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第132話 刀神カナリア VS 刀仙 草叢風月 ⑥ 決着と崩壊

 全てを“斬る”その一閃は、風蛇を断ち、空間を断ち、そしてフウゲツへと迫る。


「な、なにっ……!? ワシの夜刀神やつのかみが……断ち伏せられただと……!」


 相殺ではない。

 カナリアの放った斬撃は、“次元”を超越する一撃だった。


 斬線は空間に軌跡を刻みながら、衝撃波のように地面を割っていく。

 闘技場の大地に深々と走る亀裂が、まるで天地を断つ線となって広がった。


 天空闘技場の決壊がその衝撃でさらに進む。


 その中で、フウゲツは刀を構え直す。

 これまでの逆刃である“稽古の構え”を解き、名刀の刃を正面へと返した。


「おもしろい! それがお主の切り札か!――ならば、受けて立とうぞッ!」


 だがその直後、鋭い声が割って入る。


「受けちゃダメ!! 避けてッ!!」


 カナリアの叫びが、風の音を裂いた。

 それは“訴え”ではなかった。

 “確信”に裏打ちされた、純粋な“警告”だった。


(弟子の技にビビる師匠なんぞおらんわい!)


 フウゲツは、《向後天吹眼こうごてんすいまなこ》にすべての集中を注ぎ、

 迫りくる“黒刃”の流れを読み切ろうとした。


 だが――その瞬間、かつてない異常が彼を襲う。


 風月が掴んだ情報はただ一つ。視えない。

 ただ、それだけだった。


 この眼は、物体の位置や質量はもちろん、

 微弱な魔力の流れ、空気の揺らぎ、属性の干渉すらも捉える。


 なのに――その斬撃“だけ”が、この世界から消えていた。


 形も、重さも、魔力も持たない。

 空間に走るはずの風さえ、そこだけ素通りする。


 まるで“斬撃そのもの”が、世界の理から抹消されているかのように。


(……いや、違う)


 フウゲツの意識が、ぞくりと粟立つ。


(そこだけが、あまりにも“空白”だ。……だからこそ、逆に視える)


 それはまるで――

 彩色に満ちた世界に、ただ一滴だけ黒が投げ込まれたかのような異物感。

 実態がないという“異常”そのものが、輪郭のみを持ってせまってくる。


 次の瞬間、ふと自分の刀に反射して映った自分の姿に戦慄が走る。


(死相が出ておる!)


 反射的に、フウゲツが全力で身体を跳ね上げ、カナリアの一撃を躱した。


 直後――彼の手にあった名刀が、黒刃にふれた瞬間空中で真っ二つに裂けた。


 ギィィィィィン……。


 破片は虚しく宙を舞い、やがて乾いた「カシャン」と音を立てて、地に落ちた。


 時間が止まったかのような静寂の中、通り過ぎた斬撃が遠方の雲海を裂き、淡く光が差しみ天空闘技場を照らす。


 二人が激しく争った天空の闘技場は綻び、砂は崩れ亀裂が入り始めている。


 木刀を杖のように支え、膝を震わせながら。

 額に浮かぶ汗。荒い呼吸。

 今にも倒れそうな体勢で、それでもカナリアは前を向いていた。


「数多の死線を乗り越えてきた飛燕が――いとも容易く、折られた……!?」


 フウゲツは小さく呟き、右手に残った柄の感触を確かめる。

 だが、次の瞬間には、視線をすぐに前方へと戻していた。


「いや、それよりも――」


 《向後天吹眼こうごてんすいまなこ》が、カナリアの全身を捉えていた。


 視えてしまったのだ。

 魔力の流れ、体内の巡り、異常な体力の損耗。

 そして――限界を、遥かに超えた“枯渇”の深さ。


 それはまるで、干からびた雑巾を、なおも絞り続けているかのような消耗。

 一滴の魔力さえ、もはや残されていない。


 絞り切った末に、雑巾の繊維ごとねじ切れてしまいそうな、そんな“限界のその先”。


(……常人であれば、一週間は意識すら戻らぬ状態じゃ……)


 それでもなお、カナリアの刀神の身体能力と、気力のみによって立つという行為を成立させてしまっている。


 その姿を見たフウゲツは、真剣な口調で語りかけた。


「ギルバート殿から少し話をきいているぞ。……以前、敵の将を倒したとき、これよりも強い技を使ったのか?」


 カナリアは、何も言わなかった。

 唇をかたく閉ざし、視線を落とす。

 答えたくないのではない――答えるのが、怖かった。


「答えろッ! 本当かッ!」


 鋭く突き刺すような声が飛ぶ。


「……はい」


 わずかに震える声が、空気を揺らした。

 それは、後悔か、罪悪感か、覚悟の重さか。


 フウゲツの目が、わずかに細められる。

 彼の中で何かが、静かに変わっていく気配があった。


 沈黙の中で、フウゲツは一歩、ゆっくりと前へ出た。


 目は、カナリアから逸らさない。

 そのまなざしには、怒りも呆れもない。

 ただ、ひとりの“剣士”として見ていた。


「……カナリアといったな。同じ“刀”を使う剣士として、申し伝える」

「その得体の知れぬ力を使い続けるのなら――刀神としての“剣の道”を、諦めよ」


 その言葉は、“叱責”ではない。

 “警告”でも、“感情”でもない。


 ――それは、“宣告”だった。


 己の信じる剣の道を曲げず、ただ正面から相手に正直に伝える。

 それが、剣士フウゲツの矜持だった。


「恐らくだが……今の斬撃」

「魔力で補えていない場合――お前自身の“命”を、削って使っている」


 フウゲツの声は、淡々としていた。

 感情を交えることなく、ただ事実を述べるように。


「威力は、一撃必殺。そのかわりに……一発放てば、今のように立っていることもままならぬ」


 そして、わずかに目を細める。


「魔力の使い方を制御できぬまま、その力を使い続ければ――いずれは、死ぬぞ」


 その言葉が落ちた瞬間だった。


 その言葉と同調するかのように、カナリアとフウゲツが立つ天空闘技場に、「バキィッ――!!」と甲高い裂け音が走る。


 続いて、轟音。


 足元の大地に、無数の亀裂が奔った。


 フウゲツの奥義《夜刀神やつのかみ》による暴風、二人の剣戟、そしてカナリアが放った“異界アビスゲート”の一閃――


 それらすべての余波が重なり、すでに限界を迎えていた闘技場は、ついに空中崩壊を始めた。

 亀裂が一気に拡がり、地面が崩れ、岩が落下し、床が抜け落ちる。


 二人は抵抗する猶予も与えられず――

 空の海へと放り出された。

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― 新着の感想 ―
ふぉ⁉️ 威力は凄かったんですね! (´⊙ω⊙`)! しかし、命を削るのか。省魔力で起動できるようになるのが今後の課題かな? (´・ω・`) 足場は崩れちゃったけど、風月のおっちゃんなら空くらい風…
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