第108話 迷宮(ダンジョン)攻略⑧ 超越技術(オーバーテクノロジー)
(テルヴオルド……それって賢者ギルバートが言ってた四大災獣の一角!?)
ゴーレムの頭部が、カチリとわずかに傾いた。
その目にあたる魔石から、一本の赤い光線が発射される。
一直線に伸びた光は、カナリアの額を狙い、ピタリと照準を合わせてきた。
――空気が、低く唸る。
静寂を破るように、耳鳴りのような高音が滲み出す。
キュイイイイイイイン――……
魔石の中心から、ごくわずかに先の空間が揺らめき始める。
そこには、球体状に圧縮された魔力が形成され、まるで息を潜めるように膨張を続けていた。
今にも暴発しそうな、凝縮された“破壊”の塊だった。
フィン……ジジジジジジジ……!!
閃光が弾け、空気が悲鳴を上げる。
焼けるような白銀の線が一直線に伸び、カナリアの頭部を貫こうと迫る。
「なっ!?」
カナリアは反射的に跳躍した。完全にはかわしきれず、閃光がうっすらと頬をかすめ、赤い線が走る。
頬に、ヒリつくような熱が残る。
跳躍の軌道上――焼け焦げた風が追いかけてくる。
(“警告”なんかじゃない。……コイツ、最初から私を殺す気だ――!)
空中で体勢を整える彼女の視界の端に、赤熱した軌跡が焼きつく。
跳躍した直後、背後の地面が、レーザーの余熱でドロドロに溶け落ちていくのが見えた。
(ほんの一瞬遅れていたら……今ごろ、あれに焼かれていたのは私の頭……)
地面にまっすぐ伸びた赤い照準線が、跳躍するカナリアの動きに合わせて軌道を変える。
その動きに連動するように、魔眼から放たれるレーザー砲も軌跡を追いかけてきた。
(まだ、ロックオンされてる!?)
レーザーは絶え間なく照射され続け、ついさっきまでカナリアがいた位置を正確に貫いた。
――スパン。
レーザーの通り道にあった岩が、彫刻のように斜めにスライスされて崩れ落ちる。
地面は一直線に焼け焦げ、蒸気と砂塵が一瞬で吹き上がった。
照射先の遠方では、大木の幹が――いや、直線状すべての樹木が、何の抵抗もなく薙ぎ倒されていく。
そのたびに、木々が斜めに倒れ、岩が滑り落ち、森の一角が静かに“死んで”いった。
レーザーの追跡は、もはや直線ではなかった。
赤い光線は空中でいくつもの角度を描きながら、まるで生き物のようにカナリアを追い詰めてくる。
複雑に曲線を描く閃光――その全てを、カナリアは刀神の身体能力で間一髪のところで回避していた。
(くっ、軌道がランダム過ぎて、どこからどう来るか……っ)
後方から、斜め上から、足元すれすれを薙ぐように――
ひとつでも反応が遅れれば、その時点で終わりだった。
(このままじゃ、逃げきれない……!)
そう思った瞬間だった。
追尾してきていたレーザーの光が、突然、わずかに減衰し始めた。
強烈な赤光が徐々に細くなり、軌跡が弱々しく揺らぐ。
(……エネルギー切れが近い!?)
(これだけの威力のレーザーを、連続で撃ち続けてたんだ。そりゃ、そろそろガス欠にもなるよね……!)
一瞬だけ、胸の奥に小さな希望の火が灯る。
(いける――あと少し、持ちこたえれば……!)
そう思った、その刹那。
《魔素補給シークエンス、開始》
無機質な音声が、機体の口元スピーカーから響く。
《レーザー出力の減少を確認。限界閾値まで残量28%》
《魔素補給シークエンス、開始》
ゴゴゴ……ッ。
両肩の装甲が、左右に“カバッ”と勢いよく展開する。
まるで何かの格納庫のように開いた内部から、細長いクリスタルのような物体がせり出してきた。
淡く輝くその水晶体が、空気中に漂う魔素を吸い上げるように脈動し始める。
周囲の空間が揺らぎ、見えない力が一帯の魔力をかき集めていくのがはっきりとわかる。
「ちょっ!?」
補給装置が魔素を取り込むのと同時に、再び赤い光線が力強く走った。
しかも、先ほどよりもわずかに軌道が鋭く、速度も上がっているようにすら感じる。
(補給“しながら”撃つって、なにそれ反則すぎない!?)
《排除対象の困難レベルを再評価。戦闘困難度、LV上昇》
《迎撃パターンの追加を実行。変化プロトコル、展開中》
背面がせり上がり、そこからカタパルト状の構造物が姿を現す。
開いたハッチの内部には、魔石をコアにした飛翔体がずらりと並んでいた。
シュゴォォッ!!
推進の爆音とともに、熱を帯びたロケットが不規則な軌道で飛び出し、カナリアを包囲するように襲いかかる。
(正面のレーザーと、背後のロケットで挟み撃ち!?)
魔力をまとったそれらのミサイルは、奇妙な唸り声を上げながら一斉にカナリアの動きを追尾し始めた。
カナリアは刀を強く握りしめ、静かに呼吸を整える。
(逃げられないなら……全部、斬る!)
迫ってきた一発目に向かって、正面から踏み込んだ。
刀がうなりを上げて閃き、飛翔体を寸前で断ち切る。
爆発を起こす前に瞬時に離脱し、次の飛翔体へ。
二発、三発――
追いすがるロケットを、カナリアは一つずつ、正確に、斬り落としていった。
背後から迫るミサイルは、残り一発。
だがその軌道は鋭く、避けるだけでは済まない――確実に、斬る必要がある。
だが、正面には依然として赤いレーザーの閃光が走り続けていた。
(くっ……!)
(ミサイルを斬れば、レーザーに撃ち抜かれる……
でも、レーザーをかわしたら――ミサイルを斬る“時間”がない!)
わずか数秒、いや、刹那の判断。
どちらも“外せば死”。
動けば焼かれ、止まれば爆ぜる――そんな挟撃のど真ん中に、彼女は立たされていた。
(爆風……利用できるかもしれない!)
刹那の判断の末、カナリアは地面すれすれに飛び込み――
背後から迫ってきたミサイルを、その軌道上で斬り伏せた。
爆発寸前、カナリアはあえてその場から移動せず、直後に地面が激しく閃光に包まれる。
――ドォォン!!
衝撃波が背中を押し、土煙と熱風が一気に吹き上がった。
(痛っ……でも、いける!)
その瞬間、彼女の身体は爆風に乗るように前方へと弾き出されていた。
まるで跳躍すら超えた、射出に近い速度で――ゴーレム《ジェミニ》へと、一気に距離を詰める。
爆風に乗って軌道を外れたレーザーの隙を抜け、
カナリアはそのまま“殺意の塊”へと突撃する鋭い刃となった。
「――断つッ!」
カナリアの眼前に、ゴーレムの巨体が迫る。
肩の魔素補給装置を狙って刀を振り上げたその瞬間――
ガギィン!!
装甲が反射的に閉じ、クリスタルを守る。
「そこを守ると思ったよ!」
カナリアは即座に進路をずらす。
すれ違いざま、刀を逆手に構え、重心をひねりへと込める。
爆風の加速を乗せたまま、刀神の一撃が叩き込まれた。
――ギンッ!!
鈍くも鋭い金属音が響き、手応えが走る。
斬撃は装甲の隙間を穿ち、関節部の魔導骨格を裂いた。
切断線が一瞬だけ白熱し、次の瞬間――《ジェミニ》の左腕部が、
金属音を響かせながら“ずるり”と胴体から滑り落ちた。
切断された部位から、火花が飛び散る。
金属のフレームが軋みを上げ、むき出しの魔導回路がバチバチと青白く閃く。
巨体がわずかに傾ぎ、地面を踏み鳴らして体勢を保つ。
(よし、通った! ……けど、ビリビリ腕が痺れるくらい硬い!関節部でこの強度!?)
だが《ジェミニ》は、驚くことも焦ることもなかった。
淡々と損傷状況を解析し、次の行動を選び取るように計算し続ける。
《当該対象の運動量・反応速度・攻撃出力を解析――総合判定:聖印階級SSS以上》
《損傷箇所確認。修繕装置、起動》
直後、胴体部がパカリと開き、
内部から複数のアームと器具のような装置が展開された。
傷ついた関節部に向かって、自動的に接合修理行動が開始される。
火花が収まり、破損部位が“自己修復”されていくのを、カナリアはただ目で追った。
(冗談じゃない……どこからが魔法で、どこまでが技術だっていうの……!?)
(――完全にぶっ壊れの殺戮兵器が相手だなんて、聞いてない!)
カナリアはこの想定外の状況にも、焦燥を押し殺し、冷静に次を見据えていた。
もしもの事態――この機体が“まだ進化を残している”可能性があるなら、
禁忌の門を開く――その覚悟と共に、体内で魔力を静かに練り上げはじめていた。
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