第110話 迷宮(ダンジョン)攻略⑩ 殲滅モード
視界の端で、レーザーによる衝撃でまた地面が抉れた。
光の奔流が一瞬だけ走り、空気が灼ける匂いを残して消える。
(左腕の修理以降……一番危険なレーザーの、長時間連射は撃ってはこなくなったけど……)
絶え間なく続く新手の攻撃の嵐は、止む気配を見せない。
グギュルルルルルルルルルル――ッ!!
古代兵器ジェミニの両肘から展開された《ガトリング砲》が、唸りを上げて回転する。
金属質の砲身から、魔力で凝固された実弾が容赦なく撃ち出される。
ドドドドドドドドドド――――ッ!!!
(コレも厄介なんだよね!)
撃ち出される魔砲弾は、空気を裂き、地を穿つ。
その一発一発に確かな質量があり、着弾のたびに土壌が爆ぜ、熱風と砂煙が吹き上がる。
通常の魔弾とは異なる、“土属性”の重みを帯びた弾丸。
しかも、それはどこまでも供給され続けていた。
――地中に埋めた脚部から、絶え間なく吸い上げられる土や石。
胴体内部の魔力加工炉で即座に成形・圧縮され、砲弾として装填。
撃つ→地面から再補充→撃つ――
そのサイクルに、ほとんど隙はなかった。
目で捉えたその刹那――
カナリアは刀を身構える。
放たれる土属性弾丸の一つひとつを、
鋭く、正確に――高速の剣技で、すべて弾き斬る。
斬る。斬る。斬る。
一発たりとも見逃さず、飛来する弾丸をすべて真っ二つに斬り裂いた。
その剣筋は、まるで刃が“事前に魔弾の軌道”を把握しているかのような超技巧。
刃と弾丸が衝突するたびに火花が咲き、空気が震える。
金属と刃が交差し、火花が狂ったように宙に舞う。
瞬間瞬間の判断が命取りになる中、カナリアはすべてを捌き切る。
刹那の動作を重ね、カナリアは着実に距離を詰めていく。
「此処っ!」
(銃身が過熱して、強制停止……そこが唯一の“冷却時間クールタイム”なんだけど……!)
カナリアはわずかなスキを狙い、跳んだ。
すれすれで回避しながら、さらに懐へと踏み込んでいく。
だが――
ブシュウゥゥッ!!
次の瞬間、ジェミニの胸部装甲が開いた。
「っ、またそれ……!」
噴き出すのは、焼けつくような火炎。
あたり一面を赤熱の奔流が覆い、接近の隙を封じるかのように燃え広がる。
カナリアの視界が、真紅に染まった。
「うわっ、熱っ……ッツツ!」
(近づけさせないための火炎放射。ガトリングの“冷却時間クールタイム”を埋めるために……完全に組み込まれてる)
「あーもう! 本当面倒くさーー!」
炎の死角から、音もなく放たれた2本のレーザーが、弧を描いてカナリアを襲う。
(――ッ!?)
咄嗟に身体をひねり、地を蹴って飛ぶ。
肌を掠める熱線に、思わず歯を食いしばった。
その軌道は、明らかに彼女の《頭部》と《心臓》を狙ったものだった。
(忘れたころに、これが飛んでくる……ホントにもう……なんでもアリかよ、こいつ)
それは、あらゆる間合いと進路を“封鎖”する、
極限まで設計された攻撃パターンだった。
「……正直、ジリ貧だね」
八方塞がりの状況に、思わず心の声が漏れた。
火炎、弾幕、死角レーザー――すべての圧が一斉に押し寄せてくる。
まるで生き物のように攻撃を編み出す構造体を前に、カナリアは静かに思考を巡らせた。
(……倒す方法は、ある)
視線の先、地に根を張るように構え続ける巨体。
(あいつは、あの場から動けない……なら――)
喉の奥で熱い息を飲み込む。
脳裏に浮かぶのは、自らが持つ禁忌の力――《異界の門》の斬撃。
(“門を発生させる為に放つ、空間を断つ斬撃”……断界剣なら、いける。あいつのボディを真っ二つにできれば、機能を奪える)
けれど――そこに、わずかな懸念が生まれる。
空間を斬り裂きこじ開けるその斬撃は、確かに一撃必殺。
だが同時に、膨大な魔力を瞬間で消費する。
それを放った瞬間、動けなくなるのは確実――
(コアを仕留め損ねれば、自己修復で再起動されて、こっちが詰む)
動けなくなった私を前に、ジェミニは一切の躊躇もしないだろう。
そして何より――
(“異界アビスの門ゲート”を使えば……ギルバート様に、“力の全容”を明かすことになる)
その時、絶え間なかった猛攻が、ふと途切れ空気が冷たく凍りつく。
生のない機械音声が再び稼働を始めた。
《新コード生成完了。既存コード……書き換え進行中25%》
《レーザー射出抑制システム 新コード生成完了の為、復帰準備中》
(こいつのレーザー……故障してたんじゃなくて、ただの“省エネモード”だったってワケ?)
(攻撃を控えてたのも、全部計算の内かい)
突如、ジェミニの足元から――無数の幾何学模様と回転する歯車状の魔法陣が放射状に展開していく。
模様は立体的に重なり合い、やがて空間全体を包むようにドーム状に形成されていった。
それはまるで、ジェミニを中心とした魔法の“固有結界”――絶対領域の戦場と化していく。
地面が揺れ、景色が変質し、魔力の流れが狂い始める。
《ブースト出力を100分の100に再設定……再実行 成功》
《当該モードを――“迎撃”から“殲滅”へと移行》
シュゴォォォッ!!
白煙が舞い、魔力の衝撃波が四方へと炸裂。
まるで全身に組み込まれた“圧縮噴射炉”が一斉起動したかのような破壊的なブーストだった。
大気すら巻き込みながら、ジェミニの存在が一段階“格”を上げていく。
――その直後だった。
ジェミニの足元――そしてその背後、左右、上空。
六角形の紋章が空中に浮かび上がり、いくつもの魔法陣が彼を阻むように展開された。
淡い光と符号が走り、まるで“吸い上げるように”、
ジェミニの本体から魔力が吸収されるように消えていく。
――強制停止用の魔導封印陣。
しかしジェミニは、それすら感知していた。
《外部干渉を検知。敵戦力の想定内行動として処理を開始。魔導制御コード……照合中》
展開された魔法陣の光が、ひとつ、またひとつと明滅を止め、音もなく砕けていく。
封印の“術式”が解除されていくごとに、ジェミニの圧が増していく。
《外部からの転移を検知。座標を特定中……》
次の瞬間――
カナリアのすぐそばに、二つの転移陣が淡く輝きながら展開される。
助太刀を意図した光。その魔力は、まさしく見慣れた“仲間たち”のものだった。
それと同時に、首にかけた磁空石の首飾りから賢者ギルバートとストラトスの声が響いた。
「カナリア、いますぐ離脱しろ! ジェミニの強制停止が阻まれた!」
「想定以上の出力だ! 私とギルバート殿が直接行って葬りさる!」
ノアの声がかすかに混じる。
「ね、姉さんは……無事なの!?」
カナリアは、一瞬聞き慣れた声に安堵したが、
この異常事態にすぐさま問いかける。
「先生達!? こいつは一体なんなんですか!?」
だが――
その転移陣に、重なるように別の紫色の魔法陣が浮かび上がる。
まるで反転コピーされたような、逆位相の魔導式――
《反転遮断式 適応完了》
ぴたり、と転移陣に重なったその瞬間。
光が内側からねじれ、音もなく消える。
《転移陣、強制解除――完了》
……音が消え、魔力の途切れを感じる。
そこにあったはずの“希望”が、わずか数秒でかき消された。
援軍すら拒絶するかのように、空間は内側から――“断絶”された。
(転移の阻止!?……先生も、こっちに来ようとしてたってことは――
“想定外”のピンチって訳ね。本当、笑えない)
その直後――
カシィンッ!
ジェミニの背部から、四つのビット状ユニットが一斉に射出された。
それぞれがカナリアの周囲へと高速で移動し、等間隔に空間を囲むように配置される。
地上に三点、上空に一点――
次の瞬間、それらを結ぶように淡い光のラインが収束し、空間を閉ざす。
ギィィン……!!
組み上げられたのは、鋼のように硬質な魔力の三角錐状の結界。
カナリアを中心に展開された、それはまるで標的の“収容”を目的とした魔導の牢獄だった。
次の瞬間、ジェミニの胸部中央――装甲が左右に展開し、
内部の動力炉コアが露出した。
ゴウン……ゴウン……と、重く響く起動音。
炉心が明滅しながら、内部で魔力圧縮と収束が始まる。
《エクスグラビティ・システム 起動》
重く低い駆動音とともに、三角錐の頂点――
カナリアの真上にあたる空中座標に、黒く渦巻く球体が出現する。
それは、見る者の“本能”を揺さぶるほど――
異様な魔重力の塊だった。
グゥゥゥゥゥ……!
唸りを上げながら、球体がわずかに膨張し――
三角錐構造全体に向けて、“内側から押し潰す”ように超重力を発生させながら落下を始めた。
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