
……始まってしまった。
目の前で、完全に設計モードに突入してしまった職人を目の当たりにした私は、静かにイラストを抱えて一歩後ずさった。
(わ、私のノリで描いたザンガルが想像以上に火をつけてしまった)
「カナリア君! その神がかった設計図を此処に!」
「神!? せ、設計図!? そんな、だいそれたものでは……」
(へ、下手に刺激せず今はいう事を聞いておきますか)
私はストラトス先生に指示された魔導図番の台座に、ザンガルのイラストを設置した。
「お前達集合だ!」
ストラトス先生が、周囲の作業ゴーレムたちに魔力を送り込むと各所で作業をしていたゴーレムたちが一斉に集まりだす。
「……認識、完了」
「構造入力、開始……」
図面の上に光の紋章が浮かび上がり、ストラトス先生が叫んだ。
「よいか諸君! 本日よりこれが我らの新たな夢……いや、野望だ! 目指すは超魔導搭乗型――魔造戦士ザンガルの誕生だあ!!」
セレスティア聖教国の聖火派副教皇とはおもえない技術者魂に、工房の空気は一気に沸騰した。
ゴーレムたちは部材庫へと一斉に動き出し、ストラトス先生は左右に資料をまき散らしながら指示を連呼していた。
その時、一体のゴーレムがストラトスに声をかけた。
「博士、オ約束ノ時間デス」
「何っ!? もう用事の時間か! 世紀の大発明の時に、なんという間の悪さよ!」
と、とにかく熱量がすごい。
(これ以上の長居は禁物!……今が逃げ時!)
私は誰にも気づかれないよう、館の片隅にこっそりと黒雪の転移門を展開した。
(それでは、先生ごきげんよ~)
私は無言の笑顔で先生に手を小さく振り、音もなく黒雪に吸い込まれて静かに退室したのであった。
「仕方がない! カナリア君、私が戻るまでゴーレム達に指示を……ん?」
振り返ったストラトスだったが、先ほどまでそこにいたはずの天才設計士の姿はどこにもいなかった。
「お、居らん」
黒雪が生み出す空間の亀裂から、わたしはシュッっと館の別通路に出現した。
(ん!? 目の前に誰かいる!?)
その瞬間、ふたりの影が弾かれるように衝突する。
ゴチン!!
「「あいた〜っ!」」
額をぶつけ合った二つの影はお互いを軽く跳ね返させた。
その勢いで、私ともう一人は同時に尻もちをついた。
驚いて顔を上げると、そこには見慣れ過ぎた、あの顔。
「誰かと思ったら、姉さんかよ! 黒雪で急に転移してこないでよ! それ属性感知できないし避けようがないんだから」
ノアは赤くなった額をさすりながら、立ち上がる。
「ノア!? ご、ごめん ってか今までどこ行ってたのよ? 心配してたんだからね! というか、なにそれ。服、滲んでるの……まさか血?」
「ああ~これね。……ちょっとね」
苦笑いとともに、ごまかそうとするその態度が、かえって怪しい。
「どうせ、一人で迷宮にでも行ったんでしょ? 悪ガキめ〜」
私が腰に手を当てて詰め寄ると、ノアは反射的に言い訳をし始めた。
「ち、違うよ〜! あくまでライゼル先生の指導方針ですから!」
都合のいい必死な言い訳。しかも全然隠せてない。
「ふーん。行ったことは否定せず認めるわけね」
私は呆れつつも、心のどこかで少し安心していた。
怪我はしてても、憎まれ口を叩けるなら、大丈夫そうかな。
「で? その傷、大丈夫なの?」
ノアは軽く袖をまくって見せる。そこには乾きかけた細い傷跡が残っていた。
「うん、傷自体はもうほとんど塞がってるけど……一応、リーリャさんに見てもらおうと思ってさ。どこかで見てない?」
(リーリャさんか、ノアを捜すのに館中を歩き回ったけど、そういえば見かけてないな……)
その時、何処からともなく聞こえる済んだ声
「だめです。アデル様……こんな関係、いつまでも許されません。」
「僕の事、忘れるんじゃなかったの? じゃどうしてここに来たの?」
「そ、それは……あっ、だ、ダメです」
どこか押し殺したような声が、廊下の先からかすかに響いてきた。
私はピクリと反応して足を止める。
「噂をすれば、今の声……リーリャさん?」
「なんかアデル先生の声もしなかった?」
声のした方をたどると、すぐそばの階段下にある小さな物置スペースにたどりつく。物陰から微かに灯りが漏れていた。
(たしかあそこ、普段つかわない家具とか道具を積んでるだけの場所だったよね……? 片付けかな?)
けれど、雰囲気がどこかおかしい。私とノアは目配せを交わし、そっと顔をのぞかせてみると――
「……えっ!?」
目の前に広がっていたのは、まさかの光景だった。
(こ、これ……“見てはいけないやつ”じゃない!?)
メイド修道女のリーリャさんと、あの剣聖アデルが、物陰で、唇を交わしていた。




