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第111話 迷宮(ダンジョン)攻略⑪ 二度目の覚醒

 黒く歪んだ重力球体が、ゆっくりと――だが確実に、押し潰すように落下してくる。


 パキ……パキ……ッ。


 三角錐の牢獄にひびが走り、紋様が軋みを上げた。


 やがて――


 バリバリバリッ!!


 天井の結界面が砕け、上空に潜んでいた球体がその全貌を現す。


「なんて魔力の塊なの……!」


 重力の魔球が視界に入った瞬間――


 ズゥン……!!


 空間ごと、圧し潰されるような衝撃が降りかかる。

 その直後、魔法の固有結界内にジェミニの“死の重力カウント”のアナウンスが響き渡る。


 《排除対象の周辺重力加重、現在27G》


 思わず、カナリアの肩が僅かに沈む。

 空気が揺らぎ、骨の奥にまで“重さ”が染み込んでくる感覚。

 全身を押し潰すような、異常な重圧が彼女を襲う。


「っ……ぐ……!! お、重い……っ!!」


 肺が潰れ、喉が塞がれ、呼吸が奪われる。

 鼓膜が軋み、視界がぐにゃりと歪む。


(……このままじゃ、まずい!)


 カナリアは力を振り絞り、刀を構えて――

 結界の内壁に向け、渾身の一撃を叩き込んだ。


 ――ギィィィンッ!!!


 だが刀はわずかに食い込んだだけで、それ以上は通らない。


(……っ、硬い!? なにこれ……! あいつの本体より硬いかもしれない……!)


 《排除対象の周辺重力加重、47……58……69Gに到達》


 その間にも、黒い球体はじわじわと落下を続けていた。


「立ってられない……っ」


 カナリアは刀を杖のようにして体を支えようとする。

 だが、背骨が悲鳴を上げ、ついに膝が崩れ落ちた。


 突き立てた刀は、重力に押されて、ぎりぎりと地面に沈み込んでいく。


 ――ズゥゥゥン……!


 《排除対象の周辺重力加重、72Gに到達》


 “無慈悲なカウント”が、低く、脳内に刻まれていく。


 ――ズン……ズン……ズン……

 まるで、死神が心臓を踏みつけてくるかのように。


 支えていた腕が震え、ついに――力が抜けた。


「カッ……はっ……っ」


 喉から洩れたのは、かすれた呼吸音。

 酸素が足りない。意識が遠のく。思考も身体も、重力に沈んでいく。


 刺した刀が深く沈んでいくのと同時に――

 押し潰されるようにして、カナリアの身体が地面に伏せられていく。

 もはや、這いつくばるような姿勢を保つのが精一杯だった。


 《排除対象の周辺重力加重、100Gに到達》


 常人なら即座に圧死する領域。

 刀神の名を背負う少女ですら、もはや地を這うことしかできない――それが、“死の重力”だった。


(体どころか指一歩も動かせない……!)


 すべての質量が、彼女一人に集約されたかのように――。


 《対象の生命反応を確認》

 《排除対象の危険度スコアを上昇処理中……》


 《再復帰確率0%を確認――完全拘束、完了》

 《最終殲滅フェーズへ――移行》


 ゴゥゥン――!


 ジェミニの胴体が唸りを上げ、装甲部が一斉に展開・変形を始めた。

 両腕部は胴体へと格納され、胸部と背部のフレームが左右へスライドする。

 脚部は地中深くまで固定され、安定機構が作動――


 ガチャコンッ! ガシャァン!!


 機体上部が迫り出し、大砲の砲身のような円筒構造が前方へとせり出す。

 それはもはや“魔導砲台”という域を超えていた。

 大戦時に竜神を屠るために設計された、真の“殲滅兵器”そのもの。


 ――まるで、“要塞”そのものが動き出したかのように。


 砲身の内外部に幾重もの魔導陣が浮かび上がり、

 その中心では、歪んだ重力と高密度の魔力が渦を巻いていた。

 音すら吸い込み、辺りが不気味な静寂に包まれていく。


 ウィン……ウィン……ウィィィィィィン!


 内部で魔力炉が共鳴を始め、

 超圧縮された魔力が円筒の奥で臨界に達しようとしていた。

 ジェミニのコアに埋め込まれた無数の魔導パイロンが赤熱し“その時”へ向かっていく。


 《主砲モード:展開完了》

 《ターゲット:ロック》

 《対単体・殲滅兵装――“エクスグラビティ・クラスター” 起動準備中》


 《チャージ開始、8%……14%……21%……》


 カナリアの身体は、うつ伏せのまま――

 それでも、なんとか視線だけを上げて、迫るジェミニの砲口を見据えていた。


 視界は滲み、重力に押し潰されかけた思考は、もうほとんど働いていない。

 だが、彼女の唇が、かすかに動く。


「……もう――迷ってる、場合じゃない……! こいつをぶっ壊す……!」


 カナリアは禁忌の力を解き放つ。本気の解放は魔将ダウロに続いて2回目であった。


 ピシ……ピシ……ピシ……ビシシシ……ッ! バリィィン!!


 カナリアが魔力を解放した刹那、彼女の周囲の空間が歪み、稲妻の如く亀裂が走る。

 空間そのものが、内部から“圧”でひび割れていく。


 左肩に刻まれた《刀神の核印》が脈動し――

 本来、核印の周囲に浮かぶはずの“聖環”の代わりに、黒く染まった一文字の漢字が浮かび上がる。


「門」――


 その異形の印は、まるで封じられていた何かを開放するかのように軋み始め、

 ギギ……ギギギギ……ッ!!

 音を立てて“開いて”いく。


 その奥から滲み出したのは、歪んだ異界の気配の象徴――


 "黒雪"


 漆黒の空間の狭間から染み出すように、黒い結晶の粉雪が舞い始め、

 カナリアの周囲を静かに、しかし確実に“世界から分離”し始める。

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